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9・チート能力!?

「浮口市だけに限らず、街や村にはエネルギーの源泉のようなものがある。生きるエネルギー。温泉が湧き出るところをイメージしてもらっていい。そこから個々の守り神はエネルギーを得て、その地域を守っているわけだな」


 僕の周りをぐるぐると回る守り神。

 ただし床に足を付けずに浮いた状態で。

 僕は椅子に座り、肩幅を狭くしてビクビクとしながら守り神の話に耳を傾けていた。


「そのエネルギーの源泉が――浮口市においてはファミーユコノエのある土地に相当する。これで分かっただろう? 浮口市においてファミーユコノエがどういう意味を持つのか、ということを」

「分かったけど……だけど、それがファミーユコノエを満室にすることとどう繋がっているわけ? エネルギーの源泉部分にファミーユコノエが建っていても、アパートが満室になるかどうかは関係ないんじゃ」

「いや関係ある。分かりやすいように、エネルギーの源泉を土地、と表現したが実際はそうではない。その土地に建っている建物からもエネルギーが生み出され、妾はそれを食料とするわけだ」


 悦に入ったのか、守り神は立ち止まり人差し指を伸ばして、


「エネルギー、というのは生きるエネルギー。浮口市に住む活力、といったところか。そこに人々が集まり、活性化されることによってエネルギーは生産される。

 ファミーユコノエが建てられる前、あそこは近所の子供達が集まる公園であった。毎日、毎日あそこで子供達が遊ぶことによって、活力――つまり生きるエネルギーが生産され、妾も元気だったのだ」


 もっとも、今の日本は少子化。仮にファミーユコノエを建て壊し、公園を作ったとしても、充分なエネルギーを得ることは出来ぬがな。


 守り神は深刻そうな表情で言った。


「じゃあ、ファミーユコノエが空き部屋ばかりだったら、充分なエネルギーが生産することが出来ず、君……守り神が元気に活動出来ない、ということ?」

「物分かりが良いな。ふむ、そういうことだ」

「じゃあ六戸中二戸しか埋まっていないファミーユコノエでは……」

「飢餓状態。そなたが入居してまだマシになった方だ。一年前からあそこの大家、近衛万葉分のエネルギーしか得ることが出来なかった。妾も遅かったと思う。放っておけば、いつか入居者が入ってくるだろ、とタカをくくっていた」

「だけど、そうはならなかった、と」

「そうだ……結果、エネルギーが完全に不足してしまい、今にも妾は消えてしまいそうな程だ。こうして人間界に姿を現すのも、エネルギーを使っている……もっとも、それをするだけの価値がある、と考えているのだがな」

「もし――エネルギーが枯渇してしまえば?」

「先ほども申し上げた通り、浮口市は消滅する」


 どこからか扇子を取り出し、それを広げて口元を隠す守り神。


「エネルギーが枯渇すれば、妾は死んでしまう。妾、という守り神を失った浮口市は存在化するだけの力をなくし、完全に消滅してしまう。消滅した後は無、何も残らない」

「無――って」

「証拠に、今現在も少しずつ浮口市は消滅していっている」


 突拍子もないことを言われて、思わず前に乗り出して、


「嘘だ。浮口市の一部だか、そんな跡形もなく消滅したら、ニュースや新聞に載るはずだ。それなのに僕には浮口市、いや全国の人々が騒いでないように思えるけど」

「それは『世界の自己修復能力』が絡んでくる。難しい話になるが、簡単に言うと浮口市の一部――例えば前は商店街が完全に消滅した。そうなれば、普通商店街の中に店を出している人だったり、そこに毎日買い物に出かける人に本来なら影響が現れるはずだろう?

 しかしこの『世界の自己修復能力』において、記憶が捏造される。簡単にいうと辻褄を合わせるようになるのだ。これにより、誰も商店街の消滅に気付いたモノは一人もいない」

「つまり、商店街が最初からなかった、ということになること?」


 そういうこと――と守り神や首肯した。


 正直、信じられない。消滅した商店街がどこにあったものか分からない。

『世界の自己修復能力』? 最初からなかったことにする力?

 記憶を捏造する力ならば、そこに住んでいた人やたまたまいた人はどうなるのだろうか。同じように消滅するのだろうか。


 その先はぞっとするような考えだったので、首を振って思考を止めた。


「おさらいをする」


 学校の先生のような口振りで、


「ファミーユコノエはエネルギーの源泉部分にあたる。このエネルギーの源泉部分は完全に浮口市が消滅しない限りは決して移動しない。

 そしてそこから産まれるエネルギーが枯渇しており、今にも妾は死んでしまいそうだ。もし妾が死んでしまった場合、浮口市は完全に消滅する。つまり浮口市なんて最初からなかったことになるのだ。

 現に今でも、妾の力が最大限に発揮出来ずに、街は少しずつ消滅していっている。浮口市を救うためには、ファミーユコノエを満室にするしかない。一ヶ月後までにファミーユコノエ満室分のエネルギーが最低限必要となる。

 そのための救世主としてそなたが選ばれたわけだ。何か質問は?」

「ある。あるに決まっているじゃないか――どうして僕が?」


 そう――何で普通の人間である僕が、そのような大層な役を任されることになるのだろう。

 尋ねると、守り神は僕の顔をマジマジと見て、


「よく見ると男の割りには可愛い顔をしているからな」

「それが一体、どういう関係があるの!」

「可愛いは正義と言うだろう。つまり可愛い人間は正義のスーパーマンということだ」

「訳が分からないよ!」

「……そなたは知らなくていい。あまり大したことじゃないのだ」


 それ以上、守り神に質問をぶつけることが出来なかった。


 何故か? 守り神の背中で花瓶がゆらゆらと浮いていたからだ。わざわざ虎穴に入るバカはいないよね。


「ただ普通の人間が浮口市の消滅を防ぐ、というのも難しい話だろう。そこでそなたに特別な力を与える――最早、いつ死んでも可笑しくない妾だ。一人の人間にしか与えられない、から大切に使えよ」

「特別な力――!」


 何だろうか、電磁波を飛ばすことが出来る力? 時を止めることが出来る力? 昨日万葉ちゃんのカレーで海岸しそうになったけど。

 中学二年生の時、授業中に死ぬ程想像していたことが現実になりそうな雰囲気に、体が自然と震える。


「……よしこれで大丈夫だ。これでそなたは『世界の自己修復能力』の影響を受けない体になった」

「はい?」


 あまりに呆気なく言うものだから、


「それってどういう意味?」

「普通、浮口市の一部が消滅しても、そなた人間達は気付くことがない。『世界の自己修復能力』のせいでな。

 それが観測者となったそなたは浮口市の消滅を感知することが出来るのだ。つまり一人だけ妾と同じように『世界の自己修復能力』のフレームの外側へと移動したわけだな。おめでとう、そなたもこれで特別な人間の仲間入りだ」


 ……えーと、何だろう。


 確かに凄い能力なんだろうけど、このガッカリ感は。


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