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43・ありがとう

 街の崩壊は著しく、直線を引いてる地面なんて存在しなかった。

 アスファルトの石塊が僕目掛けて飛んでくる。

 震え続けている世界は街灯さえもなぎ倒し、重い鉄の棒が一秒前までいた僕の場所に突き刺さる。


「はあはあ……!」


 だけど消滅しかかっている世界の中で。

 嘘のような満月がぽっかりと宙に浮かんでいた。

 平衡感覚が失われている中――僕はファミーユコノエがあった場所へと疾走していた。


 いや疾走という程、カッコ良いものじゃない。

 とっくの昔の悲鳴をあげ、限界を伝えている両足を強制的に前に向かわせ。

 何度も途中で転びながらも、前を向いて走っていた。


 普通なら走れば、不動不動産からファミーユコノエまでは五分程度の距離。

 だけど崩壊寸前の街中では満足に移動することも出来ず、まるで永遠とも思える時間の中で双眸にはファミーユコノエが映っている。


「そういえば、あの時、お前言ってたよな。一緒に住みたいって」


 ――だから妾もあの中に入ってみたかった。


 存在が消えかかっているのに、守り神はそんな切なる願いを言葉に出した。

 あの時は可笑しかったさ。神様のくせにやけに平凡な願いだな、なんて。

 だけどそれは的外れだったんだ。


「お前、寂しかったんだな……!」


 おんぶしている守り神の石像に向かって言う。

 走りながら、守り神の顔を思い出しながら言う。

 浮口山の頂上で一人ぼっちで、孤独に押し潰されそうになりながらも、今まで必死に浮口市を守ってきた……!


 目に映るのはファミーユコノエで楽しそうに暮らす住民達。

 守り神とはいえ、僕の目には一人の可愛い女の子としか映らなかった。

 そんな女の子がこんな石像に縛り付けられ、楽しく生活出来ない、なんて。

 バカなことあってたまるか!


 守り神も叶えていい夢はあると思うし。

 守り神でも――幸せになっていいはずなんだ!


「だから、その夢――僕が叶えてやるよ!」


 その時は勿論、万葉ちゃんも八重樫さんも十香さんも二タ月さんも国別府もいる世界で、だ。

 そこで僕達は本来、行われるはずであったパーティーの続きをするのだ。

 ファミーユコノエの庭先で――それはまるで幸福が詰められている箱のようであって。

 それくらいの幸せ、神様だって願っていいはずだろ?


「うわっ!」


 転倒し、回りながら大木へと体を強く叩きつけられる。


 まるで夢の中の光景のようであった。

 鉄筋の塊であるマンションが宙に浮いている。

 雲一つない七色の星空に雷が鳴り響いている。

 雪原が目の前に広がり、僕の進路を邪魔する。


 僕は立ち上がり、地面へと落としてしまった守り神の石像をもう一度抱える。


 こんだけ原形を留めていない浮口市でも――ファミーユコノエの場所だけは……! 

 万葉ちゃんのいた場所だけは間違えない!


 どんなことがあっても君のいる場所は絶対に忘れない!


 もう少しだ。もう少しでファミーユコノエに辿り着く。

 そこで目一杯の笑顔の花を咲かせてやろうじゃないか!


「うんしょっ! もう少しだ!」


 声を出して自分を奮い立たせ。

 守り神の石像を背負って、再度走り出すのであった。



「あった……! ここだ!」


 ぐにゃぐにゃと歪んだ世界の中で、ぽっかりと暗闇の浮かぶ四角の敷地。

 ここがファミーユコノエのあった場所なんだ!


「うわっ!」


 津波のように地面が盛り上がり、とてもじゃないけど、立ってられない状態となる。

 僕は四つん這いになりながら……それでいて、守り神の石像を決して話さぬまま、ファミーユコノエのあった場所を目指していく。

 もう少し、もう少し……手を伸ばせばそこにある。


 ……ここだ!


 雑草が生い茂る空間。

 そこにやっとのことで辿り着き、台風が荒れる中、僕は守り神の石像をそこに置く。


「これでどうだぁぁぁぁぁああああ!」


 地面に埋め込むくらいの強い力で守り神の石像を置く。

 その瞬間――石像から光が溢れ出す。

 光の集合は瀑布ばくふとなり、僕の体をその場から吹っ飛ばす。


「うわぁあ!」


 間抜けな声を上げて、僕は後方十メートル先まで宙に浮かぶ。

 そして地面へと落下してしまいそうな寸前――くるりと方向転換をするように、そのまま体が上昇していく。

 そして起こった現象は体の回転である。

 まるでハリケーンの中央部分に迷い込んでしまったかのように、くるくると体がその場を回り出す。


 ――――っ!


 あまりの、衝撃に! 一言も言葉を発することが出来ない!

 ぐるぐると回り、どんどんと気が遠くなっていく。

 脳味噌が頭蓋骨に何度も衝突を繰り返すことによって、どんどん視界がぼやけてきて――。



 ありがとう――。



 薄れていく視界の中――。

 聞こえてきた声はどこか聞き覚えのある声で。

 僕はそのまま発光する白色へと意識を埋没させるのであった――。

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