その22
「ベルトガール伯爵様の使いで参った。この付近で鉱山が発見されたとは本当か?」
取引先の商会または競合する商会経由で嗅ぎつけられたのか?
付近には採掘または加工を行う施設や鉱石を運ぶ作業員がいる。
これでは鉱石が取れない等と取り繕っても無理があろう。
族長さん、腕の見せ所ですよ。
「いえ、鉱山だなんて・・・。採掘量も微々たるもので・・・。」
「では何か?、まったく鉄が採掘できないというわけではあるまい。多少でも取れるわけだな?」
「そうですが・・・。」
「では、少し見させてもらう。ここが採掘の施設でいいのか?」
「はい・・・。」
「うむ、わかった。領内で資源を発見したならば直ちに報告が必要という事を知らなかったのか?これは重罪だぞ。」
「・・・。」
「どうした?答えよ。」
「知ってはいましたが、採掘量も少なく、わざわざ報告するまでもないと・・・。」
「まあいい・・・。伯爵様に手荒な事は止せと言われている。この件は伯爵様に報告する。後日また来る。」
あわわ。なんかやばそうな展開に。
「レイン様、これから、ど、どうしましょう?」
「どうすると言われても・・・。重罪ってどの位の刑罰になるんですか?」
「軽くて奴隷落ち。村人全員までとは思いませんが何人かは・・・。」
「俺も含まれます・・・?」
「ええ。悪く判断されれば首謀者になるかと・・・。」
首謀者扱いで奴隷落ちですって!
奴隷になったらイヤな事でも拒否出来なくなるんですよね。
ジュース買ってこい言われて買ってきたらこれじゃねー!みたいな。
「・・・。」
奴隷ダメ、ゼッタイ。
こちらは報告とか、そんな法律があるなんて知らなかったんですが。
「マスター、お気の毒なのにゃ。」
「何と言ったらよいのか・・・。出来る限り協力するぞ。」
村人を集めて今後について話し合うことになった。
「皆の者、集まったようだな。本日、領主様の使いが来て鉱山を見て帰られた。我らは鉱脈発見の報告を怠った罪人扱いである。伯爵様の使者はまた来られるそうだ。幸い数日がかかる。その間に皆と相談し対策を考えたい。」
「まさかその様な事態になっているとは・・・。」
「うむ、このままでは、何人かは奴隷落ち。鉱山も伯爵様に没収されるであろうな。」
「なんですと・・・。」
「鉱山は我々が発見して、ここ1ヵ月、寝ずに作業してやっと形になったのです。それを取り上げるだなんて・・・。領主様といえど横暴ではないのか。」
「そうだ、そうだ。」
へ?
鉱山は我々が発見した・・・だと?
そもそも鉱山何てものは存在しなかったんじゃなかろうか。
魔高炉で無理やり鉄分成分を取り出してるだけだよね?
魔高炉の効果を隠しているから、村人達はそんな認識になっているの・・・か!?
「このまま、伯爵様に没収されるわけにはいきません。やっと生活に余裕ができて、少しばかりの贅沢・・・お酒が飲めるようになったのです。」
「なんだと!これからは酒が飲めなくなるって事か!」
「酒が飲めなく・・・領主様といえど、没収はやり過ぎだ。」
「その通りだ、もしも、そうなるのであれば徹底抗戦であるな。」
「ま、待て、領主様と戦って勝てるとでも?何人の兵がいると思ってるんだ!」
「こちらにはレイン様がいるではないか。」
「おお!」
「村の英雄レイン様!」
「そうだったな。レイン殿の神器があれば騎士が何人来ようと負けることは無いだろう。」
「・・・。」
「レイン様が戦って下さるならば百人力だ。」
「レイン様、このままでは奴隷落ちですぞ。我らも一緒に戦います。」
「任せて下され、我らが奴隷落ちからお救いしますぞ。」
「武具を頂けるのであれば、我ら死兵となって戦いまするぞ。どうか武具を!」
「・・・。」
お酒が飲めなくなるから戦うって言ってるように聞こえるんですが・・・。
それに、俺自身の力量を当てにしてるんじゃなくて、武具を使ってみたいだけだよね?
「これこれ、レイン様も困っておられる。続きは後日でよろしいかな。」
「さて、どうしたものか・・・。」
「セフィ、助けてよ。」
「一緒に夜逃げでもしようか。ははは・・・。」
「そんな・・・セフィ殿、見捨てないで下さい・・・。我々の生活がかかっているのです。」
「ああ、軽率だった。すまんな、族長。」
「報告の義務があるだなんて知らなかったんですが、どんな法律になってるんですか?」
「この辺りは伯爵様が治めているとご存じかと思います。そして領内で発見された資源は領主に帰属する事となっております。少ない産出量ならば個人所有で問題ないのですが大きな鉱山となるとそういう訳にはいかず・・・。そして、今回の使いは産出量を見極めに来たのではと。」
なるほど。
「では、産出量的に個人所有が認められるか、没収されるか、どちらなのでしょう?」
「こう言っては何ですが、没収されるかと・・・。」
「そんなにも価値のある物だったの?」
「いえ・・・、こう言っては何ですが没収する理由など如何様にもできるのです。すでに我々は重罪人にされそうですし。」
最悪は没収の上に奴隷落ち。次点が奴隷落ちまたは没収である。
奴隷落ちを免除する代わりに鉱山を没収する等。鉱山採掘についてある程度の裁量は認めるが罪は許されない等。組み合わせは多岐ですべては伯爵様の出方次第だ。
個人的には奴隷落ちは許容できない。
「なぜこんな事になるのか・・・。伯爵様だからと言って許される事なの?」
「領有権と実効支配の問題にゃ。」
「領有権と実効支配?」
「そうにゃ。」
にゃん先生曰く、
実効支配とはその領土を統治している者または実効支配する行為を指す。
鉱山および村人は伯爵様の実効支配下という扱いである。
鉱山は村人達が直接実効支配している。
領有権とは領土の正当な支配権を持つ者を指す。
では、領有権はどうすれば得られるのだろうか?
1つは先祖代々何百年にもわたってこの土地に住んでいた。これだけで十分に領有権があると言える。住んでいた行為が実効支配に相当するのだ。つまり何百年間も実効支配していたと同しである。
その他には、領有権を持つ者から買い取った。これも金銭という対価を支払い買い取った訳であるから領有権を得たと言える。
あれ?
基本的に、実効支配=領有権ってなるんじゃ?
実は同じにならないのだ。
代表的な例をあげると、領有権を持つ者から武力によって奪った場合だ。この場合は、別の勢力が軍隊を置いて実効支配しているが領有権は従来よりその土地に住んでいた者であって領有権までは奪えないのである。
領有権は、その土地に住んでいた年数によって重みが増す。例えば、その土地に千年前から住んでいた者から実効支配権を奪い百年が経過したとしても領有権が移ったとは言い難い。その子孫が領土復帰を望む限り領有権は子孫に受け継がれるのだ。
逆に少ない年数ならばどうなるのか?十年前がら住んでいたが武力によって奪われ百年が経過してしまった。こうなってしまうと領有権があるのか怪しくなってくる。
「つまり、つまり、先祖代々住んでいた土地で鉱山を発見したのだから我々にも鉱山の権利は十分にあると・・・。そういう事ですかな?」
「そうにゃ。」
「まずは、この主張で話し合うべきかな。もしも、武力で訴えられた場合どうします?」
「うむ。戦うとしたら分が悪いと思うぞ。仮に軍隊を撃退できたとしても戦うだけで反逆罪だ。そして反逆者討伐の第一軍、第二軍が編成されるだろう。もしも負けて捕らえられれば今度は死罪だぞ。それに何処まで戦うのだ?」
ん?
何処まで戦うのだ・・・?
意味がわかりません。
「セフィ、何処まで戦うのだ?ってどんな意味?」
「戦場の範囲だ。」
はて?戦場の範囲?
ああ、村と鉱山の防衛戦になるのか。
「もちろん、村と鉱山の防衛戦。」
「違うな。防衛戦を繰り返したとしよう。では、どのくらい防衛戦を行うのだ。あちらが軍隊を送ってくる限り終わりがないであろう。それに何回か防衛に成功したとしても伯爵も領主だ。統治能力無しと侮られるわけにもいかない。いずれ大軍を送られて終りだ。ならば、こうなる前に伯爵を討ちに行くのか?運よく討てたとしても、こちらは賊軍。その後は国軍が相手だ。」
そういうことね!
うん。やっぱり争いはよくないよね。
「族長さん、村人で戦いたがってる人達がいた気がするので、戦わない方向で説得をお願いします。」
「わ、わかりました。元より戦うつもりなど微塵もありませんでしたぞ・・・。」
いえ、どちらかと言えば抗戦派だったような・・・。
ん?なにか忘れている気が・・・。
「報告しなかった罪の件はどうなったんでしょう?」
「・・・。」
「・・・。」
「もう、いっその事、鉱山なんて無かった事にしませんか?あれ、鉱山だなんて名ばかりで、ただの石を加工しているだけですよ。」
「・・・。」
「ねえ、族長さん、ただの石だって知ってるでしょ。一緒に立ち会って観てましたよね?」
あ、目を反らした・・・。
族長さんも同罪くらいの立ち位置だと思うのだけれど。
まさかとは思いますけれど、こちらに罪をなすりつけて自分は免れようだなんて考えてないよね?
そんなに鉱山が大切なの・・・?
それとも、こういう状況は慣れっこなの?異世界じゃ当たり前なの・・・?
実効支配、領有権(あくまで個人的な解釈)
退屈な内容かもしれませんが、後々の争いに絡んでくる(予定)ので書かせて頂きました。