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26・フェリシア・ニコ・インリングワース

 ……いや「決まった!」みたいな顔をされても。

 これだけ絵に書いたようなドヤ顔は始めて見たかもしれない。


「……いや二タ月さんどういうこと? 二タ月二子、さんっていうのが本名だよね?」

「ククク。それは仮初めの名前とて。ここ人間界に住居する身として自然な名前の方が色々と都合がいいのだ」

「二タ月さん大学生だよね?」

「それも仮初めの姿だ。本当は魔女をやっておる」


 ……隣の万葉ちゃんは唖然。口を半開きにしている。


 僕も度肝を抜かれていた。まさか普通の女子大生だと思っていた二タ月さんが、こんな電波を受信しているような変人だなんて。

 万葉ちゃんの意識が戻り、僕と後ろを向いてコソコソ話を始める。


「雄斗君どういうこと? 魔女さんが私のアパートに来たわけ」

「いや魔女なわけないだろう。多分、あれは中二病というヤツだ」

「ドコチュー?」

「それは怖い人に絡まれた時に絶対に聞かれる言葉だ。僕もよく聞かれていた」

「チューニビョウって一体、何なの?」

「つまり自分の中で架空の設定を作り出して楽しむ人達のことなんだ。よくありがちな妄想としては、自分の前世は堕ちた勇者であり暴走した民衆から逃げるようにして並行世界の現代にやって来てこの現代ではゲームでいうところの『強くてニューゲーム状態』で色々なテロリスト行為や政治事件を解決していく。

 ……というような設定を自分の中で作り出すんだ。自分は普通ではない特別な人間なんだ、という妄想で中学二年生くらいの男の子がかかる流行病だと思ってくれていい」

「妙に例えの設定が凝っているのは気のせいかな?」


 決まっている。

 これは僕が中学二年生の時に作り上げていた妄想だからだ。

 ああー! 黒歴史を掘り返すな! いや勝手に喋り出したのは僕だけどよ。


「まあ、悪い人じゃない、ってことだよね」

「ん……まあ、大学生なのに中二病っていうのが少し人格捻くれている傾向があるけど、悪い人じゃないと思うよ」

「おいおいそこの者。我に内緒で何を話しておる。なっ――! まさか貴様等は惑星ゼックスからの悪鬼共だと言うのか!」


 二タ月さんが後ろで勝手に驚愕の表情を作っている。

 安全だと分かった万葉ちゃんはフンフンと鼻歌を口ずさみ、警戒心ゼロで二タ月さんへと接近した。


「私のアパートだけど、ずっと空き部屋だったからこうやってモノが置かれているのも新鮮だね」

「ふむ。これは実家……じゃなく、魔界から持ってきた我の私物だ。全て魔術の発動・実験に使っておる」

「あの人体模型はどこで買ったのかな?」

「秋葉原だ」


 フィギュアを買うような感覚で買わないで欲しい。


「何か理科室にあるようなモノが多いね。今年の夏流行ってるのかな?」


 万葉よ。アルコールランプが若者の間で流行ると思うのか?

 万葉ちゃんと二タ月さんは微妙に噛み合わないトンチンカンな会話をしている。


 一例を挙げると「クッ……右手が! 右手が痛むぞ!」と手を押さえだし「大変! すぐに病院に行かなくちゃ」「い、いや? ちょいっと待て大家よ。もう大丈夫だからそのスマホを置くのだ」と基本的には万葉ちゃんにペースを持って行かれていた。


 万葉ちゃん、クソ真面目な上に天然だからな。

 二タ月さんとしてはやりにくいのだろう。


 僕はその間、部屋の中を観察させてもらっていた。

 変なレイアウトに小物だけど、異臭を放つものが置かれていたりベランダにはみ出るような大きなものは置かれていない。

 不気味だけど、あくまで部屋の中で完結しているのだ。


 だから――別に不動産屋として、大家として文句を言うところはないだろう。

 なんてことを考えていると、


「おりゃ!」

「きゃっ!」


 万葉ちゃんの短い悲鳴が聞こえ、反射的にそちらを振り向く。


「うりゃうりゃ」

「な、何をするんですかっ!」


 ――柔らかいモノがうねっていた。

 もっと言うと二タ月さんが万葉ちゃんの胸の膨らみを揉んでいたのだ。


「うりゃうりゃ――クッ。このアパートの大家よ。よくも我を困らせてくれたな」

「や、止めてください! あっ、あっ!」


 脇の下から手を通し、うねうねとおっぱいを揉みまくっている二タ月さん。

 僕はその光景に目を奪われて言葉を発することが出来ない。


 八重樫さん程でもないけど、万葉ちゃんも十分胸がでかい。

 その胸がまるで水のように自由自在に形を変えているのだ。


「あっ――! そ、そこはダ、あっ!」


 万葉ちゃんの声から色っぽい声が聞こえる。

 瞳に一滴の涙を浮かべ、仄かに頬が赤くなっていた。


「むっ! 見つかったぞ。この胸の脂肪があれば『ダイエットしなきゃーと言いながら太っているねと指摘すると怒り出す女子共を困らせることが出来る高カロリーの調味料』を作り出すことが出来るぞ! クッ……あいつ等。それで我を仲間はずれにしおって」


 やけに対象が限定的だった。

 やがて限界だったのか、万葉ちゃんは二タ月さんを振り払い、


「や、止めてください! そんな破廉恥なこと」

「何故だ? 我も女とて。胸を触られるくらい恥ずかしくないだろ。減るもんじゃないし」


 その台詞、女が吐くと妙な説得力を持つな。

 怯えたようにして万葉ちゃんが僕の方へと逃げていく。

 震えている肩をポンポンと叩いてやる僕。


「まあ二タ月さん」

「フェリシア・ニコ・インリングワースだ」

「はいはい。ニコさん。別にいいけど、他の入居者には迷惑をかけないでね」

「迷惑をかけるつもりはない。だが、もし小生を目の敵にする悪鬼がこのアパートを襲来した時は貴様等にも戦ってもらう必要が……ってどこに行く?」


 そろそろ頭痛がしてきたので、話している間に外へ出て行かせてもらう。

 まあ……変人だけど、悪い人ではないだろう。

 八重樫さんに続き、また個性的な面々が増えたファミーユコノエであった。

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