ビビリパーティ、いつまでもラスボスと戦いたくはなかったんですが。
最終バトルのダンジョンに潜る前に、ナイト、ソウリョ、カクトー、マホツカの4人はみんなで相談して、宿屋に泊まることに決めた。
それも遥か昔。
部屋は沈黙で満たされている。
*
(だれかなんとかいえよ!)
ナイトは耐えきれず部屋を飛び出した。
「お兄さんお兄さん! 安くしとくよ!」
「そう? じゃあ、おたくの店にしようかな?」
「へいまいど!」
客引きに引かれ、ナイトは居酒屋へ今日も赴く。
店に入ると女将がナイトを発見して、カウンター越しに話しかけた。
「あら、またあなたきてくれたの?」
「することもないんで」
「することもないって……、あなた勇者でしょ? ラスボス倒さなくていいの?」
「い、いや。俺は行こうって言ってるんですよ? ほら、皆がいやだいやだいうから」
ウソがばれないようにナイトはぎこちない笑顔をつくった。
「まだそんなこと言ってるの? じゃあ、あたしが一言言ってあげようか?」
「いやいいですいいです勘弁してくださいお願いします!」
「……? でもあんたら、もう100日くらいこの町にいるよね?」
「いやマジ大丈夫なんで、ほら、無理やり連れてっても真面目に戦わないし!」
「それもそうねえ」
「移動手段も整えないとだから、ちょうどいいですよ!」
(あぶねえ。本音が思わずもれてしまいそうになった)
そのまま、ナイトは一晩中、居酒屋で盛りに盛った。
*
ソウリョが沈黙に耐え切れず逃げ出した先は教会だった。
「おお、そなたは真に信心深い。素晴らしいシスターになれる!」
「はあどうも」
「うちでシスターにならないか!」
「いや、ほらでも、あたし、ラスボス倒さないと!」
「そうか、意志は固いか」
(そんなわけないでしょう! 行きたくないんですよ!)
ソウリョはなんとか言い訳を考える。
「で、でも、他のみんなが行きたがらないから、なってもいい……かな?」
「なに?」
司教は満面の笑みを作り、しかし、また暗い顔になる。
「しかし、そなたが行かないで、誰が倒すというのだ」
「そ、そうなんです。私は早く出発したいのです」
「なら、なぜ!」
「み、みんな、行きたがらないのです。他のメンバーのせいなのです」
司教はそのまま渋い顔で何かを考えている。
「では、私が直接……」
「だ、大丈夫ですから! 間に合ってますから!」
「しかし、」
「ほら、もうちょっと呪文とか道具とか揃えたいし、シミュレーションは大事でしょ?」
「まあ、そうか、それなら……」
(よし。なんとかこの場はしのげた! まだみたいドラマがあるからあともう少しは……)
ソウリョはその日、教会で一夜を明かした。
*
マホツカは、魔法屋に足を向けた。
「あれ? もうあんた魔法コンプリートしてるよね?」
「いや、それがその」
カクトーと二人きりが気まずいなんて言えないマホツカ。
「ほ、ほら! あの根性なしたちと同じ空気吸いたくなかったから!」
「そうねえ。もう100日くらいいるもんねあんたら」
「そーなんだよ! もう困っちゃって! 催促してもダメなんですよ!」
魔法使いのおばあさんは重い腰を上げる。
「よっ……と。じゃあ、あたしが直接……」
「い、いや、そんな大魔法使い様のお手を借りるまでもありません!」
「でも……」
「あれです! 伝説の聖水が見つかりそうなんです! だからそれが手に入るまでは!」
「あの伝説の、ラスボスにも効くという聖水か!」
「そう、そうなんです! 明日にでも裏の滝に湧くみたいなんです!」
「ふむ、そうか」
魔法使いのおばあさんは納得したように黙った。
(そんなもの、あるわけないだろう! これでまだ何日か稼げるぞ!)
マホツカはそのあと異世界物の漫画を読みに漫画喫茶に向かった。
*
カクトーは部屋に誰かが返ってくる前に、病院に向かった。
「あんたねえ、健康オタクなのはいいけど、毎日来るところじゃないよ」
「ですが、ですが! もし、怪我でもしてたら、体調くずしたら」
「ラスボスと戦えないってかい?」
「そう! そうなんです! 私はやる気満々なのです!」
「じゃあ、何で行かないの?」
「他の奴らが、その話題を避けるのです!」
お医者様は、カルテを一瞥して、またカクトーへ向いた。
「じゃあ、儂がきゃつらに……」
「結構です! 大丈夫です!」
「しかし、カクトーよ。あんたがこんなにやる気満々なのに……」
「もちろん! ですが、奴らの言うことにも一理あるのです!」
「ほう。なんと?」
(ま、まずい。あいつらは何か言ってなかったか。何か、なにか……)
「そう、そうです! 毒地を進むための、金属の下駄が必要なのです!」
「ふむ。たしかに毒は毎ターンダメージをくらうからな」
「そう。そうなのです。完璧な状態でなければ、ラスボスは倒せないのです!」
「そうかそうか……」
(助かった! これで、まだ小説を投稿サイトに投稿できる!)
カクトーは部屋に帰り、パソコンに打ち込んだ。
*
翌朝。
4人の前には、町民全員が立っている。たくさんの荷物を持って。
ナイトが尋ねる。居酒屋の女将が答える。
「こ、これは……?」
「あんた移動手段いるって言ってたでしょ! 馬車よ馬車! 高かったんだから!」
ソウリョがおそるおそる聞く。司教が曰く。
「じゃあ、こっちは?」
「ほら、欲しがってた武器防具アイテムだ! これで行けるな」
マホツカが目を背けて伺う。魔法使いのおばあさんの言葉。
「ええと、その」
「いや、流石だ! 本当に伝説の聖水が湧いて出た! 持っていけ!」
カクトーが死んだ目をして黙る。医者は言い放つ。
「いや、ちょうどいいところに商人がきてな。買っておいたぞ4人分」
かくして、彼らの前にはすべてのアイテムがそろった。
町人4人は語る。
「いや、しかしそうならそうと言ってくれればいいのに」
「ほんとほんと。皆ホントは早く行きたかったんだのう」
「こっちも気が付かなくってごめんなさいねえ」
「ま、これだけあって、まさか『うそです』なんて」
町人4人の声がそろう。
「「「「言わないよねえ????」」」」
勇者一行は頷くことしかできなかった。
後から聞いた話では、彼らは案外あっさりラスボスを倒したらしい。
彼らは取材にこう答えている。
「ラスボスよりよっぽど、怖い敵がいたからね」
おしまい




