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ギザキの戦い 〜26〜 2

 光と闇の狭間で戦うギザキの物語

 ギザキが橋の残骸と共に落下した時、ノィエは祈りながら見つめていた。ギザキが向うの橋台にしがみついた時、安堵の息をついた。心から。が、即座に呑み込む。地響きが止まったのを何故かと思い、敵の様子を見ると……一人の兵士が橋脚を登り上がるギザキを待ち受けんと剣を構えながら破口に近づいて行く。昇るギザキから兵士の姿は見えない。

(このままでは……)

 ギザキと言えど苦戦するのは見て取れた。

 無論、この時のノィエの心配は杞憂に過ぎなかった。だが、ギザキの力量の総てを未だ知らぬノィエにとってギザキが陥るであろう状況は絶望的に思えたのである。

(……なんとかしなきゃ。なんとか……)

 崩れた橋の向うのギザキを助ける方法。何らかの助けになる方法。慣れぬままに戦闘の状況を思い描き考える。そして得た結論は……

(そうだ! 剣! ギザキは剣を『持てない』んじゃなくて『持たない』って言ってた。持てるのよ。剣が在れば……魔獣だって倒せるんだから!)

 ギザキとの会話を想い出し、その可能性を信じた。

「爺っ! 剣を! 剣は無いの?」

 老執事は戸惑いながら応えた。

「……在るには在りますが……全て下の城下の方に……今からでは」

(間に合わない!)

 ノィエも老執事の言わんとする事が判っていた。先の災厄。城の全ての者達が死に絶えた時に、もう使う事は在るまいと、亡骸と共に墓の中に埋葬してしまった。それ以外の剣は……

「後は……この剣……ですが。この剣では……既に……」

 老執事が腰に下げている一振りの長剣。それを見た時、ノィエの脳裏に在る事が閃いた。

「そうよ! あの剣……聖宝よ! 今、使わなきゃ……いつ使うのよ!」

 言葉を残し、即座に駆け出すノィエ。城の地下……聖宝を安置する宝物庫へ向かって。


 息も絶え絶えに宝物庫に辿り着き、扉に手をかける。だが……ぴくりとも動かない。既に敵の呪法……石橋を崩し、少なからずこの岩城をも崩しかけていた地への干渉魔術が……地を揺るがす地震が扉を歪ませ、開ける事を拒絶させていた。

「開けて。開けて。開けてっ! ……どうして開かないの? 私は……私達はこの城を、聖宝を護って来たのに! どうして? どうしてなのよっ!」

 石の扉を叩き、恨み言を吐く。吐かずにはいられなかった。何故に護って来たのか? 何故、求める時に扉を閉ざされるのか。ノィエにとってそれは理不尽な出来事そのものだった。

「ギザキが……ギザキが死んじゃう! 死んじゃったら……アナタを護る者など誰もいなくなるんだからね! 開けなさい! ……きゃあぁぁっ」

 不意に襲う地響き。新たな振動は岩城の中をも崩し、ノィエの頭上に砕けた石の雨を降らせる。

「お嬢様! これに!」

 いつの間にか追付いた老執事が身を挺してノィエを護る。

「爺! 私はいいから……扉を……扉を開けて! 私が……あの聖宝の剣を取り出すから! 今すぐ扉を砕いて!」

 ノィエの言葉には覚悟が籠められていた。

「宜しいのですか? む……ぐぉっ!」

 突如、回廊の天井が崩れ、ノィエと老執事を襲う。老執事はその老体を投打ち、岩塊を背に受け、少女を護った。

「……爺。もうこの城は……崩れてしまうわ。ならば、あの剣を……ギザキに届ければ、私がギザキに届ければ……少なくとも失われる事はない。護る事はできる。違う? 私の言う事、間違っている?」

 覚悟を決めている少女の額に一筋の紅き血の流れ。少なからず傷を負っているノィエが……自らの傷を気にもせずに少女が涙ながらに訴える。老執事は……覚悟を決めた。

「……結界を。すみませぬが、御自分の身を御護り下さい」

 ノィエは小さく頷き、白魔法の呪法……結界呪文を唱えながら老執事の背中を見ていた。きぃん、と乾いた音と共に薄い光のベールがノィエの身を護ったのと同時に老執事の剣が歪み動かぬ扉に振るわれた。見えぬほど鋭く、重き一撃が扉を……分厚い、重く頑丈な岩の扉をまるで爆破したかのように粉々に打ち砕き、四散させた。

 破片がノィエを襲ったが、結界がそれらを弾き飛ばす。石埃が視界を奪ったが……それも一瞬。爆圧で……老執事が振るった爆発的な剣圧がもたらした風が埃を吹き払う。そして……聖宝を護る石像の向う、聖宝を持つ石像がノィエの眼に映った。

「やった! ……え?」

 ノィエは我が目を疑った。動かぬ石像が。聖宝を護るかのように置かれた石像の一つが……ゆっくりと……爛とその目を光らせてこちらに向い動き始めたのである。

 それは……古の呪法に因り聖宝の守護を命ぜられ、強大な法力が籠められた石像。賊から、資格無き総ての者から聖宝を護る為に置かれた守護の石像だった。

 石像は最初、ゆっくりと動いていた。辺りを窺うように。誰が敵かを見定める為に、ゆっくりと……

 そして扉を破ったノィエ達を見ると、石の剣を振り被り襲いかかってきた。ノィエ達を……聖宝を奪う盗賊と判断したのである。

「止まりなさい! 私達こそが聖宝を護る者! 護持する者。御前と……同じく聖宝を護持する御前と戦う謂れは無い!」

 ノィエの言葉は宝物庫に響き……無為と消えた。古よりの呪法。どの様な呪法かも判らぬ法力に従い動く石像に……ノィエの言葉は届かない。

「きゃあぁぁぁぁ!」



 読んで下さりありがとうございます。


 この作はアコライト・ソフィアの外伝という位置づけになります。


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