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30 幸せな悪夢

ハロウィーン編スタートします。ですが、ちょっと短めです。

しかもハロウィーンの話は次からです。すみません(汗)


 いつも仕事帰りは、<スカラムーシュ>にいるジョンに声をかけてから部屋に戻る習慣になっている。

 リジーは、この所それが恥ずかしくてしかたがない。どうにも色々思い出してしまい、ジョンの顔を直視できない。目線が泳いでしまう。



 その日もリジーは店の中にお客がいないのを確認してから、入口のドアを開けた。


「ジョン、ただいま」


 珍しく返事がない。少し中に入ると、うめき声がする。


「ジョン?」


 見ると、来客用のソファに座っているジョンが目を閉じてうなされている。


「どうしたの!?」


 リジーはソファに駆け寄った。


(寝てるの? ジョン苦しそう、起こした方が良い?)


 リジーは迷いながらも、ジョンの手をとった。



『息子さんですね。ご確認をお願いします。検視も終わりました』


 薄暗い部屋に白い布を掛けられた父と母が寝かされている。


『嘘だろう? 母さん! 父さん! 嫌だ!! どうしてこんな事に!?』




 またこの悪夢……。

 暗い床が底なし沼のように波打つ。

 そして、足が沈み始める。

 母も父もいない。誰も自分を想ってくれる人などいない。

 いつ沈んでも……。自分が消えても、誰も悲しまない。


 いや、まだ沈めない! 小さいあの子が幸せになるまでは……。



『ジョン!』


 彼女が自分を呼んでいる。

 ここで、沈むわけにはいかない。

 明るいほうへ手を伸ばすと、手は掴まれた。

 彼女は自分の目の前に現れてくれた。

 写真や記憶だけじゃない。

 触れることのできる、温かい。


 自分の足元の沼は消えていた。


 眩しい笑顔の彼女は、自分の手を両手で大事そうに包んでくれて、頬ずりを?

 柔らかい頬の感触。

 やけにリアリティのある……夢?



「ジョン! 起きて!」


「……リジー!?」


 ジョンは目が覚めた。


 リジーがソファのそばに屈みこんでジョンの手を両手で必死に掴んで、今にも泣きそうな顔をしている。


「助けてくれたのか……?」


(あの底なし沼から……)


「助けた? 起こしたの。酷くうなされてたから。大丈夫?」

「ああ、大丈夫。いつもの悪い夢だ。いつの間にか寝てたんだな」

「どんな夢? 悪い夢は話しちゃった方がいいんだよ」

「そうなの?」

「うん」


 リジーが真面目な顔で強く頷く。


「底なし沼に、引きずり込まれる夢」

「え~!? それは悪い夢だね。怖い……」


 ぶるっと身震いしたリジーは、掴んでいたジョンの手をぎゅっと握りしめた。


「でもきみが助けてくれた」

「助ける! 何度だって助けるから、悪い夢を見たら私を思い出して!」


 いたって真剣そのもののリジーに、ジョンは微笑む。


「ありがとう。そうするよ」


 ジョンはリジーの紅潮している頬に、握られていないもう片方の手で触れてハッとする。

 

(また自分は……)


 リジーは、勇ましかった表情が蕩けている。


(きみを思い出すよ……)


 ジョンが見つめると、リジーは握っていたジョンの手を慌てて離した。


(きみがこうして助けてくれるなら、悪い夢を何度見てもかまわない)


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― 新着の感想 ―
[良い点] あぁ、……これはキツイですね。 ジョンがリジーの怪我に敏感になるのも無理はないかと思います。 リジーの言葉は救いですね。
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