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ビビリパーティ、いつまでもラスボスと戦いたくはなかったんですが。

作者: 圷 啓
掲載日:2017/07/30

 最終バトルのダンジョンに潜る前に、ナイト、ソウリョ、カクトー、マホツカの4人はみんなで相談して、宿屋に泊まることに決めた。

 それも遥か昔。

 部屋は沈黙で満たされている。


 *


(だれかなんとかいえよ!)

 ナイトは耐えきれず部屋を飛び出した。


「お兄さんお兄さん! 安くしとくよ!」

「そう? じゃあ、おたくの店にしようかな?」

「へいまいど!」


 客引きに引かれ、ナイトは居酒屋へ今日も赴く。

 店に入ると女将がナイトを発見して、カウンター越しに話しかけた。


「あら、またあなたきてくれたの?」

「することもないんで」

「することもないって……、あなた勇者でしょ? ラスボス倒さなくていいの?」

「い、いや。俺は行こうって言ってるんですよ? ほら、皆がいやだいやだいうから」


 ウソがばれないようにナイトはぎこちない笑顔をつくった。


「まだそんなこと言ってるの? じゃあ、あたしが一言言ってあげようか?」

「いやいいですいいです勘弁してくださいお願いします!」

「……? でもあんたら、もう100日くらいこの町にいるよね?」

「いやマジ大丈夫なんで、ほら、無理やり連れてっても真面目に戦わないし!」

「それもそうねえ」

「移動手段も整えないとだから、ちょうどいいですよ!」

(あぶねえ。本音が思わずもれてしまいそうになった)


 そのまま、ナイトは一晩中、居酒屋で盛りに盛った。


 *


 ソウリョが沈黙に耐え切れず逃げ出した先は教会だった。


「おお、そなたは真に信心深い。素晴らしいシスターになれる!」

「はあどうも」

「うちでシスターにならないか!」

「いや、ほらでも、あたし、ラスボス倒さないと!」

「そうか、意志は固いか」

(そんなわけないでしょう! 行きたくないんですよ!)


 ソウリョはなんとか言い訳を考える。


「で、でも、他のみんなが行きたがらないから、なってもいい……かな?」

「なに?」


 司教は満面の笑みを作り、しかし、また暗い顔になる。


「しかし、そなたが行かないで、誰が倒すというのだ」

「そ、そうなんです。私は早く出発したいのです」

「なら、なぜ!」

「み、みんな、行きたがらないのです。他のメンバーのせいなのです」


 司教はそのまま渋い顔で何かを考えている。


「では、私が直接……」

「だ、大丈夫ですから! 間に合ってますから!」

「しかし、」

「ほら、もうちょっと呪文とか道具とか揃えたいし、シミュレーションは大事でしょ?」

「まあ、そうか、それなら……」


(よし。なんとかこの場はしのげた! まだみたいドラマがあるからあともう少しは……)

 ソウリョはその日、教会で一夜を明かした。


 *


 マホツカは、魔法屋に足を向けた。


「あれ? もうあんた魔法コンプリートしてるよね?」

「いや、それがその」


 カクトーと二人きりが気まずいなんて言えないマホツカ。


「ほ、ほら! あの根性なしたちと同じ空気吸いたくなかったから!」

「そうねえ。もう100日くらいいるもんねあんたら」

「そーなんだよ! もう困っちゃって! 催促してもダメなんですよ!」


 魔法使いのおばあさんは重い腰を上げる。


「よっ……と。じゃあ、あたしが直接……」

「い、いや、そんな大魔法使い様のお手を借りるまでもありません!」

「でも……」

「あれです! 伝説の聖水が見つかりそうなんです! だからそれが手に入るまでは!」

「あの伝説の、ラスボスにも効くという聖水か!」

「そう、そうなんです! 明日にでも裏の滝に湧くみたいなんです!」

「ふむ、そうか」


 魔法使いのおばあさんは納得したように黙った。

(そんなもの、あるわけないだろう! これでまだ何日か稼げるぞ!)

 マホツカはそのあと異世界物の漫画を読みに漫画喫茶に向かった。


 *


 カクトーは部屋に誰かが返ってくる前に、病院に向かった。


「あんたねえ、健康オタクなのはいいけど、毎日来るところじゃないよ」

「ですが、ですが! もし、怪我でもしてたら、体調くずしたら」

「ラスボスと戦えないってかい?」

「そう! そうなんです! 私はやる気満々なのです!」

「じゃあ、何で行かないの?」

「他の奴らが、その話題を避けるのです!」


 お医者様は、カルテを一瞥して、またカクトーへ向いた。


「じゃあ、儂がきゃつらに……」

「結構です! 大丈夫です!」

「しかし、カクトーよ。あんたがこんなにやる気満々なのに……」

「もちろん! ですが、奴らの言うことにも一理あるのです!」

「ほう。なんと?」

(ま、まずい。あいつらは何か言ってなかったか。何か、なにか……)

「そう、そうです! 毒地を進むための、金属の下駄が必要なのです!」

「ふむ。たしかに毒は毎ターンダメージをくらうからな」

「そう。そうなのです。完璧な状態でなければ、ラスボスは倒せないのです!」

「そうかそうか……」


(助かった! これで、まだ小説を投稿サイトに投稿できる!)

 カクトーは部屋に帰り、パソコンに打ち込んだ。


 *


 翌朝。

 4人の前には、町民全員が立っている。たくさんの荷物を持って。


 ナイトが尋ねる。居酒屋の女将が答える。


「こ、これは……?」

「あんた移動手段いるって言ってたでしょ! 馬車よ馬車! 高かったんだから!」


 ソウリョがおそるおそる聞く。司教が曰く。


「じゃあ、こっちは?」

「ほら、欲しがってた武器防具アイテムだ! これで行けるな」


 マホツカが目を背けて伺う。魔法使いのおばあさんの言葉。


「ええと、その」

「いや、流石だ! 本当に伝説の聖水が湧いて出た! 持っていけ!」


 カクトーが死んだ目をして黙る。医者は言い放つ。


「いや、ちょうどいいところに商人がきてな。買っておいたぞ4人分」


 かくして、彼らの前にはすべてのアイテムがそろった。

 町人4人は語る。 


「いや、しかしそうならそうと言ってくれればいいのに」

「ほんとほんと。皆ホントは早く行きたかったんだのう」

「こっちも気が付かなくってごめんなさいねえ」

「ま、これだけあって、まさか『うそです』なんて」


 町人4人の声がそろう。


「「「「言わないよねえ????」」」」


 勇者一行は頷くことしかできなかった。

 後から聞いた話では、彼らは案外あっさりラスボスを倒したらしい。

 彼らは取材にこう答えている。

「ラスボスよりよっぽど、怖い敵がいたからね」



 おしまい

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― 新着の感想 ―
[良い点] 意外とゲームをしているとあるあるな展開な気がしました。 ラスボスに挑む前に軽くレベルを上げようとか装備を整えているうちに、ラスボスをあっさり倒せるほど強くなっていた経験があります。 ナイ…
2017/07/30 18:38 退会済み
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