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ギザキの戦い 〜1〜

 光と闇の狭間で戦うギザキと3人の姫の物語

1.運命の時

 闇……

 漆黒の闇の中、天窓から紅き月と蒼き月の微かな明りが部屋の置かれた黒檀の机を仄かに照らし出す。

 机に紫紗の布がふわりと掛けられ、端々の英紗が一つの皺もなく布を張る。

 音もなく燭台が置かれ、軽い音と共に炎が燈となって灯る。

 小さな燈は二つに別れ、やがて四つに別れた。

 四隅に置かれた燭台の揺らぐ燈の中に水晶玉。

 白く細長く流麗な指が中央に水晶玉を置き、中を翳し見てから隅の燈の前へと移す。

 同じ動作が三度行なわれ、燈の前に四つの水晶玉が安置された。

 四つの燈と水晶玉の反射に浮かび上がったのは白き……絹布のベールに覆われた若く美しき淑女。ベールの向うの顔は見えぬが緊迫した雰囲気が鋭く澄み切った瞳に映し出されている。

 白き指が絵札……色々な文様、精霊、人物が描かれたカードを操り、水晶玉を通して紫紗に浮かぶ光の紋様の位置に置いて行く。

 やがて……17枚目のカードが中央に伏せて置かれ、18枚目のカードと19枚目のカードも左右に伏せて置かれた。さらに上に2枚、下に3枚のカードを伏せ置く。

「……今回の……今夜の占いがこの城を……私の運命を決めるようです」

 美しく凛とした声。若き女性の声が、静かに響く。

「とうとう……姫様。この時が来ましたか……」

 壁近く、弱き燈が辛うじて届く壁近くに立つ老人。老いたとは言え、気丈な響きが只者ではない事を物語る。

「私を『姫』とは呼ばないで下さい。婚儀が……いえ、何れにしてもそう呼ばれる事は無くなるのですから」

 若き姫の声が諌める。

「判りました。肝に銘じて……もう御呼び致しませぬ。ですが、せめて今宵は『姫様』と呼ばせて下され。せめて、この占いが終る時まで……」

「判りました。今回は……やっと今回のカードの配置がこの城の運命を顕す配置になりました。……一角に『使者』と『貢物』。二角に『十字天秤』と『燃える水滴』、三角に『剣』と『戦』、四角に『城』と『淑女』。私とこの城と……総ての運命を顕す配置に」

 若き姫の声が安堵と不安の響きを老人に告げている。

「では、姫様。御示し下され」

 老人の声に促されて白き指がカードをめくる。

 中央に並んだ3枚のカードの真中のカードを。

「……これは『剣士』。『戦陣に向かう剣士』のカード」

「おぉ。実に、実に望ましいカードです」

 右のカードをめくる。

「! 『三つ月の印』! つまりは『古からの縁者』。古代ムーマ王国に縁或る者?」

「おぉ。それは喜ばしい。この城の運命を……姫様の運命を委ねるには最も望ましい象徴。有難き事です」

 感動する老人にゆっくりと静かに頷き、白き指が最後のカードをめくる。

「えっ!?」

「何か? どうされましたか? 姫様」

「闇……魔が巣くう『闇夜』のカード。闇を……魔をもたらす者?」

「なんと……」

 白き指から残りのカードが落ち、ゆっくりと床に散って行く。

「……姫様。もう一度。今、もう一度、占いをなされては?」

「いえ。これを運命と決めたのです。早速、手配をお願いします。この者とこの城と……総ての運命を受け入れる為の手配を。結界の準備を。それと……」

「はい。なんでしょう? 姫様?」

 くすりと若き姫は笑って席を立った。

「約束です。もう『姫』とは呼ばないで下さい。それが私の運命なのですから」

 立ち去る姫の後姿を最敬礼の老人が見送っていた。


 老人も立ち去り、閉じられようとした扉をすり抜けた風が紫紗の上のカード……運命を示すカードの上に置かれていた2枚のカードと下に置かれた3枚のカードを床に散らした。

 二つの月の明かりに照らされたそのカードの絵柄は……『草原』と『新たなる契約』、『石像』と『崩れた城郭』と『3つの墓石』。

 未来と過去を顕す位置のカード。自ら決めた運命の未来を顕す数枚のカード。

 姫はそれらを見る事はなく、部屋は閉じられ封印された。永遠に……



 読んで下さりありがとうございます。


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