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38 美味しいパーティ


 リジーたち3人がパーティ会場に着いた時には、すでにテンポの良い音楽が鳴り響き、大規模なパーティが始まっていた。

 海に面した広いデッキのある大きなレストランが会場になっていて、仮装のままの面々や一般客がビュッフェ形式の料理を食べたり、ホールで踊ったり、思い思いに楽しんでいる。

 デッキの手すりやそこから海へと続く桟橋の欄干には、赤や緑などのライトが彩られ、華やかなムードを醸し出していた。

 潮風は少し肌寒かったが、人々の熱気でそれは追いやられていた。


 パレード同様の人の多さに、リジーは知らず知らずのうちにジョンの上着の裾を掴んでいた。


「リジー、僕から離れないで。迷子になったら大変だ」

「うん」


(迷子って……もっと別の言い方あるよね)


 リジーは少しむくれて、掴んでいた裾を離した。


「腹減ったな。高い会費を払ったんだ。早く何か食べようぜ!」


 たくさんの料理が並ぶコーナーへ向かうサムに、リジーとジョンも続いた。


 リジーは豪華な料理の数々に目が奪われた。どれもおいしそうに見える。

 今日はもうパレードは終わったし、いろんな料理を食べてみようと意気込んでから、ハッと我に返る。

 ジョンに食い意地がはってると思われるのは恥ずかしい。


 でも、見たこともないような肉や魚料理、サラダやデザートの誘惑には勝てず、すぐにそんな気持ちはどこかに飛んで行った。

 皿を手に、わくわくしながら料理を選び始めた。



「ちょっと、かかし。ドロシーが目の色変えて料理に夢中になってるよ。子供みたいだ」


 サムが愉快そうにリジーを観察している。


「そうだな」


 ジョンもその姿に頬を緩ませた。


「おまえの姫は、色気より食い気か……」



 椅子やテーブルはどこも空いていなかったので、3人は屋外のデッキの手すりに寄りかかり料理を食べた。


「美味しい、幸せ~。ねえ、ジョン、サム、このお肉柔らかいしマーマレード入りのソースも凝っていて最高に美味しいよ!」


 リジーは美味しい料理が食べられたという単純な幸せをかみしめていた。


「そう。よかった」

「リジー、食いすぎるなよ~」


 サムがリジーの耳元でこっそりからかう。


「その衣装をあとでジョンに脱がせてもらうのに、お腹がふくれてていいの?」


 リジーは一瞬で耳まで真っ赤になった。


「サム! ち、違うでしょ。背中のリボンだけだから!!」


 リジーが声を張り上げる。


「おいおい、お静かに。冗談だよ」

「変なこと言わないでよ、もう」


 今の会話を聞かれてないか、ジョンを見上げると、ジョンの目線はリジーを通り越してサムに向いていた。


「サム、リジーに何を言ったんだ?」


 ジョンの訝し気な顔に、リジーは焦った。


(恥ずかしくて聞かせられない!)


 その様子を見て、サムは高らかに笑った。


「女の子ってうまい物を食べてる時が一番幸せそうだよなって言ったの」


 サムの手にはもう料理の皿はなかったが、ジョンの手にはリジーの食後のデザートのレモンケーキが載った皿があった。ジョンが持ってくれていた。


「男の人だってそうでしょう?」


 リジーは話が逸れたので落ち着いた。


「わかってないなあ。男はね、好きなお……」


 ジョンが素早い手つきで、サムの口にフォークで刺したケーキを突っ込み蓋をした。


「うお……おい、クロウ、フォークで殺す気か」

「おまえがろくでもないことを言い出しそうだったからな」


 険しい目つきでサムを睨んでいる。


「ま、さか、お、お菓子って言おうとしたんだよ」


 口の中のケーキに苦労しながらサムがもごもご喋る。


「お菓子? じゃあ、そのお皿のデザートをサムにあげるよ。私、もうお腹が一杯になったから。全然手を付けてないの」


 後のことを考えると、サムの言うように確かに食べ過ぎはよくない。

 ラストにとっておいたレモンケーキは諦めることにした。


「よかったなサム。思う存分食べろ!」


 ジョンがサムに皿を押し付けた。


「はいはい。うまいな~幸せだ。おぼえてろよ~」



 ベイサイドはデートにおすすめだと、以前スーザンから聞いたことをリジーは思い出した。


「ジョンはこの辺には来たことあるんだよね?」

「あるよ」


 ジョンが即答したので、リジーは少し気持ちが沈んだ。


(やっぱり、そうだよね。恋人のひとりやふたり、いたよね)


「シンドバッドさんに連れ出されて、昼間に何度か釣りに来た事はある。向こうの桟橋でも多くの人たちが釣りをしていて、意外と大物が釣れると言っていた。夜は今日が初めてだよ」

「へえ、釣りね」


(良かった。女の人と来たんじゃなくて、昼間にシンおじさんと釣りかあ。それはそれでおもしろそう。あ、でも餌のワームは見たくない)


 リジーはほっとしたと同時に、眉を寄せた。


 サムがなぜかクスクス笑っている。


「どうしたの?」

「リジーの百面相がおもしろくて。な、クロウ」

「ふたりで私の観察しないでよ!」


 リジーはそんなに心の動きが顔に出ていたのかと思い、これ以上読まれないようにそっぽを向いた。


 でも気になってジョンをちらりと窺うと、柔らかな笑みを浮かべたジョンと視線が交わり、リジーは余計に恥ずかしくなって目を伏せた。


(ジョンの笑顔、嬉しい。パーティを楽しんでいるみたいで良かった)



♢♢♢

 

 ジョンは、自分たちの方へ着飾った女性ふたりが近寄って来ていることに気が付いた。


「こんばんは。良かったら、ご一緒しない? オズのみなさん」


 突然声をかけられ、リジーが驚いている。


 女性たちの視線は、明らかにサムに向いていた。

 ジョンはさりげなくリジーを自分の背後に隠した。


「あ~ごめん。俺はメスライオンを探さないとないから、一緒はできないな。それから、こっちの<かかし>は、実は泣く子も黙るカラスを操る魔王クロウ様だ。怖いから、やめといたほうが良いぜ」


 それを聞いた女性たちは目を丸くすると、いともあっさりと退散して行った。

 

 リジーは事の成り行きに、ただポカンとしていた。


「さっそく仕返しできたぜ。ざまあみろクロウ。おまえの悪名の高さも相変わらずだな。わっはっはっは!」

「なんとでも」


 サムの得意顔にジョンは呆れた。


「仕返しって。ジョンが悪名高いなんて!」


 リジーは何か腑に落ちない様子だった。


「サムの冗談だよ。僕がそんなに有名なわけがない」


 長い付き合いの中で、お互いの立ち位置を知っている。

 ジョンは機転のきくサムを信頼していた。


「そんなわけで、クロウ、リジー、俺、今から単独行動ね。あとは適当に帰るから、俺を探さなくて良いよ」


 サムは浮かれたような足取りで、人混みの中に紛れて行った。


「サム、急にどうしたの?」

「さあ? 狩りでもするんだろう」

「狩り?」


 リジーが不思議そうな顔をする。


「そうだ、桟橋の方へ行ってみようか。ヨットハーバーが見える。きっと灯りが綺麗だよ」

「うん、行く! ヨットハーバー見たい」


 リジーが好奇心を瞳に映し、まばゆい笑顔で見上げてくる。


「きみは僕のそばを離れないで」

 

 ジョンは心から願う言葉をスラスラと口にし、リジーに手を差し出した。

 こんな状況でしか言えない現実が、ジョンの心を締め付けていた。

 

(僕がこんな気持ちでいるなんて、きみは夢にも思わないだろう)


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