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ギザキの戦い 〜17〜 2

 光と闇の狭間で戦うギザキの物語


 それから国の魔導師、剣術士を挙げて対策が練られた。既に単に象徴として在る王族の……王となる為の決闘ではなく、国の総ての尊厳と威信を掛けての戦いとなっていた。

「……ですから。防御呪文を戦いの間中、常に掛けているのは、術者の法力が切れた時に隙が生じます」

「だからといって、事前に掛けているのでは、効力が時と共に薄れるでは無いか」

「よく切れる刀、しかも出来うる限りの長刀で首を薙ぎ払うのです」

「違う! それでは直ぐに疲れてしまい長時間戦えん。振り切れる長さの刀で横から首、つまりは触手を断ち切るのだ」

「そのような長さでは近づかねばならん。近づいては断末魔の火焔の息などを浴びてしまうではないか」

「火焔の息ならば断炎の術を使えば少しは……」

「魔獣の息を術で防げるわけがない。せいぜい、弱めるだけだ」

「しかも息は火焔だけでは無い。石化の息も、雷の息も、氷結の息もあるのだ。火焔を防ぐ術法は氷結の息の勢いを相乗させ、一瞬で凍りついてしまうわ!」

「それ以前に戦いの間に術法を使えというのか? それこそ刀を振るう機を逃してしまうぞ。他の者が掛けると言うならば、その者の法力に左右されてしまうではないか!」

「他の者が掛ける? それは決闘の条件に最初から違反している」


 広間で議論する魔術師と剣術士の姿を静かに見ていた親衛隊長は深く溜め息を吐くと庭に出た。深き霧が庭を覆い行く手を遮ったが、隅々まで知っている彼にとっては霧は何の妨げにも為らず、他の者を退けるベールとなった。

(……決め手は無い。彼の国、魔獣を手懐けているヒュエ国でも独りで戦う事はないという。どうすれば……)

 剣の師としてギザキの才を少なからず惜しんで居た。庭先を通り、親衛隊の待機場に着いた。訓練場でもある城の曲郭にある撃木。端にあるのは他とは違い一つだけ背の低い撃木。それは……

(彼奴は……幼き頃から姫の相手をし、姫が習い事等をしている間、ここに来てこの木を……木刀で撃ち続けていたのだ。あのような……他にも遊びが在った頃から。自分が……自分自身が姫を護るのだと言い張っていた。揶揄い半分に撃木を削り倒したら、銀の剣を授けようと言ったのを真に受けて……たった五年で削り倒しやがった。精鋭……怪力の兵士ですら削り倒すのに七年はかかるという剛樫の撃木を)

 撃木を軽く叩いて、表面の字をなぞる。

(……成長して親衛隊に入ったら頂きますと言いやがって……この木が、この文字が証しだというのに、……その約束も果たさせぬうちに)

 感情が昂ぶり、涙腺が潤む。

(……何か、何か手はある筈だ。考えねば。師として、いや、剣を授けると約束した者として考えねば……俺は彼奴にこの剣を渡さねばならんのだ)

 腰に下げる真紅の象眼が施された銀の剣。それは親衛隊精鋭の証し。それを授ける為に時を待っていた。それが……時がこのような事態を連れてくるとは。

(えぇい! 考えが纏まらん……ん?)

 霧の向こうから何か音が聞えてくる。

(風切? いや、剣の?)

 ひゅんと軽く、しかし鋭い音。不意に霧がすぅと晴れた先、郭の奥に居たのは……

「ギノ! 何をしているのだ?」

 親衛隊長が見たのは、短く幅の広い刀……長めの大鉈と言ったほうがいいだろうか……見慣れぬ異形な刀を両手に持ち、振るうギザキの姿だった。

「え? あ、隊長。魔獣を打ち倒す鍛錬をしていたのです」

 隊長の姿を見て、ギザキは刀を片手に纏め持つと、首に下げていたタオルで汗を拭った。

「魔獣を? そんな……異形な刀でか?」

 見れば見るほど異形な刀。猟師、いや山賊ならば持っていても不思議では無いが、剣士が持っている姿は……異形の一言に尽きた。

「友が山に猟に行く時に持っていた鉈、藪掃という奴を想い出して考えたのです。このような刀ならば一撃で首を断ち切れるのでは無いかと。それに自然に接近戦になりますから……つまり、断切る時には首の横に立つ事になり、息を浴びる事はなくなります。それで、このような刀が最適では無いかと思い、鍛冶屋に作って呉れるよう頼みに行ったのです。が、隊長。世間は広いです。これは樵夫達が使う大枝打という奴らしいです。こいつが鍛冶屋にはごろごろ転がってましたよ。握柄は変えてますが、この腕通しという奴は元のままです。これって血や汗で滑っても落す事なく即座に握り直せるという便利な物です。やはり道具という奴は使い込まなければ何の役にも立たないという隊長の言うとおりの……どうしました?」

 ギザキが魔獣を打ち倒す事を考え……いや、考えているだけではなく、方法を鍛錬する所まで既に到達している。

(此奴は……此奴という奴は……)

 親衛隊長は改めて、ギザキの……幼き頃から剣を教えてきた者として、目の前の若者の天賦の才に感服していた。自然に涙が零れた。ただ……ただ、零れていた。

「泣いているのですか? 隊長」

「馬鹿もん! 霧が水滴になっているだけだ。今日の霧は無闇に水気が多すぎる。それだけだ」

 誰もが強がりと判る言葉しか隊長は言えなかった。



 読んで下さりありがとうございます。


 この作はアコライト・ソフィアの外伝という位置づけになります。


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