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28・騒がしくも楽しい、そんな感じ

 上――つまり二階の廊下部分を見上げて、怒りのままに叫ぶ。


「ふむ? おう! 君は不動雄斗ではないか。確かトイチの金融業を営んでいる」

「僕はミナミの金貸しか。不動産業だ」


 二階から顔を覗かせた男は一見、顔立ちも整っており、フレームの細い眼鏡は俳優のよう。

 時折見せる笑顔が子供のようで、女性にしたら母性本能をくすぐられるだろう。

 つまりイケメン男であった。内面は腐っているけど。


「今日の挨拶がまだだったな。すぐに下に行く!」


 ババババッ! と急いだ感じで階段を降りて、僕達の前へと男は立つ。


「国別府? これはどういうことだ?」


 落ちてきたエロい系であろう本を見せながら問いつめる。

 目の前で偉そうに腕を組んでいる男こそ――国別府創真くにべっぷ そうま


 僕と万葉ちゃん、さらには八重樫さんと同じ年齢。

 二タ月さんに続く形で他の不動産屋が連れてきたお客さん第二号。


 三日前くらいから二〇一号室に住みだした男である。

 国別府は「ふむ!」と言い胸を張ってこう答える。


「これは熟女もののエロ漫画雑誌である。絶版になっていたところを無理言って再出版してもらったものだ」

「お前は一体どんな権力持っているんだよ。ってか僕の言いたいことはそういうことじゃなく……」

「もしや不動雄斗も興味があるのかね? もしよければ読んでくれ」


 エロ本を返そうとすると、その手を国別府が押し返した。

 そこで改めて表紙が目に入る。

 おっとりとしたような二次元の女の子。

 ただのイラストながら、顔立ちは整っており、熟女といいながら少女としての幼さも両立させていた。


 何となく――万葉ちゃんに似ているな。

 いやいや。僕は何を考えているんだ。

 現実にいる万葉ちゃんの方がもっとキレイで……ってそういうことじゃなく。


「雄斗君。その本って何なの? アパートの大家って文字がチラッと見えたけど」


 万葉ちゃんが首を伸ばして覗き込んできた。

 瞳は好奇心のためかキラキラと輝いている。

 僕は有害図書を万葉ちゃんから遠ざけるようにして持ち、


「こ、これはね! そんな大した本じゃないよ。えーっと、そうだ。マンション経営に対するハウツー本みたいな」

「あっ、それなら私も読んでみたいな。私、料理本しか読んだことないし」


 嘘だろ。君の部屋で料理本を見たことないぞ。何故か化学雑誌は本棚に置かれていたけど。


「いやいや! 万葉ちゃんにはちょっと早い。マンション経営は僕や叔母さんに聞けばいいから」

「おおっ! 大家もエロ本に興味があるのかね!」


 チッ!


 身を乗り出して国別府は言う。


「エロ本? それエッチな本なんですか?」

「男が読む本といったエッチな本しかないだろ」


 そんなわけあるか。


「でもそれにどうしてアパートの大家が関係あるんですか?」

「アパートの大家だからこそ関係あるのだ! 部屋は違いながらも、同じ屋根の下で暮らしているという事実は変わりなく、さらに入居者と大家という一見断絶してそうな関係から生まれるロマンスが……」


 身振り手振りで国別府が説明している。

 悦に入っているこいつはもう周りが見えていない。


 僕は万葉ちゃんの耳を手で塞いだ。

 有害な演説は彼女にはまだ早い。絶対ないけど、万が一にでも洗脳されてしまってはいけないのだ。

 シャンプーの匂いがして、万葉ちゃんはやっぱり女の子なんだな、と思っていた。


「はあはあ……分かったかね! 大家よ。もしよければ、君が好きなエッチな分野の本を取り寄せてあげよう」

「よく分かりませんがありがとうございます」

「お金は友達割引で本の代金と手数料五十%だけでいい」


 金取んのかよ。


 ――という感じで。

 僕が直接お客さんを案内して決めなければ、こういう変な入居者を呼ばれるという弱味も一つはあって。

 二タ月さんに続いて、それ以上の変人……国別府創真が神出鬼没に出現するのである。

 こいつ、何でもエロ本専門の私立探偵らしく、いつもそういう類の本を持ち歩いている。


 キャラが大混雑しすぎて意味が分からなくなっていた。

 始めの挨拶に行った時も、こいつの部屋にはエロ本で溢れかえっていたのでビックリしたものだ。

 まあ二タ月さんと同じく自分の部屋で完結しているから良いけど。

 アパートの前でやあやあと騒いでいると、


「五月蠅いです! 歌のレッスンに集中出来ないじゃないですか!」


 隣の一〇二号室の扉が開き八重樫さんが出てきた。

 八重樫さんは上下真っ黒のジャージで後ろに髪をくくっている。

 シンプルな服装なので、余計に胸の膨らみが強調されていた。


「むっ……君はAV女優の八重樫凪だったか!」

「AV女優じゃありません! グラビアアイド……じゃなくて歌手の八重樫です!」


 八重樫が唾を飛ばす勢いで叱責している。


 案の定真面目な八重樫さんと国別府の相性は悪い。

 国別府は「ほほう」と舐め回すような視線で八重樫さんの体を見ている。

 言わなくても分かると思うけど、彼は胸の膨らみを見ているのである。


「ククク……外が騒がしいな。もしや第四次カーニバルが開催されるというのかっ!」


 そうこうしていると、二階から二タ月さんも降りてきた。

 二タ月さんは黒のマントを羽織っており、肩から爪先まで覆い隠していた。


「二タ月さん? 何でマントを羽織っているの?」

「部屋着だ。間違った。ククク……この漆黒のマントは空中を浮遊する力があり《失意のマドンナ》という名前が付けられている逸品であり……」


 部屋着にマントを羽織るヤツがいるとは思わなかった。

 そうは見えないけど、この中で一番の年上。

 二タ月さんはニヤニヤと笑いながら、


「それにしてもカーニバルか?」

「カーニバルって何なの? ハロウィンはまだだけど」

「戦争だ。地球上の生物の中で誰が支配者となるにふさわしいか定める聖戦であり……」

「あっ。そういう感じの設定なのね」

「吸血鬼である我もカーニバルに参加し――百年前のカーニバルでは」

「魔女じゃなかったのかよ」


 ああー!


 このアパートじゃ万葉ちゃんと良い雰囲気にもなれやしない。


 だけど万葉ちゃんは何故だか幸福そうな顔をしていた。

 今はその顔を見られるだけで良かった。

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