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15・写真を撮りましょう

 カメラのシャッターを押そうとすると、レンズ越しに白いパンツが見えた。


「ぶ――――ーっ!」


 ブーイングのような音を立てて、僕の鼻から血が放出される!

 鼻血は反比例のグラフを描き、床へとついらく。

 一方、僕の体は後ろへと倒れ後頭部は壁の角に打ってしまう。


「痛たたた……こ、こけちゃった――って雄斗君っ?」


 頭を押さえ痛がっている僕を、心配がって万葉ちゃんが近付いてきた。


「雄斗君! 死なないで!」

「いや死なないけどさ」

「嘘みたいでしょ。死んでるのよ、これ」

「だから死んでないって!」

「大丈夫。あなたは私が守るもの」

「守りきってないからこうなったんだよね!」


 ファミーユコノエの空き部屋の写真を撮影したら、いきなり万葉ちゃんがこけて、四つん這いになったお尻が見えたのだ。

 しかもパンツ丸出しの状態で……。


 ふらふらになった頭のまま立ち上がって、


「てか何で何にもないところで転ぶのさ!」

「七転八倒って言うじゃない。私は何度でも立ち上がるから大丈夫」

「それを言うなら七転び八起きだ」

「転ぶと三年寿命が延びるって言うじゃない」

「三年峠だけだね」

「私は寿命が見えます」

「死神と取引したのかな? ……って」


 こんなことしている場合じゃない。


 入居者が入る前に、こんな床を血で汚していてはいけない。事故物件だと間違われるじゃないか。

 空き部屋の掃除もしようと思って持ってきていたのが良かった。雑巾を使って、万葉ちゃんと一緒に床を拭いていく。

 すると相変わらず、無防備な万葉ちゃんのお尻が見えた。


「ぶ――――ーっ!」


 大きいお尻だけど、くびれている腰は女の子で一番エロいところだよね。

 そんなことを思いながら、僕はもう一度鼻血を飛ばしたのであった。



 ファミーユコノエを満室にする。

 そう――浮口市の守り神に告げた夜のことである。


「僕だけのコノエになってください」


 万葉ちゃんの部屋の玄関で、彼女の手を握りしめてそう告げた。


「え……」


 万葉ちゃんは一瞬困ったような表情。

 そして、ぽっと頬を赤らめて、


「やっと言ってくれたね。待っていたよ。その言葉――うん。指輪はいらない。雄斗君が一緒にいてくれるなら」

「万葉ちゃん……? 何か勘違いしていないかな」

「サッカーチームが作れるくらいに子供が欲しいな」

「ドラ○もんズのブラジル出身の子かな。万葉ちゃん――何を一体、勘違いしているの?」

「え? 結婚しよう、ってことじゃないの?」

「違ーう!」


 握りしめた手を離して、思わず叫んでしまう。

 まあ僕の言い方も悪かったけれど……そういうことじゃない。


「コノエっていうのはファミーユコノエのこと! ファミーユコノエを満室にするため僕と専任契約を結んでください、って言いたいんだよ!」

「千人契約? 影分身でもするの?」

「だから僕は木の葉隠れ出身じゃないって」

「仙人契約? 雄斗君、ヒゲ伸ばしてないじゃん」

「君を仙人を何だと思っているんだい?」


 こんな玄関先で万葉ちゃんにツッコミを入れていても仕方がないので、中に入れてもらうことにした。

 テーブルの前に座ると、「待って。今日の晩ご飯にシチューを作るから」と言ってきたので丁重にお断りした。

 正座をして、万葉ちゃんと対面をする。


「万葉ちゃん。大家さんの仕事って何だと思う?」

「え? そりゃあ、部屋が空いていたら入居者を捜して、さらに入居者さんが快適に過ごせるようにアパートを守る、ってことだと思うけど……」

「その通り。だけど、それを大家さんが一人でやるって決まってないよね」

「え? そうなの」

「そうだよ。だって僕はファミーユコノエに入居して、初めて万葉ちゃんが大家さんだ、ってことを知ったくらいだし……不動産屋の叔母さんの紹介でこのアパートに入っただろ?

 つまり入居者を捜すこと。これは『入居者の斡旋』っていうことなんだけど、不動産屋の人との協力関係にある、ってことだよね」


 不動産屋の人達にとって、物件……マンションやアパート。一戸建てはスーパーに例えるなら、商品棚に並ぶ食品やお菓子である。


 基本的に不動産屋がマンションやアパートを持っているわけではない(例外もある)。

 不動産屋はマンションやアパートを持っている人を見つけ仲良くなって、それを部屋を探している人達に紹介するのだ。


 このマンションやアパートを持っている人。すなわち大家さんと話して、入居者に空き部屋を紹介してもいいという許可を得ることを、不動産用語で仕入れと呼ぶ。

 空き部屋をたくさん知っている。これはすなわち、商品棚に並ぶ食品やお菓子が多い、ということを意味しているのだ。


「そして、大まかに分けて賃貸においては専任契約と一般契約の二つがある。

 一般契約はたくさんの不動産屋に空き部屋の斡旋をお願いすることだ。例えばファミーユコノエの空き部屋を、AやBやCの不動産屋が紹介する。勿論、差はあると思うけど、万葉ちゃんはAやBやCの不動産屋と平等に仲良くしなければならないわけだ。

 一方、専任契約とは一つの不動産屋に空き部屋の斡旋をお願いすること。Aという不動産屋と専任契約を結んだ場合、Aという不動産屋としか万葉ちゃんは取引をしてはいけないことになる」


 無論、賃貸においては専任契約と一般契約の境界は曖昧。というより、ほとんどは口約束で結ばれる契約だ。


 この場合、男女がお付き合いをする、ということと同じ意味だと考えてもらいたい。お付き合いをする、といっても結婚と違って、書類に名前を書いたりハンコを押したりすることはないだろう? お付き合いをする、というのはあくまで両者の共通認識によって成立するものだ。

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