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ギザキの戦い 〜14〜 1

 光と闇の狭間で戦うギザキの物語

14.選礼式の日


「姫の選礼式が執り行わる時は国中が浮れていた。婿候補となる諸国、諸侯の青年達が集まり、その警護の者達。それぞれの国からの旅行者。さらに関係国からの使者達。全ては姫の選礼式、つまりは続けて行われる婚儀のための参拝者や、物見の旅人達で国中があふれていた。その中に……あの中に彼奴らが居る事なぞ誰も判らなかった」

 ギザキの言葉に怒りが……怨みが込められて行く。ノィエはただ黙ってギザキの話を聞いていた。



「これより、姫の選礼式を執り行う。諸侯の方々。御静かに」

 執務大臣……王族の儀礼全てを執り行う為に選ばれた儀礼式典に詳しい識者が選礼式の開催を宣言した。城外から合図の花火が打ち上げられ、城下町は静かな、厳かな興奮に包まれていた。

 雅奏楽が静かに流れ、王宮に集う諸国、諸侯の視線が玉座に注がれた。王宮の壁の向う、市街地からも物見高い民衆達が息を潜めて注視している。

 ゆったりと時を待って玉座の真中に座っていた姫が席を立ち、ベールの外に現れた。

 金糸、銀糸に華やかに飾られたドレス。眩く耀くティアラ。見る者を圧倒する気高さ。そして万人が認める凛とした美しさ。たおやかな仕草。全てが未だ幼き姫を次世の女王、この国の象徴として認め得ずには居られなかった。姫は玉座から続く絨毯の先、一段高い壇上に二つの大理石の柱と共に設えた煌びやかな御座へと歩みを進める。諸侯の奥方、御息女達が思わず漏らす溜息が、その場に流れる音楽をより一層、厳かな響きへと変えていた。

 二つ並ぶ御座の向う、豪奢な絨毯の上に婿となるべく集まった諸侯の子息が並び立っている。子息達は先程までの傲慢な自信と薄弱な不安を忘れて唯々、美しき姫を息も継がずに見つめていた。

 姫は御座に着くと、そのまま座らずに首を飾っていた虹絹の細布を外して自ら目隠しをした。素早く従者が近づき、両側に箱を捧げ持つ。右手の箱の中には六つの宝石を封じた水晶玉。白の真珠、赤のルビー、青のサファイヤ、黄の純金、緑のエメラルド、黒の黒真珠。其々を封じ重さも形も同じ水晶玉が入っている。左手の箱には、銀で造られた道具装飾を封じた水晶玉。杖は魔導、重鎚は鉱山、釣針は水産、鍬は農産、天秤は貿易を示していた。

 すべて諸国諸侯の象徴。両手で選ぶ二つの水晶玉で、婿となる諸侯の子息が決まる。

 雅奏楽が止み、静寂が王宮を包んだ。

 その場に居る総ての人々が姫の指先、今は箱の中に在る指先がどの水晶玉を選び出すかを見つめていた。

 姫は祈りを捧げるかのように、ゆっくりと天を見上げて、箱から二つの水晶玉を引上げ、高く掲げた。


 掲げ持つ二つの水晶玉の中にあったのは……




「何があったの?」

 目を耀かせて尋ねるノィエ。やはり、年頃の女の子。こういう話は好きなようだ。

 ギザキは懐かしさに少しだけ笑って応えた。

「一つは何も封じて無い只の水晶玉、もう一つの中には……」




 剣の形の銀細工。それは間違いなく剣士を意味していた。

 二つの水晶玉を天に翳して姫が高らかに宣言した。

「この二つの象徴が示す者よ。精霊が知り示した者よ。この御座に参られよ。その者こそが我が夫。我が婚姻の契りを結ぶ者。さぁ! 此処に! 直ぐにこの場へと参られよ!」

 諸侯達はあっけにとられ、言葉を無くしていた。只の水晶玉、何一つ宝玉を宿していない水晶玉が意味する者? それは諸侯の子息の中には居ない。剣士? そのような象徴を持つ国も無い。小さなざわめきが、非難の声となり、罵声となった。

「馬鹿な! そのような印を持つものなぞ此処には居ない!」

「マィツケルブ国王殿! あの水晶を捨て、今一度選ぶよう姫に申されよ!」

 だが、王と女王は微笑み、静かに待っていた。

「国王陛下! あの水晶玉は何の意味も無い。意味のない物なのですぞ?」

 堪らず、執務大臣が国王に進言した。

 だが、王の近習の者達や王宮の壁から覗き込んでいる民衆達は、その二つの水晶玉が示す意味を知っていた。

「此処に居るぞ!」

「その水晶が……精霊が指し示す者が此処に居る!」

 人々が声に振り返り見たのは……親衛隊の新兵。王宮の門番として警備の任についていたギザキだった。




「何で何も無い水晶玉が? なんでギザキなの?」

 何故かノィエは少しだけ不機嫌そうだった。

「俺は最後の選礼式でも水晶を引いたのさ。ま、そういう珍しい事は既に城下に知れ渡っていた。7回も水晶を引き続けた希有な人間として。親衛隊に就いていたのは俺の剣の師が改めて選礼を行い、真珠を引き当ててくれた御陰だったが。まぁ、あの時は何の事だか呆気にとられて良く憶えていない。憶えているのは……親衛隊の仲間や上役に手荒く祝福されて姫の前へと進んで行った事だけだ」




 読んで下さりありがとうございます。


 この作はアコライト・ソフィアの外伝という位置づけになります。


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