その4
翌朝、冒険者ギルドに訪れると何やら大きな声が聞こえて人だかりが出来ていた。
「そこを何とか。荷物を1週間でアルトライトに届けないといけないんです。」
「おい、おっさんそれは無茶だぜ。ここからアルトライトへは最低でも2週間はかかるぜ。」
「街道沿いに行けばそのくらいかかるでしょう。成功報酬で金貨5枚、いや10枚出します。森を抜ける護衛をお願いします。」
「確かに金貨10枚は魅力的だ。だが命あっての商売だ。割に合わないぜ。」
「それは分かってる。そこを何とか。」
「すみません。只今、依頼を受けられそうな高ランク冒険者はこの町に滞在しておりません。やはり街道沿いに移動するしか・・・。」
まだ言い合っている・・・。
一行に話がまとまらない。あ、引き下がることにしたようだ。冒険者ギルドを出たあたりで声をかける。
「あの、護衛の件、引き受けましょうか。」
あー、え?って顔してるな。
「Fランク冒険者のレイン。こう見えても魔法が使えるんです。役に立つと思いますよ。」
「おお、それは助かります。申し遅れました私はアレフと申します。この近辺で商人をしてます。ここで立ち話も何なので、荷物と一緒に他の護衛が居ます。そちらに合流しましょう。さあ、あちらです。」
あれが荷物だろうか。馬車と一緒に2人組が見える。あの2人が護衛なのだろう。
「おーい、追加の護衛の件だが1人しかダメだった。こちらが冒険者のレインさんだ。魔法が使えるという。」
「Fランク冒険者のレインです。
「俺はロイド。D級冒険者だ。こちらは連れのユーリ同じくD級冒険者だ。」
「よろしくね。レインちゃん。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
「で、嬢ちゃんはどんな魔法が使えるんだ?冒険者に色々と詮索するのはよくないと分かっている。しかしだ。今回は危険が伴う。何ができるのか知っておきたくてな。」
不信がられてるな。これから素性の知れない人間とパーティーを組むのだから同然だ。すぐには信頼は得られないが、実力は示しておく必要があるだろう。
「えーと、魔法と回復魔法が使えます。見ててくださいね。」
離れの大き目の岩に目がけてサンダーを放った。10mくらいの高さから電撃が岩に直撃した。
うん、岩壊せるほどの威力はないね。でも焦げ目くらいはついたかも。
「つぎは回復魔法。この光がライトヒール。簡単な傷なら治せるよ。」
チラ・・・。どうだろうか。連れて行って貰えないと困る。
「うむ、戦力になりそうだな。実力を試すような事を言って悪かったな。」
「遠距離攻撃に回復魔法があるのは頼もしいわね。」
「ただし、こちらの方がランクが上だ。基本的にこちらの指示に従ってもらう。それでいいか?」
「それでいいよ。」
「皆さん、話がまとまったようで。さっそく出立したいと思います。」
えー。すぐになのね。
「待って。宿屋に荷物が。30分ほどで戻ります。」
「おう、待ってるぜ。食糧などの補給は馬車にあるからな。」
お世話になった宿屋のカミさんに宿代を支払と挨拶も済ませた。忘れ物もなさそうだ。
「お帰り。早かったわね。」
ダッシュしましたから。
「じゃ、行くぞ。道中に今後の計画など説明するからな。」
「1日目に森の手前まで移動してそこで一晩明かす予定だ。暗くなる前に到着するが、進める所まで進んで森の中で野営する訳にはいかないからな。」
「森って魔境と呼ばれてるのですよね?」
「ん?魔境?魔境とは違う森だ。森なんて其処ら中にあるだろ。」
魔境じゃないの!思いっきり魔境に行くものだと思ってました。レベル上げしたかったのに・・・。
「森に入るまで大事は無いと思うが、魔物や盗賊に警戒だ。」
1日目に森手前で野営。そこから3~5日かけて森の中を行軍。森を抜けてから1日かけてアルトライトへ到着。という計画のようだ。
戦闘に関しては、馬車の護衛が最優先。中の人は比較的安全。馬がやられてば輸送が困難となる。馬まで守るとなると話が変わってくるんじゃあ・・・。難しくない・・?
基本はロイドさんが前衛を務める。剣とライトシールドを装備している。ユーリさんが弓と剣だ。遠距離から弓でけん制して、近距離では剣を使うタイプのようだ。
「よし、この辺りでいいか。ここで野営するぞ。」
特に何か起きるわけでもなく、野営地点に到着した。ちょっと丘になっていて周りを見渡せられるポイントを選んだようだ。
昼飯?そんなのは歩きながらだよ。それが冒険者スタイル。
「アレフさん、今夜は豪勢に行きたい。栄養のあるものを頼む。次はいつ食えるか分からないからな。」
「レインは周辺から火種を集めてきてくれ。」
「じゃあ、私は野草を探してくるわね。」
「ああ、頼んだ。」
「木集めてきたけどこのくらいでいい?」
木の大きさだとか、枯れ具合だとか、量だとかさっぱりわからない。
「その3倍程頼めるか?火は朝まで絶やさないようにしたい。」
「わかった。」
さて集めおわったぞ。
アレフさんとユーリさんが、何かの肉を切っている。何の肉かな。
石を並べて釜土を作り木を並べた。火打石かな。枯れ草に火をつけようとしている。あ、ついた。
やっと料理の全容が見えてきた。肉野草の鍋と串焼きだね。
4人で集まって暖を囲う。
「さ、そろそろいいかしら。」
鍋の蓋を開けてみる。いい匂いがする。美味そうだ。
うまい。野草が効いているのか肉に臭みがない。スープも絶品だ。十分の肉汁が染み出していてる。
串焼きの方はというと硬かった・・・。うん、贅沢は言うまい。
「レインちゃん、夜は冷えるわよ。これ使って。」
「ありがとう。」
ここの地域は昼夜の寒暖差が激しいのだ。
さすがに空気読むよ?すでに対策済みですなんて言いません。
フィールド効果無効のアイテムを装備しているのだ。ゲームでは火山地帯や永久表土での能力低下を防ぐアイテムである。
暑い寒いは現代っ子には耐えられないからね。
「ねえ、ちょっと訪ねてもいい?」
「なに?」
「そんなに若いのになぜ冒険者に?しかも女の子一人で。」
ち、近いよ・・・。
これはありのまま話したら、真面目に答えてよって怒られそうな雰囲気だ。
「えーと、今までこの世界から隔離されたような場所で暮らしてたんです。それが突然1人になってしまって生活するために冒険者になりました。」
・・・。
・・・・。
「そう、いろいろあるのね。」
「ええ、こちらの世界は今までの常識が通用しなくて分からないことだらけですが。」
「何かあったら、私たちを頼りなさい。力になれることがあるはずよ。」
「わかった。」
抱きしめられた。
2人とも同郷なのだという。幼馴染のロイドは子供の頃から冒険者に憧れていて「大きくなったら冒険者になる」といつも言っているような子供で「じゃ、わたしもなる!」って感じで過ごしていたらしい。15才で村を飛び出して冒険者になったそうだ。20代前半に見えるから冒険者歴5~7くらいなのかな。
「2人ともちょっといいか?夜の見張りの順番を決めたいのだが。」
「いいわよ。」
「最初はレインで、次が俺、ユーリの順番でいいか?」
「いいよ。」
「じゃあ時間になったら次の人と交代してくれ。火は絶やさないようにな。砂時計が落ち切ったら交代してくれ。」
ここは言っておいた方がいいだろう。何日も同行してれば隠し通せないだろうし。
「実は探知系のスキルを持ってまして。」
管理画面からマップを開いて見せた。現在地と周辺の地形がわかります。こやって拡大縮小が出来て・・・。赤い点が魔物。青い点が味方。白い点は中立です。」
いつの間にかアレフさんも参戦しいて食い入るように見ている。食いつき抜群だ。
「レインさん、これは凄いスキルですぞ。」
「すごーい。わたしにも触らせて。」
「あれ、触れないわ。」
他人は触れないようだ。
「それで明日もマップとやらは使えるのか?負担はあるのか?」
「一日中使えます。スキルの事は内密にお願いします。」
どうやら気に入ってもらえたようで何よりである。




