ギザキの戦い 〜20〜
光と闇の狭間で戦うギザキの物語
20.夜明けまで……
「……夜が明けるまで、俺は……其処にいて……朝日の中に……その眩い耀きの海の中へ姫を沈める事しかできなかった。そのまま、一緒に……沈もうかとも考えたが……憎しみが……俺をこの世に留めた」
ギザキの言葉に禍々しい力が篭る。感情が昂ぶって行く。
「あの……全てを、国を……城を……姫をも自分の意のままに操ろうとした。操る事を自分の力と、権力の証しとしていた奴等。それが正義を失わせ、皆に黙従を強いた……押しつけようとしていた奴等をこの手で……奴等の首を。そして、国を滅ぼした……姫を失う原因となった自分自身を……」
「駄目よ! 駄目っ! 闇に心を奪われては……闇に染まっては……何にもならないわ! そうでしょ?」
ギザキの横で泣き続けていたノィエが顔を起して強く否定した。感情の全てを掛けて。ノィエの真摯な瞳にギザキは自嘲して弱く応えた。
「……闇に染まろうとも……とは考えた。だが……独りでは何もできなかった。精々……オーヴェマに抗う国の傭兵となって、あの国を……あの国の勢いを押える勢力に身を投じる事だけしかできなかった。しかし、戦う相手はオーヴェマの兵とは言え只の雑兵。あの時の相手、漆黒の鎧を纏う魔兵団とは違う相手では……ただ空しさだけが……残るだけ。だが、俺は……国を失った今は只の駒。それでも戦う事……傭兵として戦う事しかできない……できなかった」
「……十分だよ。それで十分じゃない。信ずる人達のために戦い……生き続けたんだもの。それでいいじゃない。違う?」
涙を流しながら諭すノィエ。その姿にあの……幼き頃から共に過した姫の面影が重なった。
「そうか……それで……よかったのか」
力なき言葉。だが、その言葉に闇の……憎しみの影は無かった。
「うん。そうだよ。うん……」
「そうか」
ギザキは目を閉じ、深く息を吐いた。これまでの……城が落ちてからの全てを吐き出すかの様に。深く、ゆっくりと……静かに……長く。
「じゃあ……そろそろ行くね」
自分の涙を拭い立つノィエ。その姿を眩しそうにギザキは見上げた。
「じゃ、おやすみ。えっ!」
ギザキの表情から影が消えたのを見て安心したノィエは部屋を出ようとした。その手を……
「……頼む。此処にいてくれないか?」
ギザキが掴み、留めた。
暫く、ほんの短き静寂の時……ギザキにとって静かに永き時が流れ、ノィエにとって安らかな時が爆ぜた。
「……うん」
消え入りそうな笑顔、何故か涙を浮かべた瞳でノィエは応え……ギザキの腕の中に飛び込んで来た。
そして……
二人は心の傷を重ね合わせた。
夜明けまで……
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この作はアコライト・ソフィアの外伝という位置づけになります。
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