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MONARCH  作者: 29-Q
第二章

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日常と非日常

登場人物紹介


・フラウ [12] [女]

過去の記憶があいまいな少女で、モナークと同じ師を持つ。食欲旺盛なお年頃。

偽名:フラン


・ウィリディス [9] [男]

何に対しても控えめな少年。他人の目が気になるお年頃。

偽名:トリシャ


・アウラン [12] [女]

活発で楽観的な少女。色恋気になるお年頃。

偽名:ウ―シェイ


・ビオラク [14] [女]

何もかもが謎に包まれた寡黙な少女。

偽名:ステラ


・モナーク [15] [男]

裏の世界では『英雄』として名をはせる男。伝説的な偉業を成し遂げてきた帝国特務機関一の凄腕エージェントではあるものの、その正体は一切不明。

偽名:エイブラ


・バディ [17] [男]

帝国特務機関に所属する運び屋。出自などは一切不明。モナークとは就任以来の仲。みんなのアニキ。

偽名:イッシュ

「よし、じゃあ俺の言う通りの順番で材料を混ぜてもらおうか」

キッチンに踏み込んだフラウは、今から一体どんな訓練が始まるのかと身構えた。バディはドアの前で硬直する彼女の背中を押すようにして移動させ、キッチンのテーブル前に立たせる。

「まずそのボウルにバターと砂糖を入れてくれ」

『バター』がどれのことかわからなかったため、テーブルの上に並べられた材料を一つ一つ指差しながらバディの顔色を伺っていき、それだ、と言われた乳白色のれんがの様なものを手に取る。その瞬間、握る力が強かったのかバターはぐにゃりと変形した。

「あぁあぁ、まあ混ぜれば同じか。次はもっと優しく掴めよ?」

バディはバラバラになってフラウの指の間からこぼれたバターのかけらを拾い集めて、白くサラサラとした半透明の砂、おそらく『砂糖』と一緒にボウルに入れていく。

「...さて、卵の準備は俺がやるから、お前にはスパイスの下ごしらえを頼もうか」

そう言っておろし金と何かの根っこのような物と、すり鉢と干からびた植物のような物を渡される。

「その根っこみたいな奴、『生姜』はすりおろして絞り汁だけ俺にくれ」

「...絞りかすは?」

「食っていいぞ」

「わかりました」

生姜を下ろして一つまみ口にし、うえっ、とえずくフラウを横目に、バディは笑いをこらえながら卵を別のボウルに割り入れてとき始める。肩を並べるようにしてフラウは言われた通りに生姜をすりおろしていく。

これならできそうだと、自然とフラウの口元がほころぶ。

「ただいまでーす」

玄関の扉が開いて、アウランの声がした。買い物に行っていた二人が帰ってきたようだ。アステアが階段を降りてくる音がして、楽しそうに会話する声が聞こえてくる。

「お?何や二人して楽しそうに」

買ってきた野菜をキッチンに運び込んできたアウランが楽しげにこちらを覗き込んできた。

「おー、おかえり二人とも。今こいつに『クッキーの作り方』を教えてんだ。完成したら食わしてやっから、お楽しみに」

「まじすか!?そりゃ楽しみっすよぉ、上で待ってますね!」

アウランは帰り際にフラウの肩を二回はたき、ウィンクをする。

頑張れ、とでも言いたいのだろう。

「よし、生姜はそんなもんでいいぞ。次はカルダモンと...言ってもわかんねえか、その枯れ草みたいなのを全部すり潰してくれ、殻は取れよな」

「...取った殻は?」

「食っていいぞ」

「嘘はやめてください」

殻付きのものの殻を取り、言われた通りにすり鉢でスパイスをすり潰してていく。すりこぎ棒のゴリゴリと小気味のいい音が心地よく、フラウは思わず笑みがこぼれた。ふと顔を上げると、バディは卵をとき終え手持ち無沙汰な様子で、微笑みながらこっちを見ていた。

「な、何です?...私、何か変ですか?」

「変じゃない、それでいい」

「...そう、ですか」

「よし、じゃあそれ全部こっちのボウルに入れてくれ」

バディはバターやとき卵を練ったものが入ったボウルをフラウの方へずらす。言われた通りにスパイスの粉末をボウルに入れた。

「あとはこいつを入れて」

「っわ」

ボフンと白い粉が舞い上がり、視界が白いもやで埋め尽くされる。

「けほっ、っけほ...な、何するんですか!」

「すまんすまん、勢いよすぎたな、はは」

「はは、じゃないですよ...ほんとに」

「悪かったって。ほら、こいつを混ぜてくれ」

ボウルに入っているものを掴み、思わず手を引いた。

「うわ」

「どした」

「い、いえ、何か変な触り心地で」

「代わろうか?」

「い、いえ、私の訓練ですから」

フラウはひたすらボウルの中のものをこねた。生地を思い切り握ればぽろぽろと指の間から溢れていく。握る力を弱めれば崩れる事なく、まとまりが生まれた。

ふう、と一息ついて、顔を上げる。目の前の窓から差し込む午後の日差しは暖かく、額は少し汗ばんでいた。


懐かしい。


ふと、そんな感覚がした。

いつの記憶だ?

似たような景色に女性の笑い声が響く過去の情景が、一瞬だけフラウの脳裏をよぎる。

「...今、何考えてる?」

「...っえ」

突然バディに声をかけられて我に帰った。

「特に、何も」

「それじゃ美味しいクッキーはできねえぞ。いいか?料理ってのは、気持ちを込めればそれだけうまいもんができるんだ」

「はあ」

「だからこの場合、作ってあげる相手のことを思いながら、生地をこねたり、焼いたりしなきゃいけねえ」

「相手の、こと」

「上のガキ共でも、ウラヌスの奴らでもいい。とにかく食べて欲しい奴の事を思いながら生地を練ってみろ」

「...わ、わかりました」

再びフラウは生地を練りはじめた。


アステアさん。どんなに失敗しても優しく励ましてくれた。どうすればこれ以上迷惑かけないで済むかな。

孤児院の子供達。クッキー、すごく楽しみにしていたっけ。失敗できないな、これは。

アウラン。最近話してない。忙しそうで、それなのに何もできない自分が申し訳なくて。美味しいって言って欲しいな。

ウィリディス。ここに来てから話す回数は増えたけど、やっぱりまだ上手く話せない。...美味しくできたら、もっとちゃんと、彼と話したい。

…ビオラク。最近全然会わないな。どこにいるんだろう。もしかして、モナークと...。


思わず手が止まる。

「どした?...お、いい感じだな」

「え」

「生地だよ生地。もう練らなくていいぞ」

バディはボウルに布巾をかぶせて、日陰になっているキッチン台の隅に持っていく。

「一時間くらい生地を寝かせるから、しばらく自由時間な」

「え、あ、はい」

そう言ってバディはキッチンを出て行く。

自由時間と言われてもフラウは特にやりたい事もなく、隣の部屋の食卓から椅子を引っ張り出してきて腰掛けた。

ふう、と一息つく。

 半開きの窓から吹き込む風がカーテンをぱたぱたと揺らし、頬を撫でる。心地良い眠気に襲われるがままに目を閉じると、ぼんやりと明るいキッチンの情景が浮かんだ。


『そうよ、...。上手上手。あ、こら。まだ焼いてないんだから、手についた生地食べないで』

ことことと笑う女性の声。

『お母さま、このクッキーおいしいです』

私の声。

『うふふ。焼けたらもっと美味しいでしょうね』

女性に頭を撫でられる。

『...。お父さんを呼んできてちょうだい?みんなで型抜きしましょう』

『はい!』


 はっとして目がさめる。夢を見ていたのか。眠気をさまそうと目元をごしごしと指で拭うと、少し驚く。濡れていたのだ。そしてまた涙はとめどなく流れ、頬を伝う。

「...え、あれ」

必死になって拭うと何とか収まり、一安心してほっと一息ついた瞬間、

「...何で、泣いた」

「ぅえっ!?」

いつのまにかネロが横に立っていて、こちらを見上げていた。どうやら一部始終を見られていたらしい。

「何で泣いた、フラン」

「え、わ、わからない」

「何でわからない」

「え、えっと、その」

「クッキーできたかー!?」

ネロの問いかけに答える間も無く、ドタドタと走りながらダッツとアウランがキッチンに駆け込んできた。

「あ、まだ」

「ひつじ、わたくし喉がかわきましたわ。紅茶をよういなさい」

「あ、ボクの事ですか。...それって執事のこ」

「お急ぎなさい」

「は、はい、ただいま!」

ルーナはウィリディスをこき使うように食卓に着く。ウィリディスは紅茶の用意のためにキッチンに入ってきた。

「あ、フランさん...ちょっとお隣良いですか」

「う、うん」

急に沢山の人に囲まれ、フラウはあたふたしてしまう。一つ一つの対応に困惑していると、

「何だ、急に賑やかだなおい」

バディがあくび混じりにキッチンに帰ってきた。

「イッシュ!クッキーまだか!?」

「あとは型抜きして焼くだけ...待てよ?」

何かを閃いたかのように、バディはキッチンに全員を集めた。

「お前達どうせ暇だろ?みんなで一緒に『型抜き』しようぜ」

そして集められた子供達は口々に賛成の声を上げて、キッチンテーブルを囲いはじめた。


「よし、じゃあ生地を延ばす超重要任務はフランに任せよう」

バディはめん棒を持ってきてフラウに手渡す。

形状からしてこん棒の一種か。ならば。

「おらぁああ!」

「いや、待て待て待て」

柄を両手持ちして思い切り振り上げたフラウを、バディは羽交い締めして止めに入る。

「...っ違いますか」

「違えよ、生地をどうする気だお前」

「あっはっはっは、フラン姉ちゃんて変なの!」

ダッツが笑い転げ、フラウは恥ずかしくなって赤面した。

「いいか?めん棒ってのはこうやって生地を延ばすのに使うんだ...ほれ、やってみろ」

最初から説明してくれれば良いのに、と思いつつバディの動作を真似ながら生地を延ばしていく。

「生地の厚さが均一になるように、生地全体に気を配れよ。そう、そんな感じ。...さっきも言ったけど、『気持ち』を込めてな」

「わ、わかりましたから。ちょっと静かにしてて下さい」

もくもくと作業に集中する。

「...初めてにしちゃ、良い感じだな。よし。仕上げは俺がやるよ。このクッキーは薄い方がうまいからな」

バディにめん棒を渡して、フラウは一歩下がった。めん棒を使う彼の背中が、少し大きく感じる。


『うーん、父さんはもっと薄めが好きかなあ』

『あなたったら、凝り始めるととことん凝るんだから』

ことことと、三人の笑い声が響く。


また、いつかの記憶。

私はクッキーを知っている。

『日常』を、知っている。

でも、これはいつの記憶なんだ。


「よし、生地の準備オッケーだ。型抜き始めるぞー!」

おーっ、とダッツとアウランが勢いよく生地に突進して行く。

「ひ...しつじ、あなたはそっちの型をつかいなさい。それはわたくし専用ですわ」

「え?あ、これですか」

各々が型抜きを持って、大きく延ばされた生地から型を取り始めた。

「どした。お前も好きな型を使えよ」

好きな型、と言われても、フラウにとってはどれも意味のわからない形だ。

「え...あ、はい。じゃあ、これで」

「お花型ね。っふ、いいんじゃない?」

「な...!何で笑ったんです今!変えますよじゃあ」

「いや変えなくていい。直感で、良い、って思ったもんが本当にいいもんだったりするんだ」

「...じゃあこれでいいですよ」

一つのテーブルを囲みながら一つの作業をする。初めての感覚に、フラウの心は戸惑いながらも踊っていた。

楽しい。

『日常』とは、こうも楽しいものなんだ。

そして、全員が型を抜いたクッキーはオーブンに入れられた。


「あら、なんだかいい香りがしてきたかと思ったら」

アステアが食卓の部屋に入るやいなや、ほぼ全員が席に着いているのを目にして笑い出す。

「アステアさん、もうすぐフランが作ったクッキーが焼きあがりますよ」

「み、みんなで作ったんです」

「あらあら、フランちゃんありがとう!おばさん少しお腹が空いてたとこなのよ」

そう言ってフラウの頭を優しく撫でた。たまらず俯いて赤面する。

「さて、そろそろかな」

バディが立ち上がり、隣のキッチンに向かった。

「あちち、いい感じだな。できたぞー、お前達」

ミトンでしっかりと鉄板を持ってキッチンから帰ってくると、食卓の真ん中の平皿にそっと落としていく。カラカラと小気味いい音が響くほど、子供達の期待の眼差しが輝いていくのが目に見えてわかった。最後の一枚がからん、と平皿に乗ると、主にダッツとアウランの歓声が上がる。大声をあげずとも他のみんなも嬉しそうだ。

「あー、待て待て。最初に食べていいのは誰かな?」

バディが勇み足の子供達とアウランを止めに入る。

「つくった人!」

「そうだダッツ。...てことで」

全員の視線がフラウに集まる。

「食っていいぞ」

「え...、あ、じゃ、じゃあ」

そう言って目に付いた星型のクッキーを手に取った。

「い、いただきます」

サクッという音が、食卓に響く。

薄めに焼き上がったクッキーには余計な水分がなく、軽快な食感で口の中に弾けた。そしてほろりと溶けてきたのはピリッと切れた生姜のパンチ、そしてスパイス達の複雑な味わいが優しい甘さにのせられて口いっぱいに広がっていく。

「...おいしい」

「...だそうだ!食おうぜみんな!」

わあ、と一気に食卓が騒然となる。

「あら、本当に美味しいわ、これ。今までで一番よ」

「めちゃうまいでこれ!」

「ひ、ひつじ、紅茶のおかわりですわ!」

「え、ちょっと、ボクまだ食べてな」

「なあなあ!おれのほし型!うまかった!?...なあ、どした?フラン」

「え...?」

無意識で堪えてはいたが目元は赤くなっていたようで、みんなが騒いで気づかない中ダッツに心配される。

「...いや、おいしくってさ」

「そうか!だよな!ははっ!」

気付けばネロが傍に立っていて、丸型のクッキーを差し出している。フラウはそれを受け取り、一口かじった。

「...おいしいねっ!」

ネロも満足気にはにかんだ。

風が吹き込む窓が縁取る西の空は、やや茜色に染まり始めていた。



 夜の涼しげな風が通り抜ける。フラウはいつも通り屋根に上って仰向けに寝ていた。しかし今日に限っては全く違う心持ちで、バディに渡された二つの巾着袋を夜空に掲げ、表情は柔らかだった。

「ビオラク、喜んでくれるかな。...あとモナーク」

口に出した言葉が恥ずかしくなって、フラウは飛び起きた。そのままハシゴを伝って二階のバルコニーに降りて、はっと息をのむ。

「あ...いたんだね」

「ええ」

ビオラクがバルコニーに一人たたずんでいたのだ。

「あ、そうだ。あのさ、これ、今日私が焼いたんだ。食べてくれると嬉しいんだけど」

からり、と音を立てて、巾着袋の一つをビオラクに差し出す。

「...え、私に、ですか?」

「そう!」

ビオラクは渋々受け取って、紐を解いて中を覗く。

「クッキー、ですか」

「そ、そうなの」

「ありがとう、ございます」

「...感想っ、ききたい、かも」

フラウはビオラクが寄りかかる隣の手すりに手をついて、つぶやく。ビオラクは恐る恐るといった様子でクッキーをつまみ、一口かじる。そして表情は見えなくても、はっと顔をあげたのはわかった。手に取った一枚のクッキーをぱくぱくと食べ終えた。

「...すごく、おいしい」

「ほんとっ!?...よ、よかったぁ」

フラウは手すりに脱力した様子で寄りかかった。

「ほんとに、おいしい、です」

髪の隙間から覗く口元が、ほころんだ。

「喜んでくれて、良かった」

にこ、っと笑いかけて、すぐに恥ずかしくなって赤面する。

「じゃ、じゃあ、渡したからっ。おやすみっ」

恥ずかしさの勢いに任せて、フラウはビオラクを残し、バルコニーを後にした。


 子供達の人数に反して少し広すぎる孤児院をどれだけ逃げたのだろうか。気が付くと、いつもは立ち寄らない二階の区画に入り込んでいた。明かりの漏れるドアが目の前にあったので、フラウはそっと中に入ってみる。どうやら図書室のようで、壁一面に本が並んでいた。字もまともに読めないんだから、私には意味のない場所だろう。そう思って出て行こうとした時、本棚から少しはみ出た一冊の本の背表紙に目が留まる。

「これって...ネロが読んでた」

ネロは背が低いから、しっかり奥まで本をしまえなかったのだろう。はみ出た本の背表紙を本棚から引っ張り出して、その場に腰を下ろす。ちょうど真横に置いてあった魔導ランプは、最後に使った人が慌ててつまみを閉めたのか、魔法の白い明かりが完全に消えていない。ドアから漏れていた光の正体はこれだったか。つまみを開いて明かりを強める。フラウは、よし、と気合を入れて本を開く。


「...」


やっぱり読めない。

はあ、とため息をついて本を閉じ、こつんと背中を本棚に当てた。その瞬間、頭の上に一冊の本が落ちてきて、表紙の面が直撃し、ぼすっ、と鈍い音を響かせた。

「...いってて、なんで落ちてきたんだこの本」

表紙を見ても文字はわからない。白い魔物が顔を覗かせる荒波をぼろぼろの帆船が渡っていく、迫力ある挿絵が描かれていることだけは理解できた。まじまじと本の表紙を見ていると、

「...なんだ、大きな音がしたと思ったら。お前読書なんてするんだな」

突然声をかけられる。いつの間にかドアのところにモナークが立っていたのだ。

「も、エイブラ、さん...!戻っていたんですか」

「ああ。ついさっきな」

そう言ってこちらに歩いてきて、向かい側の本棚に背を預けるようにモナークは腰を下ろした。

「今日は皿一枚も割らなかったんだってな。アステアさん、泣きながら喜んでたよ」

「そ、そんなに喜んで...」

「で、何読んでたんだ?」

「あ、いや、読んでたとかじゃなく」

二冊重なった本の上の方をひったくると、モナークは少し息をのむ。

「...懐かしいな」

「え?」

「いや、何でもない。...これ、どっから見つけてきたんだ?」

「...上から降ってきました」

フラウが指さす本棚の上の方へ視線を向けてしばらく考えた後、モナークはいきなり笑いだす。

「な、なんですか!信じてないんですか!?嘘じゃないですよ!?」

「ははは、いや信じてるって。...それより」

その本を持って立ち上がると、背伸びをしながら本棚の上に置いてしまう。そしてしばらく感慨深そうに何かを考えてから続けた。

「こんなつまんない本、俺はおすすめしないな。...そっちの本は、『人狼の子』か。そいつの方が数百倍は面白いぞ」

フラウが膝の上に置いていたもう一冊の本を指さしながらモナークは笑う。

「じゃ、俺は明日早いんだ。お前も読書、ほどほどにな」

そう言ってモナークは部屋を出て行こうとしたのでフラウはとっさに呼び止める。

「あ、あの...!」

「ん?なんだ?」


「私...実は、『文字』が読めないんです...!その、なんていうか」


モナークはぽかんとしながらフラウを見てしばらく何かを考え、傍にあった貼り紙を剥がし、ポーチから木炭を取り出すと、何かをさらさらと書きフラウによこした。

「...これは?」

貼り紙の裏に書かれた文字を見つめる。

「...暗殺」

「じゃあこれは」

「...隠蔽」

「...これ」

「...?えと、わかりません」

なるほど、と言って納得したように座り込む。

「...お前もレアの『教育』を受けてたんだから、当たり前か」

「どういう、ことですか」

「お前は依頼書の読み方しか知らないんだよ。文法なんてない、最適化された文章のな」

ため息をつきながら、モナークも腰掛ける。

「...俺も同じだった、だから、お前の気持ちもわかる」

「でも、エイブラさんは普通に字が読めてるじゃないですか」

「教わったんだよ...イッシュから」

「...!」

「ちょうどこの孤児院にいた頃のことだ。二年くらいの間だったか。毎日のようにこの書庫に連れてこられては、本を読まされた」

「それで、字を読めるように...?」

「まあな。文字以外にも火の起こし方とか、魚の焼き方とか...。殺し以外の事はアイツが教えてくれた。感謝と嫌味を込めて、『先生』なんて呼んでやってたよ」

「...じゃあ」

ふいにモナークは嫌な予感がして身構える。

「...よせよ?」

「まだ何も言ってませんよ...」

「どうせ『字を教えろ』とか言うんだろ?」

「...そうですよ」

「...いやだ」

モナークはだるそうにそっぽを向く。

書庫の窓が、風でガタガタと音をたてた。重なるように、中庭の木の葉がかさかさと音をたてる。

ちらりと視線をフラウに戻すと、まだこちらを熱心に睨んでいた。


「...~ああもう、わかったよ。俺はイッシュと違ってスパルタだぞ。それでもいいか?」

「構いません、私に文字を教えてください!...あ、これ一緒に食べましょうよ」

「あ?クッキーか?...辛くて苦手なんだよな、アイツの作ったの」


魔導ランプの魔法の明かりは尽きることはない。深まる夜も、白む夜も、書庫の窓から漏れる輝きは消えることはなかった。


・おまけ

 ~ バディ特製スパイスクッキー、ペッパルカーコルの作り方 ~


→材料

 ・バター:150g

 ・砂糖 :200g

 ・卵、M玉:1個

 ・ジンジャーパウダー:大さじ 1/2

 ・シナモンパウダー:大さじ 1

 ・クローブパウダー:大さじ 1/2

 ・カルダモンパウダー:小さじ 1

 ・薄力粉:450g

砂糖やスパイスの分量はお好みに合わせてアレンジしてみてください。


→作り方

 ①バター、砂糖をボウルに入れ、よく混ぜる。

 ②①を混ぜながら、3回ほどに分けて溶き卵を加える。

 ③②がもったりとしてきたらスパイス類と薄力粉を加える。

 →へらで切るように混ぜるのがポイント。

 ④生地がぽろぽろしなくなったら手でまとめる。

 ⑤ラップでぴったりと生地をくるんで冷蔵庫で最低一時間寝かせる。

 ⑥3㎜程の厚さに伸ばし、型を抜く。

 ⑦クッキングシートを敷いた天板に載せ、200℃-220℃のオーブンで8分焼く。


ペッパルカーコルはスウェーデンのクリスマスシーズンによく食べられる焼き菓子です。この冬のおうち時間に、あったかい紅茶と一緒にどうぞ。


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