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31 仮装打合せ


 リジーはある朝出勤すると、すぐシルビアに呼ばれた。

 シルビアは、今日は目にも鮮やかな濃いピンク色のワンピースを着こなしていた。


「どう? もう傷の具合はすっかりいいの?」

「はい! 傷は残ってますけど、痛みは全然ないです」

「まあ、良かったわ。あなたはよくやってくれているけど、怪我が多いようだから気をつけてね。身体が一番大事よ」

「はい!」


 シルビアの明るい笑顔に、リジーはいつも元気をもらっていた。


「ところで、スーザンから聞いていたみたいだけど、今年のハロウィーンフェスティバルのパレードの担当はあなたにお願いしたいの。いいかしら」

「はい!!」

「誰かお手伝いしてくれそうなお友達はいる?」

「いませんが、スーザンが手伝ってくれるそうですし、大丈夫です」

「ごめんなさい。よろしくね。組合のお付き合いで強制参加なのよ。仕事の一環としてお願いするわ」

「はい! 任せて下さい。頑張ります」


 リジーはその時は気楽に考えていた。


◇◇◇


 買い物帰り、仮装について考えながら歩いていた。良いアイディアが浮かばない。


(まずはいつものパンを買おう)


 リジーもすっかりクリスティのハワイアンブレッドの虜だった。


「こんにちは~!」

「あら、リジー! 毎度ありがとうね」


 クリスティが声をかける。


「いつも美味しくて食べ過ぎちゃいます。底の焦げた部分がまた風味が良くて好きなんですよ~」

「あら、私もよ。焦げたパンが好きだから、失敗した時も廃棄しないでうちで食べちゃうのよ」

「私も焦げてるの好きなんです。余ったらいつでも買いますよ!」

「そう? じゃあ、今度リジーの分、残しておくわね」

「わあ、ありがとうございます!」


 パンの甘い香りと店に流れている低めのBGM。

 リジーは何かひらめいた気がした。


(この曲<虹の彼方に>だ。誘える友達はいないけど、ぬいぐるみとか段ボールで作ればひとりでもいけるかなあ)


 なんだか楽しくなってきた。


「リジー、なにニタニタしながら歩いてるの?」


 気が付くと、サムが隣を歩いている。


「あれ、サム!? 今日はお休み?」

「今日は、早上がりなの」


 サムはラフなTシャツにジーンズ姿だ。


「もしかして、<スカラムーシュ>へ行くの?」

「ああ、暇だから」

「本当に仲良しなんだね」


 リジーはクスッと笑う。


「俺はクロウをからかうのが趣味だから」

「……」


(わ~ジョンが聞いたら怒りそうなセリフ)


 サムがさりげなくリジーの腰に手を回してきた。


「へ? ちょっと……何? 止めてよ」


 リジーが身体を固くしてキッとサムを見上げると、黄金スマイルを返された。


「は?」


 引いたリジーの耳元に、サムは顔を寄せて来た。


「後ろの女の子たちが消えてくれる間だけ頼むよ。<スカラムーシュ>に近付いたら止めるから。面倒だから後ろは振り向かないでね。もてる男は色々大変でさあ」


 そう言うやいなや、さらに強く腰を引かれた。


「!?」


(巻き込まれたくない~!! 腰、止めて!!!)


 リジーはすっかり落ち着きがなくなった。


「肩ならいい?」

「う……ん?」


(こ、心の声聞こえたの!?)


 サムの手がリジーの腰から滑るように肩に移動する。

 がっちり肩を抱かれた。


(こ、これもどうかと……)


「それにしてもリジーは、余計な肉ないね」

「な、サム!! 失礼な!」


 サラリと言われ、リジーは目を剥いた。


「ジョンが喜ぶようにもう少し肉をつけたら?」

「!!!」


 リジーは瞬時に真っ赤になった。


「きみたちって本当にからかい甲斐があるなあ」

「たちって……」

「もちろんクロウときみ」

「な、なによ~。サムの趣味に付き合う気無いから! ジョンに言いつける!!」

「俺にもう少し肉をつけたらって、言われたって?」

「そっちじゃなくて~! ジョンをからかうのが趣味って方」

「そっち!? まあ、どっちにしろ腕1本かなあ~」

「えっ!?」


 サムの物騒な発言に、リジーは青くなって口をつぐんだ。


「冗談だよ~。ジョンは限界を知ってるから。じゃあ、頭貸して……」


 サムはリジーの頭に肘をのせた。


「う……」


 リジーが抗う目を向けると、くくっとサムが笑う。


「なんだい? 子リスちゃん」


 いつの間にかサムをつけていた女の子たちはいなくなっていた。



「で、さっきはなんだか楽しそうだったよね?」

「うん、ハロウィーンフェスティバルの仮装パレードに参加することになったの。それで、良いアイディアが浮かんだから」

「パレード? あれにリジーが出るの?」

「うん!!」

「埋もれるな」

「え?」

「転んで踏まれて……」

「うそ……」

「全治3週間」

「やめてよ~怪我する前提の話!」


 

 場所は<スカラムーシュ>の中に変わった。


「リジーがハロウィーンフェスティバルの仮装パレードに出るんだって」


 サムがリジーがパレードに参加する話を、早速ジョンの前で始めた。


「え、あれに出るの?」


 ジョンも眉を寄せた。


「転んだら大変なことになるからやめた方が良い」

「だから、なんでふたりとも、私が転ぶとか怪我する前提で話をするの? 断れないから。仕事のうちなの。絶対出るの!」


「じゃあ、俺たちがガードする?」


 サムが何気に言うと、ジョンは考える素振りをみせた。


「そうだな」

「え? いいの?」


 意外な展開になりそうだ。ここでふたり増えればもう完璧に近い。


「何の仮装するか、考えてたんでしょ?」


 サムに聞かれ、リジーは胸を張った。


「実は、ひとりで<オズの魔法使い>の仮装をしようと思ってたんだ」


「<オズの魔法使い>? なんか俺たちにおあつらえ向きじゃないか~。リジーはうっかり者のドロシー。俺がへなちょこライオンで、クロウがドロシーを見張るかかし。あ、でもかかしは知恵が欲しいんだっけ? クロウは大学にいたからちょっと違うか……。心が欲しいブリキの木こりの方がお似合い?」

「ブリキの木こりだって僕だって、心が無いわけじゃない。でも、まだかかしのほうが良い」


 ジョンがぷいと横を向いた。


「ジョン、気がすすまないなら無理しないでね。店の人も手伝っても良いって言ってくれてるから」

「やるよ」


「ほう~。じゃあ、決まりね。クロウがお祭り騒ぎに参加するなんて初めてじゃない? どういう風の吹き回しかな?」

「なにも。意味はない」


「ありがとうふたりとも。でもいいの? 仕事は?」

「ハロウィーンはうるさいからいつも店を閉めてる」とジョン。

「俺はいつも祭りのときは休みをとってるから」とサム。

「……」


(店長さんも副店長さんも本当にいいのかなあ)



◇◇◇



 リジーは別の日に、休憩室でスーザンに相談していた。


「<オズの魔法使い>、良いんじゃない? SF映画やコミックの仮装が多い中、レトロな感じでナイスな選択だと思うわ。黒髪さんがかかしで、銀髪さんがライオンね。リジーはブリキの木こり?」

「ド、ドロシー。ブリキの木こりはダンボールとかで間に合わせようかと……」

「なるほどね」


 スーザンはスタスタと休憩室の入り口に行くと、ドアの鍵をガチャリとしめた。

 リジーはなにやら嫌な予感がした。


「じゃあ、脱いで」

「へ?」


 スーザンはリジーの方を向くと、ニヤリとしてバッグからメジャーを取り出した。


「採寸するから服を脱いで」

「なんでメジャー持ってるの? そ、そんなに本格的なの?」

「そうよ、ちゃんと衣装を作ってあげるから」


 じわりじわりとリジーはスーザンに追いつめられる。


「ぎゃあ~待って!!」


「なんだ、まったく盛る必要ないじゃない? リジーは着やせするタイプだったのね。ジュディ・ガーランドより、ずっと可愛くしてあげるわ。任せて、腕が鳴るわ!!」


 力の勝るスーザンに服を脱がされ、リジーは力なくその場の椅子にへたり込んだ。


「これだけあれば黒髪さんも満足するんじゃない?」

「な、な、な、何を言ってるの?」

「背中も綺麗ね」

「……や……もう、くすぐったい! 触らないで~」

「触らないと採寸できないから!」

「……」



「……あいつら、なにやってんだ……」


 休憩室の外で、思わず立ち聞きしてしまったカイルが、目を回してふらついたことは、中のふたりは知るよしもない。


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― 新着の感想 ―
[良い点] カイル……! 耳に毒なものを聞いてしまったのですね( *´艸`) ラスト、笑っちゃいました。
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