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MONARCH  作者: 29-Q
第一章

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33/114

立上がるための理由

登場人物紹介


・モナーク [推定 22] [男]

自称、盗みの天才。盗人になる前の記憶が無い。はっきりと覚えていることは、ただ「モナーク」という言葉と、盗みと弓矢の扱い方だけであり、それ以外の記憶は断片的ではっきりしない。帝国特務機関のエリートだったらしい。


・リリーナ・フラウム(偽名) [18] [女]

カサブランカ家に着任した騎士。カサブランカ家に侵入した男を捕らえるためモナークと行動を共にしていた。食べることが大好き。暗闇が嫌い。帝国特務機関所属。作戦コード:デューク


・バロン(本名不明) [15] [男]

帝国出身の小柄な男で、デュークを名乗っていた。魔法が使えて機械につよい。帝国特務機関所属。作戦コード:バロン


・リリー・カサブランカ [13] [女]

小さな町の領主であるカサブランカ家の一人娘。人には言いづらい恋の悩みを秘めている。モナークとは友達。

「…なにがあった、バロン。その紙には何が書いてあった!?」

普段から温厚だった男が感情を抑えきれなかった。リリーナはその事実に戸惑っていた。


「くくくく…かははは…あぁあっはっはっはっはっは!」


領主が狂ったようにあげた笑い声が部屋いっぱいに響く。

「帝国様にその情報がもれちまったら、いよいよこの国も!おしまいだなあぁ…!」

わざとらしいため息をついて、机にうずくまってしまった。

部屋が静寂に包まれる。

「…ひとつ…聞かせてください」

「…なんだ?」

「あなた達コネクションは…こんなものを使って何をしようと?」

見せろ、とせがむリリーナに、バロンが契約書を手渡す。

「何?…だと?『大義』のためだよ…人を殺すための兵器には、『大義』を込めなければ使う理由なんて生まれない」

「なんだ、これは…」

モナークは頭にはてなを浮かべるリリーナから契約書をひったくる。

「魔導石型爆弾…バカみたいな兵器だぜ。…それに気付かず輸入しちまう、帝国のお偉いさん方もバカだ。…これが帝国と戦争になっても、あんた達が勝ち気でいられた理由かよ」

「…ああ、そうさ」

男は脱力し、イスに浅く腰掛け背もたれに倒れこんで、話し始めた。


「…私達『タカ派』の大義は、リーラ血統の奪還と、浄化だった」


聖ノルウィステア帝国が掲げる『リーラ人種絶対主義』。ことの発端は何百年も前の、リーラこそ至高の人種という神託によるものだ。

絶対主義が生まれて以来、この大陸全土でも宗教のように信じられるようになったが、その時はまだ奴隷制度なんてなかったから、異なる人種や多様な部族が暮らしていたみたいだな。


そんななか帝国は、神託を信じて純粋なリーラ人種だけの国を作ろうと目指したのさ。

ところがどうだ、リーラだけになって、国民全員がリーラの偉大さを主張しだして、国力はみるみる落ちぶれた。

だから、帝国は充分な労働力を用意するため、神託の名のもとに、『奴隷制度』を施行した。帝国近辺の島々で暮らしていた異人種は非正規な手段をもって捕らえられ、奴隷として帝国本土に売りさばかれたんだ。

以来、帝国内ではリーラ人種は上級、それ以外は下級と、線をひかれた。


その『非正規な手段』でビジネスを行ったのが、我々が属する『コネクション』の原型さ。

目先の大金に目がくらんで、帝国に、近隣諸島からだけでなく大陸中から、人という『資源』を売りさばいたんだ。


「…そこに罪の意識があるやつらが、帝国にたてつく『タカ派』ってわけかよ」

「…っは、くずでも理解できたか。…まあ、最後まで聞いてけよ」


さっきも言ったが、我々の大義はリーラ血統の奪還と浄化。

帝国が純粋なリーラ人種の血統を独占したばかりに、この大陸中から純粋なリーラが減ってしまったのだ。

帝国国外の純粋なリーラ人も、『リーラ人種である』だけで、上級でまっとうな生活をさせてもらえる国があるなんて知ったら、こぞって帝国に行きたがるさ。


これが、『リーラ絶対主義』が紐付ける神託のもと、何を意味するか分かるか?


我々は、弱者にされたのだ。至高の人種を持たない、弱小国に。

純粋なリーラの血統を持つ貴族が混血の増加と共に減っていき、帝国の世論がこの大陸に向ける目はどう変わると思う?

『労働力』の資源がたんまりとある、弱者の吐きだめだよ。


我々タカ派は、この事態に終止符を打つ。

神託という宗教に、爆弾という科学の炎で。


「…待ってくださいよ」

バロンが止めに入る。

「この『契約書』に書かれていることが、そんな結果に繋がるって、本気で言ってるんですか?」

「大義のためには、いつも血が流れる。…その虐殺の過程を歴史は『戦争』と名付ける」

「戦争だって!?罪のない帝国国民を、兵士でもない人達までをも虐殺することが、戦争だっていうんですかッ!?」

「言っただろう!…我々の目的は『奪還』と『浄化』!この『選別』で命を落とすものはそのどちらの対象でもないってことだ!!我々は帝国と戦争を起こして、この大義を成し遂げる!!」


魔導石型爆弾。『選別』から溢れた一人を確実に殺すことができる兵器。

なんてものを作ったんだ、と、モナークは戦慄する。


この世界に当たり前のように普及する魔導石。

その普及の背景には、この世界の『魔法』の術者が完全に血統で向き不向きが決まる、というものがある。魔法を使えない者は一生魔法を使えないし、その子孫も同様だ。

そんな人達でも魔法を使えるようにと考案されたものが、術者の代わりに魔法を放つ石『魔導石』と、杖や魔法武器といった『魔導器』だ。これらは魔法を使えない人が、もしもの時に備えて肌身離さず常備する品なのだ。


彼らコネクションは、この魔導石にそっくりの爆弾を作った。

魔導石としてもちゃんと使え、本物との判別は、『契約書』に記載されたスペックを見るに不可能だろう。

違いはただ一つ。

その爆弾の仕込まれた魔導石は、誰か一個人の意思で、好きな時に、好きな場所で、人の体温を感知したものだけ爆発させることができるということ。

そんなものが本物の魔導石に紛れてどこかの町にひっそりと流通してしまえば、その町全体の『魔法を使えない人』大部分が、この爆弾の被害者となる。


「奪還と、浄化、ねぇ…」

「そうさぁ!!このまま戦争が始まっていれば、我々共同体の勝利は確実だったッ!!」

「…純粋なリーラ人種の大部分は、魔法が使えないから、か」

「っはは、そうそう、そうだよ!…もうすでに、帝国本土にはこの大量の『爆弾』が軍部を中心に流通している!戦争に出兵する帝国兵のほとんどがこの『爆弾』を携行してるだろうなあ!」

バロンとリリーナの顔が、一気に絶望に染まる。

「そこでこの『音』を鳴らしたら、どうなると思う!?」

領主が指輪に触れた。その瞬間、耳にキィーンと響く嫌な音が部屋にこだまする。

「…!なあ、あつい、あつ、あついあつあついあ」

リリーナが抑え込んでいた兵士が突然じたばたともがきだした。

「なんだおまえ、暴れたら危な」


「リリーナそこどけッ!」


「え?」

モナークがリリーナに飛び込み抱きかかえ反対側の本棚に激突したころには、兵士が激しい閃光に包まれていた。

「なんだ、あれ」

「仕込んでやがったな、…あの男!」

兵士が倒れていた場所には、焦げ跡と妙な染み以外、何もなかった。

「…かっはっはっはっはっは!見事だろ!?証拠も残さないこの美しさ!!…ああ、君たちの装備にも忍ばせておくべきだったなあ」

「…外道め!」

リリーナがモナークの腕の中から男を殴りにいかんと暴れだす。

「帝国は貴族共同体が『未知の魔法』を使ったとしか思わんだろうさ!!…世論は安心と信頼の『大陸本土製』の魔導石に疑問なんて向けまい!ましてや、後ろ暗い裏ルートで仕入れてしまったなんて国民に公表でもしてみろ!…帝国の信頼は地の底だろうさぁ…!」

再び部屋に、領主の高笑いが響く。

「我々は帝国の軍を魔導石型爆弾で無力化する!これが計画第一段階!次に本土へ侵攻し、魔法を使えないリーラ人種を『淘汰』していく!これが第二段階だ…!」

「…それで、魔法が使えるリーラ人種を『奪還』するってか」

「ああそうさ!!…そして計画の最終段階が、大陸全土から魔法の使えない血統を『消す』」

「…『浄化』」

「っかっはっはっはっはっは!どうだ!?魔法を使えない血統は淘汰され、より魔法に長けた血統のみがこの大陸に残るッ!!より強固な魔法大国の完成だよ…!!なんて崇高な目的だと、思わないか!?」

「今を生きている人達を、可哀そうと思わないんですか…!?」

「この『選別』で命を落とす者達は、次に繋げるための糧だ。今を生きる者達より、その者達が繋ぐ『未来』にこそ意味がある!…国民一人の寿命なんてたかが六十、七十だ。しかし、人という生き物には、子を成し、次に繋げる力がある。次に伝える力がある!未来永劫、他国に比類なき『力』のある血統を繋げていく事の意味を、理解できないってのか!?お前たちは!?」

三人とも、何も言えなかった。

彼は間違っているだろうか?

間違っている。倫理観が間違っている。

間違っているのに、三人の立場では何も言い訳できなかった。

自分たちが成そうとしている『奴隷制度の変革』だって、リーラ人種の築いた『営み』を壊す行為なのだから。

たとえ自分たちにとって正しい行いであっても、今、幸せを感じている誰かの『営み』を壊す行為なのだから。

自分たちと彼らの『大義』は、そこへ至る方法は違えど本質は何ら変わりないのだから。

「…公表、するんだろう?帝国に」

「…」

リリーナは何も言えない。

「…する。します」

「バロン…」

「…だって、そんなの、間違ってるじゃないかッ!!」

「そうなってしまったら、我々タカは地に落ちるなあ…」

領主はまるで生気のない顔で、窓の外に目をやる。

「…もう少し聞かせてくれよ、この『契約書』について」

領主は深くため息をつく。

「四年前だ。…見つけちまったんだよ、鉱脈を」

「鉄鉱石か?」

「それは表向き。…まあ実際、昔から鉄鉱石もわんさか採れた鉱山でもあったからな。その奥に、見つけたんだよ」

「まさか…鳴石の…?」

バロンが何かが繋がった表情をする。

「っは…そこの小さいのはわかったか。…そう、鳴石…魔導石の材料さ。広く知られては魔導石がらみの不正がはびこるから知る人は少ないがな。見た目は鉄鉱石によく似た石っころだ」


私も目先の利益に釣られてしまって。

魔導石を大量生産できれば、この国の軍備は大幅強化できる、ってな。

当時、『ハト派』にいた軍務卿に、この情報を流しちまった。それが多分運の尽きだったなあ。

あの男はしばらく考えさせてくれ、と言って連絡をよこさず無言を通しやがった。

それが一年位前だよ、なんでも、『これさえあれば帝国に勝てる』とか言って、私に使いをよこしてきた。

…驚いたよ、あの男が考え出した腹黒い作戦に。

『タカ派』としてお国につくせるなら、と、私も本気になってしまった。

この事の口止めのために『娘』を人質に取られかけたが…私は抗えなかった。

まあ娘が人質になることは『どこかの馬鹿な盗人』のせいで免れたが、私の財産や領地は、完全にエルドに支配されたよ。


そのための紙切れが、私と軍務卿の名前が記されたその『契約書』さ。

あの男はもしこの作戦が失敗した時、組織に処断されるとき私も、娘の未来も道連れにするつもりだったんだろう。


「…鉄鉱石に紛れさせて大量の鳴石を爆弾製造ラインに流し、完成した物を『ハト派』の軍務卿経由で帝国に裏で格安で売る…なんてバカな作戦だよ」

モナークは二大国の『汚さ』があってこそ成立するこの作戦に、吐き気がした。

「…っは、はははは…その『契約書』があれば、私も軍務卿も脅せるなあ。それが狙いかよ、『帝国特務機関』の皆様は」

「…そうだ。このカードで取引をしに来た」

「開戦の阻止、だろう?…もう、どうにでもなってくれ」

男は魔導水晶に触れ、回線を開く。

「私だ。…ああ、全部、終わってしまった」

水晶の向こうで悲鳴が聞こえる。

「…我々が次に『繋ぐ』ためには、もう、彼に従うほかないだろうな…ああ、頼む」

領主の男が、赤く灯る水晶を手渡してくる。

「今からこの回線はエギルンにある外交庁舎、開戦に向けての会議の場と繋がる。…言いたいことを言ってしまえ」

回線の向こうで、アルナーク卿が話し始める。

「『モナーク』君、久しぶりだねぇ…あの時、死んでくれていればよかったのに」

「俺も今、あの時を思い出して涙が溢れたね。この再会に乾杯だよ、アルナーク」

「っは、公共の場だ、端的に頼むよ、モナーク君」

言われなくても二言だけだ。


「リストなんて無かった。俺は今、『大陸内』で生きてるぞ」


回線が切れるまで、水晶の向こうでざわつきが収まることは無かった。

「…声紋解析がされて、戦争はひとまず、お開きだろうなあ」

相変わらず生気の抜けた表情で、窓の外を見つめている。

「…やった、んだよな?私達」

「…え、ええ」

バロンの返事を聞くや否や、リリーナは領主に歩み寄り、思い切りぶん殴った。

「お前達の大義は間違ってるって、言えない。…だから悔しいんだ私は」

「…だから、殴ったのか」

「そうだ」

「…娘の事も、想ってくれて、か?」

「…そうだ」

「あんないい子は、君のようないい子といる方が、幸せだろうなあ」

リリーナは涙に震えていた。

「私は、だめな父親だったから」

リリーナは意味のない叫びを発しながら、泣き崩れる。

自分が叶えたいと志した大義の本質をえぐられた少女は、ただ、泣く事しかできなかった。

「ボク達の『奴隷解放』って、間違ってるんでしょうか…」

「帝国が隠したがってる『奴隷制度が抱える嘘』…もとからあった宗教の価値を壊すんだ。…『リーラ人種絶対主義』っていう教えに、生きる希望を持ってた『力のないリーラ人種』を淘汰するんだからな。…本質は一緒だよ」

モナークの言葉を聞いて、バロンも余計落ち込んでしまう。

誰も、何も言わない静寂。

何が答えか思索するうちに、時間が、静かに過ぎていった。


「ふっ…くくくく…っかっはっはっはっはっは!」


領主が突然笑い出す。

「なんだ、気持ち悪い」

「…始められないなら、始めさせればいい」

「…は?」

嫌な予感が背筋を走る。

「時間は、稼いだ」

「何、言ってんだ」

「エギルン沖に、帝国軍の先遣隊が待機してるのは知ってるか?…五隻。千人は乗ってるだろうなあ」

モナークが歩み寄り、領主の胸ぐらを掴む。

「何の、話をしてんだ」

「…ところで、帝国にはかすかな音を増幅する機械、ってのがある。…そのおかげで、高度な声紋解析ができるんだよ、あの国は」

「言いたい事、早く言えよッ!!」

「そんな大きな音で、『あの音』を響かせたら、きっと綺麗な花火になるだろうよ」

「バロンッ…!馬車の手配だ、何でもいい!」

「…え…!?でも」

「でもじゃねえ急げ!こいつの時間稼ぎには付き合ってられねえ!!」

バロンはもたつきながらも部屋を駆け出した。

「君のあの回線のあと、会議は大きくざわつき隙ができた。…その隙に今は『タカ派』のあの男が指令を出した」

「お前って男はッ…!!」

「…今頃、『記録から消された空船』目指して、タカ派が飼ってる賊が進んでるだろうさ」

「…くそぉっ!!」

領主の男をイスの背もたれに叩きつける。

「…ああ、そうだ。船の近くにある、村。…アブロテだったか。あそこもついでに消えるだろうね。…まあいいか、ついでに『ハトの宝』も探しやすく」


ばこっ、と鈍い音が部屋に響く。


「…ったいなあ、はは、何も言えないと、すぐ暴力か、くずはこれだから」

そう言って領主は壊れた人形のように、笑い始めた。


リリーナが、足元でうなだれている。


「おい、立てよ、リリーナ」

「…もう、無理だよぉ」

「できる、できないじゃない」

「…私は、何のために戦ってきた?何のために、戦えばいい…?」

思わずカッとなって、彼女の胸ぐらを掴み、部屋の外へ引きずる。

そして廊下の壁に叩きつけた。

「お前は…『騎士 リリーナ・フラウム』だ」

「違う…それは、偽物の私だ」

「偽も本物もないだろ、エージェント。…お前が何者なのか知らない。でも、俺にとってはリリーナはリリーナなんだ」

「…」

「騎士ってのは、困ってる人を助けるのが仕事…。俺との旅でお前は『騎士役』だったけど、俺には本気で誰かを助けようとする、演技じゃない『騎士』に見えちまった」

「…!」

「俺は今、本ッ気で困ってる。だから…なあ、リリーナ」


「今は俺のために、戦ってくれ」


モナークは、リリーナの胸ぐらを放す。


「立てたか」


「…ああ」


「次は『歩く』か『走る』かしな。…足は立つ以外にも使えんだぜ、覚えとけ」

「…お前の『生き方』か?」

「ん?…生き方ってよりかは、『先生の教え』かな」

「…変な先生」

「お前の『先生』ほどじゃないぞ」

「お前が『先生』だったぞ、バカ」

「え」

「『走る』ぞ?…教官」

モナークも廊下の奥に駆けていくリリーナに続こうとしたが、少し立ち止まる。

「…『リスト』」

領主は笑うのをやめ、こちらに顔を向ける。

「それがなんだ?」

「こいつはここに置いていく。…『タカ派』のお前が持っておきたくなかったものみたいだからな」

「…!」

「帰ってきたら、全部話してもらうぞ」

「…『帰り』なんてあるかなあ」

再び狂ったように笑いだした領主をおいて、モナークは駆け出した。


屋敷の外に出ると、バロンがじいやに馬車を用意させて待っていた。

「…で、状況は?…大丈夫、なわけないですよね…」

「ああ、かなりまずい。…じいやさん、ありがとう。あなたは危険です、馬車は俺達に預けてください。あ、あと、これをリリーに『埋めといて』と頼んどいてください。頼みます」

『リスト』を入れた封筒を手渡す。

「え!?…ええ」

「リリーナ、バロン、乗り込め。俺が馬を」


「リリーナぁ!モナークぅ!!」


声の方を向く。

リリーだった。


「…いってきます、お嬢様っ!!…必ず…必ず戻りますからッ!!」


モナークも拳を突き上げ、サムズアップで応え、馬車を出す。


「…残っても何も言わないぜ、俺」

「お、『お前が欲しい』、とか言い寄った矢先に!?おいモナーク!!」

「え!?遅いと思ったら何してたんです!?二人して!!」

「言ってねえよ、あの状況で誘うとか色情魔か俺は」


後ろの馬車内でつかみ合いのケンカが始まり、馬車が大きく揺れる。


「とにかく、だ、お前ら。…覚悟決めろ」


「…ボクは、元よりできてます」

「…騎士リリーナは、お前に忠を尽くすさ」


「…聞けてよかった」


日が西へ傾き、夕焼けの茜に森は染まっていた。


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