糸
ひだまり童話館「さらさらな話」参加作品です。
さらら さらさら
からら ぱったん ぱったん
「少しは休んだらどうだい?」
「もう少ししたら休むわ」
からら ぱったん ぱったん
静かな家に響くのは機織りの音でした。登喜子は機織りの名人でした。登喜子にかかれば、どんなものも作ってもらえると、村の皆はこぞってお願いに来ました。登喜子はそれが嬉しくて、機織りを続けました。
からら ぱったん ぱったん
さらら さらさら
機織りの音と一緒に糸が流れていきます。さららと色鮮やかな糸が機織り機に吸い込まれていきます。
登喜子はその音が好きでした。流れる糸を眺めながら機織り機を動かします。
「まだ休まないのかい?」
登喜子の旦那さまが心配そうに聞いてきます。
「あと少しなの」
からら ぱったん ぱったん
さらら さらさら
糸が流れていきます。そして形を成していきます。
からら ぱったん ぱったん
「出来たわ!あなた!」
「どうしたんだい。終わったのかい?」
「これを着てみて」
「これは……ずっとこれを作っていたのかい?」
「ええ、そうよ」
登喜子が作っていたもの。それは旦那さまの羽織りでした。来週他の村へ出掛ける予定だったので、新しいものを着ていってほしかったのです。
「ありがとう。登喜子。嬉しいよ」
他の村での会合は、登喜子の旦那さまが一番輝いていました。