2・階段から落ちて主人公死亡!?
そこは静寂な檻の中に閉じこめられているようであった。
夜中。辺りは真っ暗でぽつぽつと建物の光が外に漏れている。
みしみし――みしみし――。
そんな平和な街並みの光景。
その一角が――不気味な音を立て出した。
商店街だ。シャッターが降りている光景も目立ち始めている場所。
そこの中央部分がまるで大穴が空いたかのように凹んだ。
そしてその大穴となった中央部分に向かって、商店街のあらゆる一切のものが流れ落ちていく。
まるで液体のように。コンクリート製の建物も、ぐにゃりと歪み水のようにして中央部分の穴に流れていく。
みしみし――みしみし――。
不気味な音はひぐらしの鳴く声のように思えて――。
やがて商店街の一角が大穴に呑み込まれて、完全消滅するのは五分とかからなかった。
これだけの大惨事だというのに、街の消滅に気付いたものは誰もいない。
◆
ダンボールの臭いは好きだ。新しい風が好きだから。
「ふう。これで終わりかな」
最後のダンボール箱を床に置いて、額に浮かんだ汗を腕で拭った。
――親が海外に転勤に行く関係で、今日から浮口市で一人暮らし。
今まで住んでいた場所から電車で一時間くらいだけど、やっぱり浮口市の新しい空気に酔ってしまいそう。
約八畳のワンルーム。
今日からここが僕のお城だ。
「家賃の割りには良いところみたいで良かった」
叔母さんに決めてもらった部屋なので、初めてここを訪れる。
格安の家賃で住まわせてもらった部屋。ぐるりと部屋中を見渡す。
真っ白なクロス。下は光沢があるフローリング。南向きのバルコニーから日差しが差し込む。お風呂とトイレは別々。キッチンもこのタイプの部屋にしては充分に広い。
うん、文句なしだ。一ヶ月後の四月から高校生になる僕には勿体ないくらいの場所だ。
「そうだ。まだ大家さんに挨拶してこなかったな」
大事なことを思いついて、靴を履いて玄関を出た。
大家さんに挨拶をすることは大切だ。
これから最低三年間はお世話になる人なんだ。もし何か部屋内で不具合があった場合に呼ぶかもしれない。
それにこのアパートの大家さんがどんな人か一目くらいは見ておきたかった。
――ファミーユコノエ。
それがこのアパートの名前。
ファミーユコノエの大家さんは一階の一〇三号室に住んでいる――と事前に叔母さんから事前に聞かされている。
どんな人なんだろう、と想像を巡らしながらさびた鉄製の階段を降りていくと――。
「へ?」
持っていた手すりが抜け落ちてバランスを崩してしまう。
そのまま目の前に階段の床部分が迫ってくる。
額に思い切りぶつけてしまう!
そしてバランスを持ち直せないままの僕は体の隅々を打ちながら、転がっていく。
えー! 新生活の始まりにいきなりこれー!
最後の最後。脳内で絶叫した言葉がそれだった。
強烈な痛みによって意識が一気にシャットダウンされた……。
今日から一人暮らしをすることになり、叔母さんが住んでいる浮口市に移り住むことになったんだけど――初めて訪れるわけではない。
六歳くらいまで浮口市に住んでいたことがある。
その時の記憶はほとんどない。
しかしそれでも、一つだけ強烈に残っている記憶があった。
それが毎日一緒になって遊んでいた女の子の幼馴染みのことであった。
六歳にして「可愛いな」と素直に思える女の子であった。
その頃は恋心じゃなかったと思う。純粋なお友達だと思っていた。
毎日毎日、その子と一緒だった。
公園のブランコで、どっちが高くまで到達出来るか競い合った。ボロボロのお寺に忍び込んで住職に怒られた。夏になったら二人してキンキンに冷えたスイカを丸かじりした。
僕にとって浮口市とはあの子のことであったし、ここに引っ越しすることが分かって、真っ先に思い浮かんだのがあの子の顔のことであった。
何でそんなことを回想しているのか、って?
走馬燈のように人生を振り返ってみたのだ。違う。僕はまだ死んでない!
最後に……もう一度だけあの子に会いたかったな……。
その子の名前は――。
どうやら僕はまだ生きている。
眩しさを感じて瞼を開けた。
「んんんっ!」
その途端、声なき悲鳴を上げてしまう。
何故なら――目を開けるとそこには美少女の顔が目の前にあったからだ。
美少女は前髪をかき上げ額を、同じく僕の額へと引っ付けていた。
「って、何で何で!」




