ギザキの戦い 〜18〜 2
光と闇の狭間で戦うギザキの物語
城を出、決闘会場のある王宮へと向かう。ギザキは振り返る事なく、ただ馬の背に身を預けていた。
今生の別れになるかも知れぬと城内の者達が大勢、見送りに出た。何も言わず。ただ武運を祈って。
だが、大勢の見送りの中に姫の姿は無かった。
姫は見送らず、城内の寺院で待っていた。戦いの終わりを。城にある寺院で祈りを捧げて待っていた。見守る老いた王妃と共に。
その様子を影から窺う邪悪な視線にも気付かずに……
「恐く無かったの?」
「……恐く無いといったら嘘になるのだろうな。楯を授かった事は良く憶えているが……闘技場にどうやって行ったのかは良く憶えていない。闘技場に置かれた黒い……禍々しいまでに黒い鉄の箱が開けられて敵の、魔獣の姿を確認した時も、何も……何一つ心を動かさずに見ていた。其処だけは憶えている。箱が……鉄の扉が地面を叩いたのは見ていたが……音は……何の音も聞えなかった」
朽ちた大木に太い蛇が数十匹も巻付いているような禍々しい姿。
民衆は悲鳴を上げ、心弱き淑女の中にはそれだけで気を失う者もいた。だが、気を失わずにいた者は凄まじき戦いを目の当りにした。
人間が……次世の王が恐ろしき形相で疾風のような速さで魔獣に立ち向かう姿を。
赤黒き血が霧となり辺りを包む。法術士達の解毒の結界が血の霧を光で包み込み白き霞へと変えて行く。
その中で……独り。
孤独に戦う男の姿を民衆達は息も継がず、声も出さず、身動ぎ一つせずに見つめていた。
無息のままに両の大鉈を振るい、赤黒き血飛沫を浴びながらも、首を撃ち倒し続ける姿を。
火焔と氷結と石化と雷の息を、巧みに避け、腕の楯で首を叩き撃ち、即座に大鉈で叩き落とす。
再生を続ける触手を……魔獣の首を魔神のような……鬼神のような姿で薙ぎ払い、魔獣に何一つ臆せずに戦う男の姿を。息も継がずに見続けていた。
やがて……最後の首が撃ち落とされ、男が天に向かって叫ぶ。
その叫びに民衆の歓喜が呼応した。
「勝った時、何を叫んだのかも……憶えていない。城の……城の方を振り返った時、其処に……炎が、城から炎が上がっていたのだけは憶えている」
ノィエはギザキが何を話し始めたのか、直ぐには判らなかった。
「……炎! どうして? どうして燃えてたの? 勝ったんでしょ?」
疑問は当然だった。
「……魔獣を。魔獣と戦う事だけに皆が気を取られていた。だから……魔獣を連れて来たヒュエ国の者たちが、ヒュエの国の者達ではなく……密かに港に着いた船が兵団を乗せて来た事に気が回らなかった。兵団の存在に気付いた者もいたのかも知れない。だが……魔獣が居た。兵を……兵は魔獣を押える為だろうと思ったのかも知れない。つまり……つまり、王が言ったとおり、魔獣との戦い自体が茶番に過ぎなかったのさ。国を滅ぼそうと思って侵略して来たオーヴェマの魔兵団にとっては!」
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この作はアコライト・ソフィアの外伝という位置づけになります。
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