その21
オスカラ村に近づくとモクモクと煙が上がっているのが見えた。
「おお、レイン殿。」
「こんにちは。しばらくぶりです。こちらはセフィ。旅先で出会って同行してます。」
「セフィだ。よろしく頼む。」
「村も元通りで活気が戻ってきましたね。」
「ええ、おかげ様で。」
「あの族長は何処に?」
「族長は鉱山ですかな。」
「わかった。行ってみるね。」
あ、にゃん先生。
こちらを見つけるとすぐに近寄ってきた。にゃん先生は4足歩行もできるのね。2足歩行は愛らしいが4足歩行は結構なスピードだ。
「マスターにゃ、会いたかったのにゃ。」
ゴロゴロ。
そしてスリスリ匂い付け。
「レイン、そ、それは・・・?」
「にゃん先生です。とても賢い使い魔です。こちらはセフィ。しばらく同行する事となりました。」
「よろしくなのにゃ。」
「触ってもいいのか・・?」
「どうぞ。」
ナデナデ・・・。
「かわいいな。それに、この手触り・・・。見事なものだ。」
「そうかにゃ。セフィとやら、お前はなかなか見所があるのにゃ。」
「これはレイン様。お久しぶりで。」
「族長さん、こんにちは。しばらく見ないうちにすごい事になってますね・・・。」
ここには、野晒しで魔高炉だけだったはずが、1、2、3・・・5軒の建物とトロッコと線路が50m程だろうか、整備されている。
「おかげ様で。」
「今、どんな状況で?」
族長さんとにゃん先生の話では、近くの町の商会と契約を結ぶことができた。そして1日の生産量は金貨3枚相当になってるとの事。支払いは現金ではなくても、需要品と物々交換可という契約だ。
輸送に使う馬車は手配済みで10日に1回の頻度で町に運び、帰りに必要な物資をこちらに運ぶ。現在は、にゃん先生の指導の下、高度な加工品の作成の準備をしていて、すでに簡単な物なら加工できるようになっているそうだ。
「なるほど。いい感じ。」
「すべてあたいの力にゃ。」
「さすが先生です。」
「て、照れるのにゃ。」
「あの、族長さん、クエストの報酬は・・・?」
「おお、忘れることろでした。金貨5枚でしたな。」
忘れないで。
出し渋らないところを見ると、かなり懐が温かいのでは?
「ありがとう。」
それにしても、1日金貨3枚か。1ヵ月で金貨90枚。加工品ができればもっと増えるし。
そもそも魔高炉を貸しているのだから何割か貰えないのだろうか。
むしろ普通、貰えるよね・・・?
「セフィには退屈だったかな?」
「そんな事はないぞ。レインはこんな事も手掛けていたのだな。」
「建物の中に入ってみる?まだ見た事無いので。」
「そうだな。」
建物を見学しながらセフィにはこれまでの経緯を説明した。
「レイン様も戻ってこられたし、今夜は宴ですな。」
「あ、うん。」
そして宴が始まった。
「レイン様にはお世話になりっぱなしですな。魔物退治から始まり、食べ物を分けて下さったり、そして魔高炉と言いましたかな。あのような物まで・・・。族長として心からお礼申し上げまする。」
「え、ええ・・・。」
「レイン様には、ずっと居てもらいたいですな。」
「そうだ、レイン殿も、もうお年頃。うちの若い衆に気に入った者はおりませぬか?」
「気に入った御仁がおられたら遠慮なく申されて下され。」
いやいや、そんな気ないってー。
「まだ、未成年なので。」
「わが種族は、そのくらいの年頃でも、ぜんぜん気にしませぬぞ。」
「これこれ、レイン殿が困っておる。そのくらいにせぬか。」
「また、魔物が出たりしませぬかな。もしも出ようなら、わしの魔法で仕留めてやりますわい。」
それ、あなたの魔法じゃないから。アイスロッドの力ですから。
「レイン殿、最初見た時から只者ではないと思っていましたぞ。そしてじっくり見たらやはり只者では無かったわい。はっはは。」
「あ、ありがとう御座います。」
なんか、今日は絡まれると思ったらお酒だ。
みんな飲んでやがります。お金が入ったからかな。
あ、セフィも絡まれてるな。エルフの姉ちゃんよぉとか言われてそう。
にゃん先生はと・・・。居た。うん。子供と遊んでいるね。人気者だ。撫でられたり、猫じゃらしで遊んでもらってる。
「族長さん、お願いが。また魔物を取って来たので加工をお願いします。干し肉とか作ってくれると助かります。」
「わかり申した。明日、村の物に手伝わせると致しましょう。」
これでセフィの食事分も何とかなりそう。毎回、町で買った食べ物を食べててちゃ破産してしまいます。
翌日、食材の加工をお願いする。
「こんなにたくさん・・・。」
「ちょっと多かったかも。」
「いえ、やる気が出ます!」
こんなにたくさん貰えるの!?って顔しないで。
それ、保存食にするの。
わ、わかっていますよね・・・?
にゃん先生は鉱山かな。セフィを連れて鉱山へ向かう。
「そうにゃ、その調子にゃ。」
「それが商品に加わればもっと村が潤いますな。」
「そうにゃ、これから村のインフラを整備して情報網を構築するのにゃ。」
「我々は、にゃん先生について行きますぞ。」
ん?
情報網・・・?インターネットみたいな?それ作るの?電気も無いのに・・・?
ま、まさか俺の魔法を動力源にするのでは・・・。ふとイヤな予感がした。
「あ、マスター、おはようにゃ。」
「おはようございます。レイン様。」
「これは・・・工具ですか?」
「鉄を熱して叩いて伸ばす、形を変える程度の加工技術しか御座いませんが、これだけでも色々な物が作れるのですぞ。」
金槌やクワなどの農機具や工具が置かれている。全鉄製ではないが耐久力や硬度の求められる部分は鉄製だ。
「で、ですか・・・。」
地球では見慣れている物で、それよりもショボイ感じがするので特に感想は無かった。
「にゃん先生、こんな物を手に入れたのですが・・・。」
「こ、これは・・・!?」
「ダンジョンで見つけた未鑑定の魔導書。にゃん先生は何かわかりますか?」
「うむむ・・・。」
「なかなか珍しい物を持っているのだな。」
「何か知ってるの?セフィ。」
「何度か目にした事もあるし実際に使ってみたこともあるぞ。これは・・・文字や装飾から察するに何かの魔法書のようだな。」
「マスター、さっそく使ってみるのにゃ。」
「え?せめて鑑定してからにしましょうよ。危ない物かも知れませんし・・・。」
「貸してみるのにゃ。」
にゃん先生が魔導書に手を触れると辺りに明るい光が放たれた。光が弱くなり完全に消えると魔導書もなくなっている。
「使っちゃった?」
「むむ、これは・・・。あたいを見るのにゃ。」
なんと、にゃん先生が空中にぷかぷかと浮いていた。
「フライという魔法にゃ。ついに飛行能力を手に入れたのにゃ。」
あまりに嬉しかったのかそこら辺を飛びまわっている。
フライ?飛行魔法だなんてゲームには存在しなかったぞ。まさか、ゲームに存在しない魔法を覚えることができるのか?
もしも、そうならば、すごい事なんじゃ・・・。
「にゃはは。我こそは大空の主にゃ。」
大空の主って。浮かれてますね・・・。
あ、墜落した・・・。
慌てて墜落現場に駆け寄る。
「マスター、目が回るのにゃ。それに何だかとても疲れたのにゃ。」
これ、魔力切れかな。
「これ飲んで。MPポーションです。」
ごくごく。
「ありがとうにゃ。楽になったのにゃ。」
どさくさに紛れてモフモフしちゃいます。
「レイン様とご一緒してると驚かされる日々ですな。」
「た、大変だー。族長。」
「どうした、そんなに慌てて。何事だ?」
「はあはあ・・・。領主様の使いが来ています。」
「何だって!?」
「これは・・・厄介ごとになるかも知れませんな。伯爵様の使いとあっては会わない訳にはいかぬ。ここにお通ししろ。」
しばらくすると領主様の使いがお供を連れてやってきた。