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20・絶対に見るなよ!

 万葉ちゃんは部屋にあるクローゼットから、ピンク色のタオルを取り出した。

 そしてそのまま「じゃ、お先ー」と言って浴室へと消えていった。


「ふう。じゃあ僕は万葉ちゃん上がってくるまで、天井の木目でも数えておこうかな」


 我ながら寂しすぎる。

 まあ中学校の時していた「もし学校にテロリストがやって来たら?」妄想よりはマシだろう。僕はその時、「何なんだ君達は!」と一番に言ってテロリストに殺された。せめて妄想の中だけでもスーパーヒーローでいようよ僕。


 …………。

 というわけで寝転がって、ぼーっと天井を眺めていると、


「♪ ♪ ♪」


 浴室から鼻歌のようなものが聞こえてきた。

 勿論、扉一枚挟んでいるので、何を唱っているかまでは聞こえない。


 だけど――。


 ジャ――――。


 シャワーから流れるお湯の音も合わさって聞こえてくる。


「楽しそうにお風呂に入るな。万葉ちゃんはお風呂が好きなんだな……」


 どうしても想像してしまう。


 お風呂に入っている万葉ちゃん。

 一糸まとわぬ万葉ちゃんの姿。

 お湯が万葉ちゃんの裸身に当たり下へと落ちていく。


 同級生に比べて大きい胸の膨らみ。

 張りのあるお尻は禁断の果実のよう。

 想像するだけで、口の中がヨダレまみれになってしまう――。


「ダメだ! こんなことを想像しちゃ!」


 想像の中、万葉ちゃんがシャワーを浴びているシーン。

 その画面に「SECRET!」と書かれた黄色いテープが横断するイメージを思い浮かべる。


 だけどそのテープは悪魔の手によって一枚ずつ剥がれていく。

 その度に新たなテープが貼られていくけど、悪魔の動きは素早い。

 僕の自制心はエロパワーに駆逐され、万葉ちゃんの裸をさらに鮮明にイメージさせて、


「♪ ♪ ♪ き〜み〜が〜よ」


 万葉ちゃんの鼻歌。国家を口ずさむヤツ初めて見た。

 何とか、裸のイメージを振り払おうとするけど――瞳に彼女の裸のイメージがくっきりと刻まれてしまった。


「ダメだダメだダメだ! 煩悩の塊だ。そうだ徒然草を諳んじよう。男もすなる……」


 目を瞑り、頭を抱えて高校の予習として土佐日記の冒頭を口にしていると――。


「きゃ――――――!」


 ――浴室から万葉ちゃんの悲鳴!


「万葉ちゃん!」


 その瞬間、邪なイメージは雲となって消え、自然とその方向へと駆け出した。


 ここは一階だ! もしや本当に変質者が現れたのか!

 糞っ! 万葉ちゃんの裸を覗こうとする輩め! 羨ましいぞ違う許せない! その裸は僕だけのも違う! 引っ捕らえて警察に突き出してやる!


 どうして、万葉ちゃんの悲鳴を聞いた瞬間、正常な思考が出来なくなったのか分からない。

 今となって振り返れば、この時の僕の行動はまさに愚の誇張。


 だけど体が勝手に反応してしまったんだ!

 万葉ちゃんの笑顔を脅かすヤツ――そいつを今すぐ退治しなければならない、と。


「大丈夫! 万葉ちゃ――」


 だからそんなことをしてしまったんだ。

 お風呂の扉を一気に開けてしまったことを――。


「ゆ、雄斗君っ?」


 その時、見たのは僕のところと同じように、大蛇のように暴れ狂っているシャワーのホース。


 だけどそんなことはある意味、問題なかった。

 僕の視界に焼き付いていたのは――胸を両手で隠し、真っ赤な顔をして僕を見る万葉ちゃんの――、



 裸。



 両腕で隠しきれていない胸の膨らみは、収穫期の果実だ。

 日焼け・染み、トラブルを一切受け付けない白肌は魔法遣いの結界のように美しく。

 曖昧にイメージしていた万葉ちゃんの裸と――実物が完全に重なり合う。


「「…………」」


 お互いに黙り合う僕達。

 窮地の僕は冷静に頭を掻きながら、


「絶対押すなよ!」

「押しません。叩く!」


 それは血の匂いがした。


 さっきよりも、嵐のようなビンタが僕の顔に接近。

 避けることも出来ない。

 彼女の掌が僕の頬にめり込んだ瞬間――ぷつり、と電源が落ちたように視界が暗転した。


 ――結局、万葉ちゃんの部屋の給湯器も故障していたみたいで。

 同じようにシャワーから水が迸り悲鳴を上げたみたいで。

 少し考えれば、給湯器の寿命が同じように来ることを。


 気絶から回復して気付いた。

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