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銀河鉄道に一輪の花を。  作者: 火薬
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一話





家の近所に小さな公園があるのを知っている。

知っているというだけで、僕はその公園には行ったことがない。

何しろその公園は、真新しくて皆が寄ってたかって遊びに行きたがるからだ。

弱虫で臆病な僕はそんな皆の輪の中に混ざるほどの勇気はなくて、

遠くから眺めていた。

いつも部屋の窓から眺めていた。


お母さんやお父さんが、

どれだけ誘ってくれても、やはり僕の両足は竦んでしまって、

ドアを開けることすら出来なくて、

「僕は絵本だけで十分だよ」なんて言ってしまう。

必要ないよ。と強がってしまう。


けれど、本当はどこかで

「やっぱり遊んでみたい」と感じていた。のかもしれない。

窓の外で、皆はいったいどんな風に話しているんだろう。とか

いったいどんな遊びをしているんだろう。とか

泣いているのは何でだろうとか、走って笑っているのは何でだろうとか

あの人が怒っているのはなんでだろうとか、

目をぱちくりさせながら、その風景を眺めていた。


お母さんもお父さんも

僕に「いい子で待っててね」と言って仕事へ出かけ行ったその日、

僕はいつものようにして窓の外から、いつものように公園を眺めることにした。

すっかり日課になってしまった人間観察だけれど、生憎本日は誰一人としてきていなかった。

どういう風の吹き回しか、ちょっとした冒険心が、なけなしの勇気が湧いてきてしまったのか、

少しだけ、公園へ出かけようと思ってしまった。

「今日ならいけるかもしれない」と思ったのだ。


家の周りも公園と同じでがらんとしていて、

精々、遠くから車や電車の走る音、スズメや犬が吠えるのが聞こえるだけで

とても静かな昼下がりだった。

家からほんの数歩という距離の小さな公園の前まで来て、僕は緊張していた。

今は誰も居ない。僕しか居ない。

僕の貸切だ。

そんな風に思って気が済むまで僕は公園の遊具を遊びまわった。

ブランコ、滑り台、ジャングルジム。

流石にシーソーは、一人だとただ座るだけで動くことはなかったけど、それでも僕にとってはとても楽しいものだった。

中でもジャングルジムは世界が変わって見えた。

二階の窓からとは別で、一番てっぺんまで登ると公園の全体を見渡せた。


公園の中を散策していると、一輪の花を見つけた。

白くて小さい、綺麗な花だ。

名前は知らない。

ちょうど隣に大きなマンションが建っていて陽の光を遮ってしまっていた。

花や植物は太陽の光で大きく成長とすると、お母さんが言っていたのを思い出した。

「ちょっと待ってて!」

その名前も知らない白い花に言うと、僕は急いで自分の家に帰った。

オモチャ箱を乱暴にひっくり返して、中からオモチャのシャベルを握り締めて

いそいそと、白い花のところに戻った。


僕は、陽の光も浴びれないその花が可哀想に思って

だから、影になっている場所から移してあげようと思ったのだ。

服も靴も泥だらけになってしまったんだけど僕はそれで満足していた。

そして、それから毎日のように公園に訪れては、その花に会いに行って水をあげる日が続いた。

外を眺めているだけ引っ込み思案の日常に光が差したようだった。

その花に水をあげたり、その傍で絵本を読んでいた。

それは、雨の日も風の日も変わらず続けていた。

雨の日なんて、頭のてっぺんから爪先までビチャビチャになってしまうから、

家に帰ってきたお母さんに怒られてしまっていたんだけどね。


そんなことをしていた、とある日

ついに僕は風邪をひいてしまった。

少なくとも一週間は寝込んでしまっていたと思う。

少しだけ身体のダルさが解けてきて、僕はお母さんの目を盗んで公園に出かけた。

けれど、そこにある筈だった白い花は見当たらなかった。

最初から、そんな場所にはなかったように跡形も無く見当たらなかった。

気がつくと僕は、自分で植え直した場所を素手で引っ掻いていた。

泣きながら掘り出していた。

無い。無い。無い。無い。無い。とまるでうわ言のように繰り返していた。

「何してるの!また風邪ひきたいの!?折角、治ってきてたのに!」

僕はそう怒られながら癇癪を起こした。

嫌だ!と、嫌だよ!と喚いた。

そして、縛り付けられるようにベッドへ寝かされると、当然というか

身体はまた思いだしたように発熱し始めていた。


どうして居なくなってしまったのだろう・・・。

キミはどこに行ってしまったのだろう・・・。

重い頭の中でグルグルと悲しさが回転する。

両手も両足も頭もどこもかしこも痛くて、だけど

胸の奥のが一番痛くて、ピリピリしていた。



しばらくして、僕の風邪は治って元気になった。

ご飯も沢山食べられるようになった。

だけど、もう僕はその公園には行かなくなってしまっていた。


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