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ギザキの戦い 〜28〜 

 光と闇の狭間で戦うギザキの物語

28.崩落

 振り返ったギザキの目に映ったのは……三つの石柱。

 まだ青く澄み切った夕前の空に立つ巨大な墓標の如き三つの石柱。

 二つは橋脚の成れの果て。桁が……アーチ総てが崩れ落ちて、空に弱々しく聳えている。もう一つは城の残骸……一枚岩を刳り貫いたかのような岩城が崩れ落ち、それでも凛と立つ鐘楼。それらが……遥か下の樹々に破片を降らせ軋ませながらも辛うじて立っている。

「ここまで……崩れたのか?」

 ギザキが驚く間に一つの石柱……手前の石柱と奥の鐘楼の間に辛うじて立っていた石柱が音を立てて崩れ落ちた。震動がもたらした亀裂が石柱の総てに周り、自重を支えきれなくなったのである。

 地響きがギザキの立つ隧道前の岩山をも震わせる。残る二つの石柱もその震動に震えている。今にも崩れそうに震え揺れている。

 そして……その残った石柱の上に佇むのは……焼け爛れた手を握り、こちらを……聖宝の楯に護られ聖剣を振るい魔獣を倒したギザキを真っ直ぐに、穏やかに見つめるノィエだった。

「終った……ね。うぅん。始まるのよ。これから……」

 ギザキはノィエが何を言っているのか判らなかった。判るのは……ノィエの命が風前の灯だという事。いつ崩れ落ちるか判らない石柱。墓石の如く無慈悲に立つ石柱の上にいるノィエを救う事が……救う手段を何一つ持たない自分自身という存在。

「ノィエ! 今、助ける!」

 考えるより先に言葉にするが、その方法は思いつかない。

 岩蜘蛛の術? 辿り着く前に……いや、辿り着いたとしても石柱を無事に降りるより先に石柱は崩れ落ちるだろう。何よりノィエの手が持たぬ。焼け爛れた手で術を使っても……滑り落ちるだけ。それ以前に岩肌が持ちそうにない。下手に掴んだら岩塊ごと落ちて行くだろう。

 何かの助けを捜そうと辺りを見る。だが、何も無い。何も見つからない。

 今、二つの聖宝を我が身に纏い、禍々しい魔獣を、魔の化身となった仇敵と魔獣のキメラを木の葉を千切るかのように容易く倒しながら……神の如き武威を持ちながら、目の前の……ただ一人の少女を助ける術が無い。

「くっ! ……御老体? ……っ!」

 何か助けは無いかと城を見やったギザキの眼を止めたのは……既に崩れ落ちた城に立つ鐘楼の根元。城の残骸の中で唯一つ凛と立つ鐘楼を一人で掲げ持つ老執事の姿だった。

 一枚岩を刳り貫いたかと思えた岩城も既にその姿はなく、鐘楼だけが……天に突き刺さるかのように凛と立つ姿を残すのみ。その一つ岩で出来ているかのような鐘楼を魔剣の振動から倒壊を防ぐために掲げ持つ老執事の姿。何故か折れた刀の柄を握る片手、片腕をだらりと垂らしながらも、もう片腕で……膝折りながら辛うじて立つ身体で掲げ持つ鐘楼。

 信じられぬ、人知を超えた凄まじき光景。

「! これは……!」

 よく見れば……鐘楼からの歌声が光の鎖となってノィエがいる石柱を縛り支えている。自分がいる鐘楼を護らずにノィエがいる石柱を護っている。しかし……歌声の守護も崩落の時を少し遅らせるだけの力しかない。魔物を容易く葬った聖歌も……自然に崩れ行く石柱を留める力は無かった。崩落の音が次第に多く……大きくなり、石柱の崩壊の時が近い事を告げている。

「ギザキ……信じてる。私を……捕まえて。御願い。私に術を……帰順の術を掛けて」

 何一つ助ける事ができぬギザキを信じるノィエ。

 ノィエのいる石柱を留めようと歌う姫。

 その姫のいる鐘楼を人知を超えた力で支え留める老執事。

 皆がノィエを助けている。ノィエの命を留めている。

 何一つ……何もできず立ち尽くすギザキを……ノィエの言葉だけがその事実を否定していた。

「帰順の術? さっきの……アレか? あの術で……人を?」

 刀身の無い柄だけを呼び寄せるのにも危うかった術を人に……ノィエに掛ける事に躊躇う。

「大丈夫。大丈夫だよ。私、信じてるから。だから……」

 ノィエの次の言葉は……岩の崩落音が掻き消した。石柱の中ほど……亀裂が集中していた所が自重を支えきれずに裂け割れ、崩落し始めた。


 奈落へと……



 読んで下さりありがとうございます。


 この作はアコライト・ソフィアの外伝という位置づけになります。


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