表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/95

47 ダブルデート


 それからも、サムは相変わらず毎日のように<スカラムーシュ>へやって来ては、軽口をたたいて帰って行く。

 ジョンに対して、リジーとの件を急き立てるようなことは言わなかった。


 先日は、アイリーンを伴い、デレデレしながらやって来た。

 アイリーンは知的で礼儀正しい女性で、ジョンは彼女に好感を持った。



 その日は、ひとりでやって来るなり、聞きなれない言葉を吐いた。


「クロウ、ダブルデートしないか?」


 サムは気持ち悪いほどにこやかだった。


「なんだそれは?」


 それに対して、ジョンは警戒するような目を向ける。


「4人で<ミラクルマウンテン>に行かないか? っていうお誘い。つまり、おまえとリジーとアイリーンと俺で。どう?」

「ミラクルマウンテン?」

「遊園地だよ。まさか、行ったこと…………無さそうだな」


 ダウンタウンから車でフリーウェイを走って30分くらいの所だというサムの話を、ジョンは受け流した。

 子供向けのアトラクションは少なく、むしろ大人に人気の遊園地だとか、大きく回転するジェットコースターがどうのこうのとサムが説明するのもすべて聞き流した。


「リジー、喜ぶんじゃないか? 女の子は遊園地が好きだし、あの子もまだ行ったことないだろう。ふたりだと気まずくても、俺たちがいるし」


 サムが熱心に誘ってくる。サムがアイリーンと行きたいだけだろう、とジョンはため息を吐く。


(ああ、車か。いい加減買えば良いのに)


 ジョンは全く関心なかったが、リジーが喜ぶという話には少し心が動いた。

 ここ数日は、リジーが残業で帰りが遅いのもあり、仕事帰りの一言二言の挨拶しか交わしていない。

 疲れたような顔をして帰って来るのが、心配でもあった。

 

 リジーのはじけるような笑顔をしばらく見ていなかった。

 自分に対して本来の笑顔を見せないのは、あたりまえだ。

 それだけのことを彼女にしている。

 自分の矛盾のある行いが彼女を苦しめている。


 それをわかっているのに、ジョンはまだどうすることも出来ずにいた。


 母の犯した罪を償わなければならない自分が、彼女の想いを受け止めるとか、ましてや自分の想いを告げるなど、許されて良いわけがない。


「クロウ? リジーに聞いてみてくれよ」

「わかった……」


(彼女の幸せはどこにある……どうすることが彼女の幸せになる?)



◇◇◇



「ただいま、ジョン」

「リジー、おかえり」


 仕事から帰って来たリジーは、ジョンから呼び止められた。


「リジー、その、来週の木曜日に遊園地に行かないかとサムから誘われた。アイリーンも来るそうだから4人で……どうかな。仕事の休みは合う? 疲れているなら断っても良いんだが」


(ジョンが誘ってくれているの?)


 この所、ジョンに対してどのような態度をとったら良いのか、リジーはわからないでいたが、誘われるのは素直に嬉しかった。


「うん、来週は木曜日と金曜日が休みだから行けるよ」


 何気に<スカラムーシュ>の定休日に自分の休みを合わせてしまっている。


「そうか、じゃあサムに連絡しておくよ」


 ジョンは変わらず穏やかで優しい笑顔で接してくれる。それが少し辛くもある。

 自分の方が見えない壁でガードしているかもしれない。

 これ以上拒まれるのが怖くて、臆病な自分は、壁の外から様子をうかがっているだけだった。

 

(頑張るつもりが、何も行動していない。ジョンから誘われたとはいってもあまり浮かれちゃだめだよね。でも、とても嬉しい……)



◇◇◇



 ダブルデート当日はよく晴れて、空は青く空気は澄んでいた。

 ジョンに運転を任せ、リジーを後部座席に乗せ、サムは道案内するからと助手席に座った。


 最近は送り慣れたアイリーンの家の近くまで迎えに行く。

 リジーは思ったより晴れやかな顔で、車の窓から外を見ている。


(さて、ふたりには起死回生のデートにしてもらいたいけどなあ。そして、俺はあわよくばアイリーンともっと近づきたい!)


 サムは策を練っていた。

 


 木陰にたたずんでいるアイリーンは髪色がブロンドからブルネットに変わっていた。

 すっきりした無地の白いシャツに薄いオレンジ色のカーディガンをはおり、ジーンズ姿だった。


(アイリーン! 髪が……)


 車が停まると同時に、助手席からサムは勢いよく迎えに出て行った。


「お待たせアイリーン!」

「こんにちは」


 サムはとびきりの笑顔を向けた。

 アイリーンは恥ずかしそうにおとなしく微笑んだ。


(可愛いじゃん!)


「髪の色似合うよ! それが本来のきみ?」

「そうよ……がっかりしたでしょ?」

「いや全然。素敵だよ」


 サムは蕩けるような目でアイリーンを見つめると、自然に髪に触れた。


「ちょっと、やめてよ」


 アイリーンがサムから一歩離れるが、その分詰めたサムはアイリーンの腕をとり耳元で囁く。


「あのふたりに俺たちが仲良くしてるのを見せつけて、たきつけるのが今日の目的なんだから、協力してくれる約束でしょ?」

「だからって、それを口実にあんまりベタベタしないでよ」

「俺はするつもりだよ。この機会に俺たちもも~っと仲良くなろう!」

「まったく、調子のいい人ね」

「きみも嫌なら来ないはずでしょ? 期待してるんじゃない? 俺といちゃいちゃするのを」

「期待してません!」


 はっきり言ったわりには、アイリーンの頬が少し赤い。サムは満足した。


「ねえねえ、提案があるんだけど。あのふたりがキスしたら、俺たちもするってのはどう?」

「却下!! もう、行く前から怒らせないで!」


 少し赤い所か、真っ赤になっている。サムは大満足した。


「まあまあ、照れないで。さ、後ろに乗って」

「これは怒ってるから赤いのよ!」


 アイリーンはぷりぷりとしながら、サムが開けた後部ドアから車に乗り込んだ。


「こんにちは。ジョン、リジー、今日はよろしくお願いします」


 アイリーンは自分を落ち着かせるためか、大きく深呼吸をすると、笑顔を見せた。


「こんにちは。いつもサムが迷惑をかけているようで……お詫びします」


 と、ジョンがアイリーンに挨拶する。


「な、なにその保護者づら。お詫びしますって酷くない?」


 助手席に座ったサムは、ジョンに抗議する。


「本人に詫びてもらいたいんですけど、全く自覚がないようで困ります。でも、だいぶ慣れてきましたので」


 アイリーンが丁寧に返す。


「あ、そう? よかった。……ってなんか違うよね」


 サムは不服だった。


◇◇◇


 サムをおかずにしたいつもの愉快なやり取りに、リジーはクスクス笑う。


「こんにちは。アイリーン。今日はありがとう。この街の遊園地は初めてだから楽しみだよ」

「そう? じゃあ、今日は楽しみましょうね。リジーはどんなアトラクションが好み? 高速のジェットコースターとか回転するのとか、速さとか高さとかは、大丈夫? 苦手じゃない?」


 リジーはアイリーンにそう言われて、はたと気が付く。


「え? っと、速いのは苦手だったかも。車の教習で、スピードを出せなくてよく怒られたから。回転は……あ、子供の頃メリーゴーランド乗って酔ったことある。私、ブランコも酔うからあまり長く乗れないの。でも高さは大丈夫。観覧車は乗ったことあるよ。でもこの前高層ビルを見上げてクラクラしたっけ。上からなら大丈夫かなあ……」


 リジーは真剣に考えて答えたつもりだ。

 運転席のジョンの肩が揺れたことにリジーは気が付かない。

 

 笑いを堪えているような表情のサムから、重大なことが伝えられる。


「リジー、まじめな返答ありがとう。今から言っておくけど、<ミラクルマウンテン>は、ほとんどスピードや揺れの激しいアトラクションばかりだぜ」


「そ、そうだったわ」


 アイリーンも残念そうな顔を、リジーに向けた。


「え……!?」


(私が行く意味あるのかな……?)


 リジーは少しどころか、かなり不安になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ