表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/95

41 鬼の出る幕

パーティでの騒動を一部始終見ていた、マリサとカイル視点の話になります。



 マリサはカイルを連れ、パーティ会場にいるであろうジョンとリジーを探し回っていた。

 彼らがこのレストランのハロウィーンパーティに来るという情報を、スーザンに確認していた。

 マリサの計画では、カイルにリジーを理由をつけて誘わせジョンから離し、自分は残されたジョンの様子を観察するという、いとも簡単な場当たり的なものだった。カイルは、自分の後ろからかなり嫌そうについてくる。


 ようやくふたりの姿を見つけた。

 ところが……。

 ふたりを引き離す計画のはずが、ジョンはすでに別の女に捕まっていた。

 一方のリジーは……少し離れた所でおかしな男に何か言い寄られている。


「なんだあれは? あいつ、どこに行っても何かしらトラブルに逢いやがって。保護者は保護者で何やってる!」


 リジーのもとへ行こうと動き出したカイルの腕を、マリサは掴んだ。


「待って、あなたが今出て行ったら……」

「同じだろう。あいつ困って……あ……」


 リジーは男を振り切り、レストラン内の人々の中に潜り込んで、見えなくなった。


 リジーに絡んでいた男は肩をすくめ、リジーを追わずに今度は別の女性に声をかけていた。

 カイルがホッと息を吐く。その後もカイルはリジーの消えた方向をずっと見たままだ。

 

 ジョンの方はというと、緑のドレスの女から離れ、周りを見渡し始めた。

 明らかにリジーを探している。それも必死に……。


(今はチャンス? いや、違う、タイミング悪い? でもそういう流れなら、流れに乗ってみるのが私……)


 マリサは動いた。


「ジョン!」


「マリサ……? やあ……」


 気もそぞろで、返事はくれても口先だけの挨拶なのがわかる。


(瞳はただひとりしか映していない)


「今日はパレードに参加してくれてありがとう。リジーがひとりじゃ大変だったと思うから、助かったわ」

「いや、意外と楽しかったよ」


 そう言いながらもジョンの視線は、始終辺りを彷徨さまよっている。


(こちらには目もくれないのね。今日は少しはドレスアップしてきたのに)


「どうしたの? 誰かを探してるの?」

「……リジーとはぐれてしまって。彼女を見なかったか?」


(この人は、本当に彼女しか眼中にないのね)


「この人混みじゃ、小さいあの子は見つけにくいかもね。探すのを手伝……」


(わかっていたのに……)


「ごめん、また今度!!」


 ジョンはリジーを見つけたらしく、マリサが言いかけたことにも気が付かず、別れの挨拶も程々に風のように去っていった。

 それをただ何の感情も無く見送る。


「おい、マリサ! リジーが向こうで今度は別の男に捕まった。……あの保護者、人でも怪物でも倒しそうな凄まじい顔してたぜ」


「そう」


(ジョンは初めて会った時から、いつも遠くの誰かを見ているようだった。ただひとりしか見ていなかったってこと? もしかしてあの子が来る前からあの子しか)


「マリサ!! ほら、行くぞ! なにボサッとしてるんだ。決定的瞬間を見るんだろ? 最後まで、見届けろ!」

「そうね……」


 マリサとカイルはジョンを追った。



 そして、姉弟は事の顛末を最後まで傍観者として見届けた。


 ジョンがどんなにリジーを大切にしているかは一目瞭然だった。

 ジョンは彼女を捕えていた大男を一撃でひざまずかせ、彼女を自分の胸に取り返す。

 そして、その額に愛おしそうにキスを……。

 それからリジーの肩を抱き、人だかりから身を盾にして守りながら去った。


 その姿をただ目に映しているマリサは、涙が出そうだった。


 女子ならいくつになっても憧れる映画の山場のワンシーンのようで。

 彼はさながら姫を守る騎士そのもの。なぜ、自分ではなかったのだろう。自分の目で見て納得したかったが、ショックの方が大きかった。ジョンに、会うのを断られてからもひそかに姿だけ見に行ったこともあった。店の外から一目見て、こっそり帰った。

 あれから2年も経つというのに、ジョンより心惹かれる男は未だにいなかった。まだ彼に心を引きずられていた。でも、もう終わりにしなくてはならない。

 今度こそ。



「見たか?」

 

 カイルは、自分と同じようにただ茫然としていたマリサに声をかけた。


「見たわ」


 マリサの目に意思が戻った。


「俺たちの出る幕はないだろう」

「ないわね」

「これで、諦めがついたか?」

「ついたかも……」

「かも? かもじゃなくついた、にしろ」

「あ~あ、そのセリフ、なんで弟に言われなきゃなんないの?」

「無理やり連れてきておいて、なんだよ」

「今日はとことんここで飲み食いしてやる!」


「またかよ……」


(俺はまだ日が浅いから良いが、マリサは……思ったよりご執心だったんだな。同情するぜ。諦めろ)


 カイルはマリサへかけた言葉を、自分の心にも言い聞かせる。


(俺の出る幕はない)


 こうして、姉弟の辛く長い夜の宴は始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] マリサ!(´;ω;`) えらったね。よく頑張りました!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ