ギザキの戦い 〜12〜 2
光と闇の狭間で戦うギザキの物語
広場、石化した広間で二人は並んで座っていた。既にノィエの激昂は収まり、無言のまま二人は座っていた。
静寂を破ったのはノィエの……囁くような声だった。
「この街は……この城はね、何度も魔物や闇の勢力に襲われ続けたんだって。何度も襲われて……その度に再建して……でも街の人が襲われる度に居なくなって……とうとう城だけになったんだって。でも、その城も……」
ギザキはノィエの頭を抱いて、先を言った。
「……襲ったのは、魔物……いや闇の者たちか?」
抱かれた腕の中で少女は小さく頷く。
「誰も見てはいない。記してもいない。けれど……そんな事をして……そんな事をするのは闇の……魔物しか思い浮かばないから。こんな山の中の城なんて領地にしても何の役にも立たないわ。だって、そうでしょう? 街道どころか道一つない山の中、山の峰に囲まれて何処にも行けない国、何の産物もない国を……城を領地にしようなんて……城の総ての古文書を読み返しても、どんなに戦が迫っていても此処を襲った国は無いわ。襲うのは魔物達、闇に心を奪われた人達だけ……だから……だからっ!」
「判った。もう言うな。判ったから……」
腕の中で少女は小さく頷いて目を閉じた。
ノィエが魔物を恨み、怒り、憎む理由。それはノィエの悲しみと純真すぎる感性が彼女に与えた感情。ギザキはノィエの感情が自らの感情のように理解できた。
やがて……小さな慟哭が治まり、二人の心音が静かに生者の証しの音を何一つ音の無い地下の都市に奏で始めた頃、ギザキは何を成すべきかを意識し始めていた。まるで、その事が自分の……自分自身の運命と意識するほどに。だが……心の中の傷は未だに疼いていた。
「しかし……そんなに重要な宝なのか? あの聖剣は……」
思わず呟くギザキの疑問に少女は抱擁するギザキの腕を解き、顔を見上げた。
「聞いて無いの? この城は、何れ来る魔王との戦いに聖光城を繋ぎ止める大地の係留地。聖宝はその時のための錨となるこの城と聖光城とを繋ぐ鎖。そして、聖と魔の戦では魔を祓い、打ち砕くという剣にもなるという……」
「そうか。そういう物か。あの宝は。聖宝故か……」
思いの中と重なる符号。
(魔物が攻め入る訳だな……)
ギザキは指でそっと少女の涙を拭った。
「ごめんな。立ち入った事を……」
ノィエはその言葉に笑って立ち上った。
「うぅん。戦う理由はちゃんと知らないと駄目だよね。きちんと説明しなかった私達が悪いのよ。うん。だから……もう帰ろうよ。城へ。お腹空いちゃったし」
笑顔で駆け出す少女をギザキは眩しげに見つめた。
(健気だな。こんな運命を受け容れて……逃げ出さずに)
ギザキはノィエの、そしてこの城の姫と老執事の覚悟に感服していた。
「ギザキぃ。何してんの? 置いてっちゃうよ! 私が居なきゃ戻れないんだよぉ?」
何一つ曇りの無い笑顔で振り返る少女の姿をギザキは懐かしい風景を見つめるように和やかな表情で見つめ続けていた。
心の傷と少女の姿を共に見つめていた。
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この作はアコライト・ソフィアの外伝という位置づけになります。
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