生き物
○『動物』と『魔物』
この世界における『動物』とは、神託によって神から授けられた知識をまとめた書物、『ライブラリ』に記載がある生物、またはそれらと類似性が認められる生物の事をさす。神が定めたルールによって約千年かけて六十万種以上の『動物』が発見されている。
そしてライブラリに該当しない生物を『魔物』と名付け、『動物』とはカテゴリを分けて研究を進めており、現在、『魔物』は亜種を除いて125種の存在を確認済み。『魔物』は人に対して明確な敵意を示すものが多く、かつ大部分の魔物は、オオカミやクマ等の大型の肉食獣よりも高次の捕食者である場合が多い非常に危険な存在である。
ただし、都市部のような学問の最先端を行く場所での教育であれば、こういった『魔物』といわゆる『猛獣』を含む動物は生物学上、明確にわけて取り扱うが、地域によっては『危険な生き物』として猛獣や魔物を一括りにしてしまうことが多い。何十万種と存在が確認されている野生動物に比べれば魔物の種数や個体数なんて些細なものであり、地域によっては魔物なんて遭遇することなく一生を終える人もいるため、日常を妨害するに足る『危険な生き物』か『それ以外』か。この世界を生きるほとんどの人にとっては、その程度の認識で充分ともいえる。
・ヒト
この世界に住む知的生命。自分たちの存在をライブラリにのっとり『人』と呼称。都市部の文化レベルは近世ヨーロッパの人類と同等くらいだと思っていて頂ければ。人類と違うのは、1/3ほどの人口が魔素と呼ばれる物質を利用した『魔法』という現象を自在に扱える点。
人類同様『人種』という概念があり、規模の小さな部族まで数えるとほぼ無限の種類が存在する。以下に世界人口で占める割合が多めの人種を紹介する。
→リーラ
色白の肌で、全体的に色素が薄い。人口の割合としては世界の1/4を占める。
→カランカ
リーラより黄色がかった肌で、色素もほどほどに濃い。割合は多くなく、局所的。
→ゲルナー
リーラとほとんど見分けがつかない。戦闘技術に長けた者や強力な魔法を扱う者が多い。
→モレド
肌の色が黒く、色素も濃い。割合は多くないものの広い地域に住んでいる。
・カワマス
一年を通して川を住処とする魚類の総称。手掴みはリリーナの十八番。
ベルガ山脈から流れる冷たい清流を好み、大陸全土の河川上流、中流域に広く生息しているため、川沿いの集落では食用として漁獲される。水揚げされたものは木材が多く確保できる上流域では燻製に、流通が盛んな平野部では酢漬けや塩漬けといった保存食に加工される。大小さまざまな大きさのカワマスが存在する。
川があればいつでも手に入る魚達であるから、有史以来旅人達の胃袋を満たしてきたと言っても過言ではない。
・ヴェルカ二アンウルフ
『巨狼』の俗称の通り、およそ2メートルの体躯をほこる大型の肉食動物。毛皮は剛毛が多く一般の衣類には向かないが、強度、保温性に優れるため寒冷地仕様の鎧などに加工される。多くは深い森や高山に生息するが、嵐の季節など食糧が枯渇する時期には人里付近まで降りてくる。
異なる大陸でもライブラリに記載のある『オオカミ』の仲間は確認されているが、ヴェルカ二アンウルフほど巨大化した例は他にない。巨大化した理由として考えられるのは、ヴェルゲルミア大陸には彼らオオカミよりも高次の捕食者である魔物が少ない事。そして、ヴェルゲルミアの冬の寒さを乗り切るための戦略である事の2点が考えられる。捕食者がいない分隠れるために小さな体である必要もなく、寒さに対抗するために生まれてくる幼獣も強く大きな体で生むように進化したため、一回の交配で生まれる個体数はしっかりした体の幼獣が一頭となる。
最初期に家畜化された動物であり、「ヴェルカ二アンドッグ」の名で親しまれていて、近年ではもちまえの剛毛を捨てたもふもふの毛並みの犬種が登場し大人気となっている。2m以上のもふもふが現存するならめっちゃ欲しい。
・ヴェルカジカ
大型の草食獣で、雌の個体は3mほどの大きさにもなる。通常は山岳部の標高の低い地域に生息しているが、餌が枯渇する嵐の季節や冬には、標高の高い場所や平野部の森にまで進出する。
大型化した理由としては、捕食者の巨大化戦略に対する防御を目的としたものであると考えられ、それを裏付けるようにヴェルカジカの気性も荒く攻撃的である。山間の村落がこのシカたちの食害にあい壊滅したという事例も存在する。多くの地域で害獣として扱われ、駆除対象になっている。
・ヴェルカ二アンベア
標高の高い山に生息する大型の肉食獣。『大熊』の名の通り3~5mの体長をほこり、山道で遭遇したらまず助からない。巨体を維持するためにはそれだけ多くの食事が必要であり、山一つが成体一頭のテリトリーであり、餌場となる。冬眠前の繁殖期には一つの山に食事に飢えたつがいがいる場合が多く、ヴェルゲルミアの領地内に山岳地帯を持つ領主は、夏の終わりごろに山を閉鎖する場合が多い。
・馬
馬。馬車をひいたり、騎馬に使われたりする。選択的交配によって脚力は高められ、走る時速は最速60km/hほど。馬車でも25~40km/hは出る。多くの大陸で陸の移動手段として重宝されている。
・龍
現在確認されている中で唯一、雲海よりも上の高度に生息している生物。高濃度の魔素に覆われていないと体が泡状に融解してしまうため解剖もすることができず、体内の構造は一切の未知とされてきた。
『ライブラリ』に類似の生物が見つからなかったことから『魔物』と分類されている。『龍』という名前も絵本や童話に語られる空想の生物からとった名前であり、生物学的な詳しい分類もされていない。わかっていることは一年の中で一度、秋の間に二週間ほどの期間を使って大陸間を渡るという生態だけだが、その理由も不明で、渡りの道筋も規則性が無く決まっていない。食料についても、魔素だけだとか、雲の中の氷の粒に住む微小生物だとか、事実とは紐づかない推論の域を出ない。
此度のセントアロー号との遭遇によって、乗客の果物ナイフに付着した体組織のサンプルを入手。組織の9割以上が水でできている事、体液は無色透明で無味無臭、粘性が高いということが判明した。また乗客の目撃情報によると、個体によって大きさにばらつきがあったことから、子を成し成長していく性質も推測される。『渡り』の季節性は繁殖期、彼らにとっての性成熟のようなライフステージと何か関係があるのだろうか。