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80 虹色のオーラ

視点が所々変わります。


 リジーはその後、サンタクロース家の3姉妹に誘われ、リビングでお茶とお菓子をごちそうになりながら話をして寛いでいた。

 4人だけのお茶会だった。ジョンとサムはニコラスの手伝いに駆り出され、リンダとダイアナも近所のパーティに呼ばれ留守だった。

 リビングのテーブルには所狭しとお菓子類が並べられている。

 

 ヴィクトリアは27歳、ブレンダが22歳、ホリーが17歳だった。

 ヴィクトリアは隣町で教師をしていて、ブレンダはこの町の病院の看護師、ホリーは高校卒業後は大学に進学を希望しているらしい。

 若い娘4人の話題は尽きない。ファッション、化粧品、雑貨、お菓子、インテリア、そして恋愛。


 リジーは姉妹がいないので、いたらこんなに楽しいのかとひとりっ子の自分が少し残念な気持ちになった。


「私たち、てっきりリジーがサムのガールフレンドだと思ってたのよ」


 ヴィクトリアが、そう言うとクッキーを摘まんだ。


「そうそう、あのサムが女の子を連れて来るって聞いたから」


 ブレンダも同調し、チョコレートバーをかじった。


「サムからは、妹みたいな扱いをされてると思います」

「そうなの?」

「でも、見た感じ、リジーには明らかに優しいよね」

「それは、ジョンがいるから……でしょうか」

「そうね、サムはジョンにはなぜか従順よね。何か弱みでも握られてるのかな」

「さ、さあ?」

「魔王って呼んでるし、やたらと怖がってるよね」

「ふりをしてふざけてるだけで、本当に怖がってはいないと思います。ふたりは仲が良いし、お互い信頼し合ってます」

「うん、それはわかるよ」


「リジーはジョンとはどういう風に知り合って、恋人になったの?」


 棒つきキャンディを口にくわえたホリーに突然話をふられ、リジーは慌てた。

 自然と頬が熱くなる。


(どんなふうに話せばいいの?)


「え~っと、私がジョンのお店の上の部屋に引っ越したのが出会いです。彼の部屋も向かいでした。元々私の母とジョンが知り合いで、母から私の面倒を見て欲しいと頼まれていたから、彼は最初から親切でした。いつも優しくて、助けてくれて、それで私、好きになってしまいました……」


 恥ずかしくなって、声も尻すぼみになり、俯く。


「そうかあ、それは、好きになっちゃうよね」


 ホリーは口から出したキャンディをまたぺろりと舐める。


「いいなあ、好きな人と同じところに住んでるの? ほぼ同棲だね」


 ブレンダがズバッと口にする


「ち、違います! 同じアパートメントだけど、一緒の部屋じゃないですし」

「時間の問題だよね」

「……」


 リジーは何も言えなくなった。

 ホリーも気まずい顔をし、ヴィクトリアが目でブレンダを制している。


「で、ジョンもリジーが好きになったんだ。どんな風に告白されたの?」


 それでもホリーが熱心に聞いて来る。

 リジーは、恥ずかしさで頭の中が茹ってくるのを感じた。


「こ、告白? え、ど、ど、んなだったかなんて……」


 リジーは思い巡らして、さらに動揺した。


「て、て、停電があって、それでお互い好きだって告白して、あ~だめ! 色々ありすぎて、うまく説明できない!!」


 リジーの頭は早くも沸騰してパンクした。

 そしてとうとう頭を抱えてうずくまった。



 3姉妹は、パニックになったリジーの姿に妙に納得していた。

 あのミステリアスな魅力を持つジョンにせまられたら、平静ではいられないだろう。

 自分たちだっておそらく……。別な意味でも彼は魔王っぽい。



「わかった、リジー。じゃあ、ジョンはリジーのどんなところが好きって言ってくれてるの?」


 ホリーが凝りもせず続ける。


「え?」


(そういえば、聞いたことが無い。聞くことじゃないけど。いったいこんな私のどこが好き? なんだろう)


「私はいつもうっかりでそそっかしくて、何かやらかして迷惑かけるしかしてなかったのに……それが引き寄せられる甘い蜜って……何なんでしょうか?」



 動揺してうろたえる様子のリジーに、3人は顔を見合わせた。

 その中で、ヴィクトリアはすぐに温かい笑顔になった。


「素敵だわ。ジョンはきっとあなた自身が大好きなのね。あなたのどこがじゃなくて、どんなあなたでも好きで受け入れてるのよ。羨ましい……。何も不安なことないわね。そのままの自分で良いんだもの。すでに夫婦の域に達してるみたい。運命の相手なのね」

「ヴィクトリアさん……」


 リジーはほっとして落ち着いたようだ。

 さすが教師、うまくまとめた、とブレンダとホリーは感心した。


「私、リジーのほんわかした温かい雰囲気が好きよ。一緒にいても気をつかわないし癒される感じで」


 ブレンダもフォローした。


「リジーがサムの恋人だったら良かったのに。そしたら、年も近いし、お友達みたいに楽しかったかも」


 ホリーも身を乗り出す。


「ありがとう」


 リジーはすっかり落ち着いたようだった。



「そういえば、サムのガールフレンドって、どんな人? リジーは知ってるの?」


 ヴィクトリアが笑顔のまま聞いてくる。


「はい、アイリーンさんはブルネットの髪に緑の瞳で、すごく美しい人です。勇敢でキリッとしてて、でもお話しすると優しくて、サムと一緒だとなんだか無理に気を張ってる感じがするけど、すごく楽しそう。サムはデレッとしてるかも」

「サムがデレっと?」

「そうです、ふたりでいる雰囲気がすごく良い感じなんです。美男美女でお似合いですし」


 リジーはうまく言い表せない自分がもどかしかった。


「イメージ湧かない」とヴィクトリア。


「あのサムがデレねえ」

 

 ブレンダも首をかしげている。


 感じてはいたが、サムは家族に対しては相当冷めた態度のようだ。


「あ~あ、みんないいな。特定の人がいて、幸せで。ヴィクトリアもブレンダもボーイフレンドと順調でしょ?」


 ホリーがボソッと呟いた。


「私も努力して自分を磨いてるのに、素敵な人と出会いすらない。どうしてなの?」

「あなた、まだ高校生だし、慌てなくても大丈夫よ。好きな人だってまだいないんでしょ?」

「だって、同級生の男子は身体は大きいくせにみんな子供っぽくて、年下みたいな感じで好きになる要素ない」

「まずは、好きな人から見つけることね」


 ヴィクトリアが諭す。


「うん……」


 ヴィクトリアが肩を抱くと、ホリーは頭を姉に寄せた。


 努力……自分は何もしていない。何もしていないのに、ジョンは自分のことを好きになってくれた。

 自分は彼に相応しいのだろうか。


(隣にいていいの? 本当に?)


 リジーは胸のペンダントに手を当てた。



 リジーがまた深刻そうなムードを作り始めたので、3姉妹は目配せした。


「先生、ほら」


 ブレンダがヴィクトリアを見る。

 ヴィクトリアが重い口を開こうとしたとき、玄関ドアの外が急に騒がしくなった。




「帰ったぞ!」


 ドアのノックと共に、ニコラスの威厳のある声が響いた。


「あ、良い所に……」


 ホリーがドアを開けると、ニコラスとサム、ジョン、リンダとダイアナもいた。


「お帰りなさい、お父さん。みんな一緒だったのね」

「ただいま、ホリー。そこで会ってな。お、皆でおしゃべり会か? 楽しそうだったな」


 中に入って来たニコラスは、リビングの華やかな様子に笑みを浮かべた。



「お帰りなさい。お疲れさまでした」


 ソファに座っていたリジーは立ち上がった。

 サムとリンダも入って来る。

 ダイアナは満面の笑みでジョンの左腕に縋り付いていた。



「うまそうなのを自分たちだけでこっそり食べやがって」


 サムが並べてあったマフィンをひょいとつまみ食いする。


「こら! サム! 行儀が悪いわよ!」


 ヴィクトリアは、すかさずサムを注意した。


「こっちは肉体労働だったんで、腹ペコなんだよ!」


 マフィンは既にサムの口の中に消えていた。


「リジーちゃん、ごめんね。ちょっと魔王さんをお借りしてましたよ」


 ダイアナは上機嫌のようで、声が弾んでいた。 


「い、いえ……どうぞ」


(どうぞって、おかしいか……)


 リジーは思わず口にしてから、自分でくすっと笑う。

 ダイアナはジョンをリジーの傍まで連れて来ると、腕を離して、自分はソファに腰かけた。



 ジョンと目が合う。ダイアナに優しくするジョンは嫌いじゃない。

 年配の女性を気遣う態度は、むしろ好ましいと思っている。


「お帰りなさい」

「ただいま。リジー」


 ジョンが目を細め、自然に右手を伸ばしリジーの頬に触れようとして、引っ込めた。


「?」

「こっちの手は冷たいのを忘れてた」


 ジョンがそう言うので、リジーはジョンの手を触ってみた。


「ほんとだ、冷えてる。温めてあげる」


 リジーはジョンの手を温めようと両手で握り締める。

 そして、ジョンのひんやりしている指先に口付けると、自分の頬へいざなった。


「きみが冷たいだろう……」


 ジョンが戸惑って離そうとした手を、リジーはギュッと握りなおした。 


「気持ち良いからこのまま」

「……リジー?」

「みんなでたくさんお話してたの。楽しかったよ!」

「良かった」

「うん」


 リジーはジョンを幸せにしようと改めて強く決意した。

 ジョンのそばにいて、ジョンが望む幸せを一緒に掴む。

 努力ももちろんする。色々毎回落ち込んでいても始まらない。

 ジョンは自分を望んでくれたのだから。それに全力で応えよう。全力で愛する。


(それが私にできること)



 サンタクロース一家は、リジーとジョンのまわりに虹色のオーラが現れたように錯覚した。

 ふたりの醸し出す別世界に引き込まれる。


「このふたりはレアなパターンよ。参考にならないかも」


 ヴィクトリアはホリーにこそっと耳打ちした。


「そんな気がする……」


 ホリーも遠い目をした。


「おい、そこ! 目の毒だから、それ以上ここで幸せオーラを出すな!」


 と、サムがふたりに向かって別の毒を吐いた。


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