41 鬼の出る幕
パーティでの騒動を一部始終見ていた、マリサとカイル視点の話になります。
マリサはカイルを連れ、パーティ会場にいるであろうジョンとリジーを探し回っていた。
彼らがこのレストランのハロウィーンパーティに来るという情報を、スーザンに確認していた。
マリサの計画では、カイルにリジーを理由をつけて誘わせジョンから離し、自分は残されたジョンの様子を観察するという、いとも簡単な場当たり的なものだった。カイルは、自分の後ろからかなり嫌そうについてくる。
ようやくふたりの姿を見つけた。
ところが……。
ふたりを引き離す計画のはずが、ジョンはすでに別の女に捕まっていた。
一方のリジーは……少し離れた所でおかしな男に何か言い寄られている。
「なんだあれは? あいつ、どこに行っても何かしらトラブルに逢いやがって。保護者は保護者で何やってる!」
リジーのもとへ行こうと動き出したカイルの腕を、マリサは掴んだ。
「待って、あなたが今出て行ったら……」
「同じだろう。あいつ困って……あ……」
リジーは男を振り切り、レストラン内の人々の中に潜り込んで、見えなくなった。
リジーに絡んでいた男は肩を竦め、リジーを追わずに今度は別の女性に声をかけていた。
カイルがホッと息を吐く。その後もカイルはリジーの消えた方向をずっと見たままだ。
ジョンの方はというと、緑のドレスの女から離れ、周りを見渡し始めた。
明らかにリジーを探している。それも必死に……。
(今はチャンス? いや、違う、タイミング悪い? でもそういう流れなら、流れに乗ってみるのが私……)
マリサは動いた。
「ジョン!」
「マリサ……? やあ……」
気もそぞろで、返事はくれても口先だけの挨拶なのがわかる。
(瞳はただひとりしか映していない)
「今日はパレードに参加してくれてありがとう。リジーがひとりじゃ大変だったと思うから、助かったわ」
「いや、意外と楽しかったよ」
そう言いながらもジョンの視線は、始終辺りを彷徨っている。
(こちらには目もくれないのね。今日は少しはドレスアップしてきたのに)
「どうしたの? 誰かを探してるの?」
「……リジーとはぐれてしまって。彼女を見なかったか?」
(この人は、本当に彼女しか眼中にないのね)
「この人混みじゃ、小さいあの子は見つけにくいかもね。探すのを手伝……」
(わかっていたのに……)
「ごめん、また今度!!」
ジョンはリジーを見つけたらしく、マリサが言いかけたことにも気が付かず、別れの挨拶も程々に風のように去っていった。
それをただ何の感情も無く見送る。
「おい、マリサ! リジーが向こうで今度は別の男に捕まった。……あの保護者、人でも怪物でも倒しそうな凄まじい顔してたぜ」
「そう」
(ジョンは初めて会った時から、いつも遠くの誰かを見ているようだった。ただひとりしか見ていなかったってこと? もしかしてあの子が来る前からあの子しか)
「マリサ!! ほら、行くぞ! なにボサッとしてるんだ。決定的瞬間を見るんだろ? 最後まで、見届けろ!」
「そうね……」
マリサとカイルはジョンを追った。
そして、姉弟は事の顛末を最後まで傍観者として見届けた。
ジョンがどんなにリジーを大切にしているかは一目瞭然だった。
ジョンは彼女を捕えていた大男を一撃で跪かせ、彼女を自分の胸に取り返す。
そして、その額に愛おしそうにキスを……。
それからリジーの肩を抱き、人だかりから身を盾にして守りながら去った。
その姿をただ目に映しているマリサは、涙が出そうだった。
女子ならいくつになっても憧れる映画の山場のワンシーンのようで。
彼はさながら姫を守る騎士そのもの。なぜ、自分ではなかったのだろう。自分の目で見て納得したかったが、ショックの方が大きかった。ジョンに、会うのを断られてからもひそかに姿だけ見に行ったこともあった。店の外から一目見て、こっそり帰った。
あれから2年も経つというのに、ジョンより心惹かれる男は未だにいなかった。まだ彼に心を引きずられていた。でも、もう終わりにしなくてはならない。
今度こそ。
◇
「見たか?」
カイルは、自分と同じようにただ茫然としていたマリサに声をかけた。
「見たわ」
マリサの目に意思が戻った。
「俺たちの出る幕はないだろう」
「ないわね」
「これで、諦めがついたか?」
「ついたかも……」
「かも? かもじゃなくついた、にしろ」
「あ~あ、そのセリフ、なんで弟に言われなきゃなんないの?」
「無理やり連れてきておいて、なんだよ」
「今日はとことんここで飲み食いしてやる!」
「またかよ……」
(俺はまだ日が浅いから良いが、マリサは……思ったよりご執心だったんだな。同情するぜ。諦めろ)
カイルはマリサへかけた言葉を、自分の心にも言い聞かせる。
(俺の出る幕はない)
こうして、姉弟の辛く長い夜の宴は始まった。




