その10
カン、カン、カン・・・。警鐘が鳴り響く。
「魔物だ~!!」
武器を手に取り急いで表に出る。
すでに交戦が始まっているようで狼煙台の上や防護柵の隙間から弓を撃っている。
「状況は?」
「正面に20くらい。」
あれがジャイアントゴブリンか。大きな棍棒を持っている。動きは遅いが確かに大きい。
あれは魔法なのか、光が見える。光は防護柵に向かって放たれているが手数が少ないし何より威力も低い。しばらくは大丈夫だろう。ジャイアントゴブリンに防護柵を破壊されるとまずい。
木の板の盾と鎧を身に着けている。いくら弓を撃ってもびくともしない。
「おーい。魔物が何匹か侵入したぞ!そちらを頼む。」
遠くから声が聞こえる。
「ジャイアントゴブリンは任せて。」
サンダーを放つ。ダメージは受けたようだが動き続ける。ならば、サンダーレインだ。
周辺にサンダーが降り注ぐ。大型魔物にはサンダーが多段ヒットするのだ。さすがのジャイアントゴブリンもサンダーレインを受けて動かなくなった。
「おお、やったぞ。」
「なんという魔法だ。」
「魔物が引き上げていくぞ。」
マップで確認する。村の中もに赤い点が無く、村の外の赤い点が散らばっていくのがわかる。
ひとまず、危機を脱したようだ。見渡すと怪我人がいるようなので手当てを始める。
「だいぶ楽になりました。ありがとう御座います。」
「なんと、回復魔法まで。」
「レインさんはもしや高名な冒険者の方で?」
「いえいえ、Dランクの冒険者ですよ。」
敵襲の後じゃ寝られそうもない・・・。明日以降の対応を考える。
普通の魔物は倒れるまで向かってくる。仲間が倒されていても向かってくる。
しかし、先ほどの魔物は違った。ジャイアントゴブリンが倒されるとあっけなく引き上げたのである。
その違和感から不安を感じていたのだ。知能の高い魔物?それとも指揮官がいる?
翌朝、早めに起きて朝食の準備に取り掛かる。レインちゃんの野外お料理教室の開催である。
大きな鍋3つに水を入れて火にかける。大サイズにブツ切りにした肉を入れてグツグツとゆで始めた。村で取れた野菜と匂い消しに薬草を入れてみた。そして塩と香辛料を入れる。あとは灰汁を取りつつ煮込むだけだ。
え?味はわからないよ。
「おはようございます。昨夜はありがとう御座いました。」
「おはようございます。こちらこそ。」
「朝食の支度ですかな。私共にも手伝わせてください。」
フフ。それでは重要な仕事をお願いしちゃおうか。
調味料をストレージから出す。
「味付けをお願いします!」
ついに解体もお願いしちゃおうか。
「それとこちらの調理をお願いします。」
丸ごとウルフとボアをストレージから出す。これで村人全員に行き渡るはずだ。
「いま、これを何処からお出しに・・・?」
「ああ、こういうスキルなの。」
「レインさんはやはり高名な冒険者の方で?」
「いえいえ、Dランクの冒険者ですよ。」
ん?このやり取りはどこかで・・・。
「族長さん、昨夜の事なんですが襲撃は以前からあんな感じで?」
「はい。ある程度の被害を与えると引き返していきます。」
「頻度は?」
「連日の時もありますが、2日に、3日に1回の場合もあります。」
「では、奴らの狙いは?」
「・・・。恐らくですがこちらの戦力や出方を伺う斥候的な役割かと。」
「ふむ。このまま、守りを固めて防衛勝利を重ねれば勝てる見込みは?」
「無いでしょうな・・。幾ら勝利を重ねてもあくまで斥候。本体をたたかない限りは・・・。」
「では、何れ撃って出るつもりだったので?」
「・・・。そのつもりでした。冒険者ギルドの戦力と力を合わせて・・・。ところが当てにしてた戦力がレインさん1人でして・・・。」
きゃぁぁ。そうですかー。
食べる。食べる。そして食べる・・・。
「しくしく・・・。美味しい・・・。」
村の人達に栄養を取ってもらおうと、奮発したお肉でまさか自分が慰められようとは。
「お姉ちゃんお肉美味しいね。でも、こんなに美味しいもの食べてるのに何で泣いているの?」
「すごく美味しくて感動して涙が出ちゃったの。」
「そうなの・・?」
「うん。たくさんあるからお腹いっぱい食べてね。」
「ありがと。こんなにお肉食べたのは久しぶり~。」
周りからワイワイ騒ぐ声や笑い声が聞こえる。十分に食事を取ってお腹いっぱいになったからであろう。この村に来てはじめてだ。みんなピリピリしてたもん。
さて、お仕事の時間である。
「族長さん、みんなを集めてくれます?これからどうするか作戦を・・・。」
「みんな集まったようですね。」
「さて皆の者、これからこれからどうするか相談したいと思う。何か意見があれば頼む。」
「その前に、怪我人がいたら呼んできてください。」
この村に到着する以前に負傷した負傷した人たちが居たのだ。
集まってもらった怪我人にライトヒールをかけて回る。
「おお、傷が・・・。」
まだ痛むかもしれないが、大分良くなったのではなかろうか。
「儂は腰が・・・。」
「わたしは肩コリが・・・。」
魔物との戦いで負傷した方を対象にしてるのだけど・・・。
「おお、奇跡だ・・・。」
「長年苦しんだ儂の腰が・・・。」
なにこのお爺ちゃんお婆ちゃんにマッサージしてるような感覚は。喜んでくれて何よりだが。また、再発すると思うけどね。
「これからですが、軍備、防衛に村の力を入れてもらいたいのです。」
まず、そう伝えた。
話が長くなるので要約する。
防衛力を強化する。
武器を生産する。主に弓。
戦える者は戦闘参加。
そしたら、案の定、色々な不満の声が上がった。
「魔物と戦うだなんて・・・。」
「私たち生活もあるんです。武器の生産だなんて・・・。やってる暇はありません・・・。」
などなどだ。
それに対し、今は魔物と戦う力が一番必要であること。
今だけ生活に注いでいた力を戦う方に何割か割り当てる。
と、説明した。
「でも、生活が・・・。」
主に主婦の方々。うん。やっぱり生活が大事だよね。
族長ヘルプ~。族長の方に目をやる。
族長さんの協力がないと何も進められません。新参者ですから。
あ、目を反らした・・・。
ならば次の手だ。ストレージからクエストで討伐した魔物を出した。そして1つの山が出来上がる。
「ここに食料はあります。当分は食べていけます。」
もう一度、族長の方に目をやる。
「ここは、レインさんの言う通りじゃ。今は生きるか死ぬか村の存続の問題である。みんな協力してくれ。」
よし、食べ物で釣り成功。お腹を空かせてることくらいわかっているのだよ。
「こんなにも食べ物を下さるなら・・・。」
「まあ、これだけあれば、毎日、ステーキ三昧よ!」
いあ、全部食べるつもりじゃ無いよね・・・。




