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魔具師は剣奴と旅をする  作者: カタヌシ
リリフスの大森林 前編
1/57

プロローグ

 魔導装甲とは、一言で言えば巨大な鎧の様なものである。


 魔導装甲を纏った者は、魔導により駆動を補われ常人ではありえない性能の動きを可能とする。


 優れた魔導装甲は、脳の処理を補助する機能すらも備え、動きのみではなく瞬発力、反射神経、動体視力、その他五感をも超越者へと至らしめる。ラフト帝国では、現在兵士が魔導装甲を身に纏い戦うことが主流である。


 そんな魔導装甲を纏った初級科1年生のラア君のパンチが、僕の完全自律型魔導機械を完全に粉砕した。


 目にも止まらぬ速さで動いたかと思うと、次の瞬間には僕の魔道具はバラバラに吹き飛ばされていた。


 僕の魔道具に出来たのは、動き始めようと少し前屈みになることぐらいだった。僕の半年の努力の結晶が一瞬でスクラップに変わり、僕は3回目の留年が決定した。



「ケイ=ラインファ。

 本日をもって、貴公を退学処分とする。」


 学園長に呼び出された時点で、何となくわかっていたことではあるが、面と向かっての退学宣告は来るものがある。


 僕に最後通告を出した学園長は、たっぷりと髭を蓄えた筋骨粒々の大男である。そんな大男が武骨な椅子に足を組んで座り、座りながらに僕を見下ろしていた。




「もともと両親の優秀さを鑑みて特例での入学だったのだ。貴公としても不満はあるまい?」


 学園長が僕を見る眼差しには明らかな失望の色があった。


「……はい。」


 思うところがないわけではない。だが、それを言ったところで更に僕の評価を下げるだけだろう。僕は魔導装甲技師になるには、足りないものが多すぎたのだ。


「では、荷物をまとめ明日中に寮を出ていくように。貴公のその後の人生が栄えあるものであることを心より祈っておる。」


 よく言うよ。

 身寄りのない僕が学園を追い出されたら、録な道が残っていないのを知っているくせに。


 頭の中でなじるが、仕方がないことだということは分かっていた。


 軍国ラフト帝国は、長い長い戦争の中にある。


 勝利のために魔導装甲技師育成に莫大な予算が組まれていると言っても、それは無限ではない。一人の魔導装甲技師を育成するのに10億ガルかかると言われているのだ。落ちこぼれは自然と切り捨てられる。


 本来であれば、僕なんてもっと早くに退学になっても可笑しくなかった。それが親の七光りで5年も在籍させてもらえたのだから、感謝こそすれ恨むのは筋違いと言うものなのだろう。


 わかってる。

 

 そんなことはわかってるさ。

 

 けど、頭でわかっても、心は別だ。


 いつか見返してやる。


 いつか、いつか


 僕を学園から追い出したことを後悔させてやるんだ。グッと手を握り、感情を圧し殺し、「今までお世話になりました。ありがとうございました。」と頭を下げて学園長室を後にした。



 学園長室を出てそのまま寮へと向かう。部屋の前で待たせておいた自律式自動魔導機械のガラクリが、僕のあとをギコギコと調子外れの音を出しながら付いてきた。



「とうとう非力のケイが退学だってさ。」


「あんなガラクタしか作れない奴が今まで学園にいたことが可笑しいんだって。」


「何回目だっけ?留年?」


「3回目。」


「ふっ、3回?」


「しかも初級科の2年で」


「しょぼすぎ」


「あいつ魔導装甲作れないんでしょ?」


「文字通り力不足に、魔力不足。」


「まだあんなガラクタ連れてるよ。」


「最弱最低の学園生も今日でさよならかぁ。」


「ホント笑える。」


「あれが、あの有名なカイト=ラインファとマイン=ラインファの子供ってのが信じられないよね。」


「蛙の子は蛙とは限らないってことだ。」


「あわれだね。」


 周りから僕を嘲り笑う声が聞こえてくる。精一杯、僕はそれを無視して歩いた。


 ポタッ、ポタッ


 頬を涙が伝う。


 何だって、僕はこんなにも惨めなのだろう。悔しさが僕の胸を締め付けた。


 父と母は偉大な魔導装甲技師だった。僕は両親のように立派な魔導装甲技師になることを期待されて、この学園へ入学を許された。


 しかし僕は父や母のようにはなれなかった。


 僕の魔力の内蔵量は幼いころのある日を境に全く成長しなくなってしまった。


 普通魔力量は死ぬまで増加し続ける。


 子供のころよりも大人のほうが成長率がいいことはよく知られている。でも僕の魔力量だけが、子供のころから止まったままだった。


 さらに細身で線が細くいくら鍛えても筋肉がつかない。


 それゆえに、僕には巨大な魔鉄を折り重ねて形を作り、それに魔力を用いて術式を刻んで駆動を可能とする魔導装甲を作ることが出来なかったのだ。



 僕は父と母のようにはなれない。それは僕にとって入学前から分かっていたことだ。だから僕は魔導装甲以外で結果を求めた。


 行き着いたのが、人々の生活を豊かにする魔道具の開発だった。


 魔道具は、比較的小さなものが多く、市井の人向けに作るのだから魔力の消費も多くない方が好まれる。つまり、僕向きのテーマだった。



 しかしそんなものをいくら作っても戦禍激しいこの国では誰も相手にしてくれない。結果が退学である。



 寮に戻り、部屋に入る。


 ルームメイトは、まだ学園にいるのか不在だった。挨拶くらいはしたかったなぁ、と思いながら荷物を片付ける。


 片付けながら、せめて一言くらいは残そうと思いなおし、ルームメートに手紙とルームメイトが前から欲しがっていたものをつけて残した。


 また少し泣けてきたが、できる限り無心で片付けに戻る。


 学園長には、明日中にと言われたがすぐに学園を去るつもりだった。


 工具をまとめ、希少な魔石を選りすぐり、幾つかの魔道具を袋に積める。


 全てを持っていくことは非力な僕では出来ない。


 粗悪な魔石や試作品を含めた多くの魔道具は処分することになるだろう。


 魔道具の一つ一つが思い出深い品だ。


 それを一つずつ破棄していく。

 

 寮の部屋には全室ダストシュートが備え付けられており、僕はそこに一つずつ魔道具を放り込んでいった。




 最後に、後ろを振り返りガラクリを見つめる。


 ガラクリは、僕が一番初めに作った完全自立型の人形型魔導機械である。

 幼いころからずっと一緒にいた。


 両親を早くに亡くした僕にとっては、唯一の家族みたいなやつだった。


 ガラクリの体は魔鉄と少しだけの銅と木材、そして本当に少しだけの魔物の皮で出来ている。


 横長の長方形の頭を持ち、胴体も角ばっていて色んな金属をつなぎ合わせた継ぎ接ぎだらけ。

 

 でも、性能は幼いころに設計したとはいえ、なかなか良いと自負している。

 

 胴体はきちんと頭を下げれるように駆動し、100度くらいまで曲げることができる。足は僕の単純な設計ミスのせいで左右で胴体と繋がる場所がずれていて、右足の方が明らかに足が短い。 そのせいでガラクリの足取りは覚束なく、よくこけるし、歩くたびに音が鳴る。


 ガラクリに出来ることは、僕を識別し、後ろをギコギコ覚束ない足取りで歩くことと、学習させておいた簡単な会話及び簡易な命令に従うことだけだ。



 僕に見つめられてガラクリは、少し顔を傾けた。

 僕が学習させた動作だ。


 このガラクリとも今日でお別れだ。


 持ち上げて、ダストシュートのほうへと向おうとした。




 また涙がこぼれる。


 ごめんな、ガラクリ。


 僕がダメだったから……




 そうじゃなきゃ、もっと一緒にいれたんだ。




 本当にごめん。




 ごめんな。






「ナミダ。イタイ?ケイ、ケガ、シテル?」


 覚束ない機械的な言葉を発しながら、ガラクリが僕をまっすぐに見ていた。


「してないよ。大丈夫。大丈夫だよ。」


 僕が、ガラクリの言葉を聞いてさらに泣いたからだろう。

 

 ガラクリはさらに、優しい言葉をかけてくれる。


「ムリ、ダメ。ケイ、イタイ、アリイ、トコ、イク。

 アリイ、イッタ。アリイ、ケガ、ナオス、トクイ」


 これは、きっと同郷のアリイが勝手にガラクリに覚えさせたことだろう。


 僕がいつも無茶をして、ケガをするからいつもそばにいるガラクリに勝手に教え込んだのだろう。


「うん。わかった。行くよ。

 今度ちゃんと、アリイのところには行くから。

 それでね。ガラクリ、お別れをしよう。僕はもう君とは居れなくなったんだ。」


「ケイ、ガラクリ、オワカレ?」


「うん。そうだよ。お別れだ。」


「ワカッタ、ケイ、サヨナラ」


 ガラクリはそう言って動かなくなった。電源の落ちたガラクリを僕は、ダストシュートへ投げ入れる。


 ことは、できなかった。


 僕にはガラクリを捨てれない。


 袋に詰めた全ての魔道具をダストシュートに捨てて、僕はガラクリを袋にそっと入れた。


 僕は、ガラクリと一緒だ。


 ガラクリと一緒にゼロからやり直すんだ。


 この学園で作ったものなんて、ガラクリ以外に何もいらない。ガラクリ以外のものなんて、あとでいつでも作ればいい。


 こうして僕は、つぎはぎだらけのボロボロの相棒と共に学園を後にした。


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