ギザキの戦い 〜18〜 1
光と闇の狭間で戦うギザキの物語
18.戦いの日
ギザキが考えついた攻撃方法で他の対応が定まった。防御よりは素早い攻撃を行う為に親衛隊が装備する長楯は持たずに両腕に比較的、小さな円楯を装備する事とし、猛毒の血は事前に解毒の法術を掛ける事で対応する事にした。時と共に効果は薄れるが、長き間に渡って剣を振る事は適わぬ以上、短時間で決せねば勝利は有り得ぬという事で決まったのである。鎧も騎士が用いる物ではなく、傭兵達が用いている軽量な物。これも魔獣の首、いや、触手を素早く避けねばならぬという事情から決定した。
相手……相手となる魔物が到着するまでの二十日余りの間、ギザキは双剣を自分の物とする為の鍛錬に勤しんで……いや没頭していた。
「今思えば……」
目を伏せ、ギザキは呟いた。後悔の念を込めて。
「あの時、決闘までの日々で姫と話す事は……時をあまり持たなかった。それが間違いだったのかも知れない。もう少し……姫と話をして居れば……姫は自分自身をあの様に追い詰めなかったかも知れない……」
ノィエはギザキの目の前で……自分を見ずに話すギザキを悲しげに見つめていた。
「これを持って行け」
決闘の日、父親から一つの楯を授けられた。
手に持つと軽い。軽いと言っても他の楯と比較では在るが、予め用意していた小円楯よりは一回り大きい割りには重さは半分近く軽かった。
「父上。これは?」
「我家に代々伝わる楯だ。言伝えでは、この国の建国時に先陣で戦った者達に時の国王から贈られたという。先の聖魔大戦の時から伝わるという由緒正しき楯。並の楯のように小塊から叩き出したのではなく、一つの大塊から削り出した物だと言う。今日の戦いに使うが良い」
「父上……」
長き間、あまり話す事はなかった。寡黙な父。兵卒としての心構えだけは幼き頃からその寡黙な背中から教わっていたような気がしていた。
「宜しいのですか?」
「この家の世継は御主一人。この戦いで破れたならば、その楯も無用となろう。遠慮せずに使うが良い。伝承では炎を弾く楯だという。しかし……既に数百年の時を経て、どれ程の効力が遺っているかは疑問では在るが……無いよりはマシと考え、道具に頼るでは無いぞ。良いな」
既に兵としては引退し、穏やかだが太き声に情愛が込められていた。
「判りました。使わせていただきます。では」
楯を受け取り、馬に乗って城へと走り去る姿を父と母が見送っていた。いつまでも……
「城へ行くと城門で友が待っていた。ガキの頃から城から帰ると遊んでいた悪友だったが、俺と同じ没落貴族の裔。そいつが似たような楯を持って待っていた」
「おい! ギノ。この楯を使え。俺の家に代々、伝わる楯だ。飾って置いても仕方ねぇから今度の戦いに使ってしまえや」
「いいのか?」
「ふん。構わねぇさ。でな、勝ったらこの楯にサインしてくれ。次世の国王が最後の決闘に使った楯だ。高く売れるぜぇ」
「おいおい。いいのか? 代々、伝わる物だろう?」
「構わねぇって。どうせ、いつかは売っぱらうんだ。だから……いいか? 絶対、勝てよ。いいな? 約束しろ。こぉら」
「判った。判った。小突くなよ。大事に使わせて貰うよ」
「馬ぁ鹿っ! 楯なんぞを大事にしてどうするよ。ぼろぼろになるまで使ってしまえ。その時の傷が勲章なんだからよ。楯は。いいな? 遠慮なんかするんじゃねぇぞ」
「なんか……いいね。友達って」
ノィエはギザキの横に膝を抱えて座っていた。羨ましそうな笑顔で
「ああ。悪友だったがな。それで城内に入ると、もう二つ楯を授かった」
「誰から? 友達?」
「いや、師である親衛隊長と、もう一つは国王から……」
「国王様から? それがあの楯? 全部、同じ紋様なのに?」
ギザキが装備していた四つの楯。三つ月の紋様は勿論、大きさも重さも同じだった。
「多分、建国の時の記念の物だから。その時の有力者達に同じ物が贈られたんだろう。既に時の魔術者達も鍛冶屋も見た事も無く、造れる事もできないと言ってはいたが、ただの世辞だろう。王と先陣達への配慮と……魔獣との戦いに向かう俺に対する……」
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この作はアコライト・ソフィアの外伝という位置づけになります。
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