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10・少しずつ消えていく

「一つ思ったんだけど、神ならファミーユコノエを小さくすることは出来ないの?」

「ふん? どういうことだ?」

「例えば今、ファミーユコノエは全部で六部屋あって二部屋しか埋まっていない。だけどアパートを小さくしたらそれが四部屋くらいになるんじゃないの?」


 さながら長方形のケーキを切るように、ね。


「ダメだ。それではエネルギーが不足する。六部屋分のエネルギーというのはギリギリのラインなのだ。増やす分には問題ないが、減らしては元も子もない」


 つまりファミーユコノエは原形を留めたまま、満室にしなければならないのか。

 一階に一部屋だけ増やす光景を思い浮かべる。この場合、一階部分だけ長細くなるので歪な形になってしまうだろう。なので二階も同じように広げなければならない……つまり一部屋増やすということは、必然的にもう一部屋オマケで付いてくるのか。


 まあそんな必要はないけれども。


「というわけで、不動雄斗。君は浮口市の救世主になってくれるかな?」

「そんな笑っ○いいと○みたいな軽いテンションで言われても……正直、僕は君の話が信じられません。壮大な話すぎて……信じられない、というより付いていけません」

「何と。では仕方ない。今度は頭に花瓶を直撃させてやろうか?」

「ちょ、ちょっと!」


 守り神が怒ったような顔になり、手を上げて店の中のものを大量に空中に浮かせる。

 最初は面食らったけど、一度その技は見ている! 二度、同じ技はくらうものか!


「はっ!」

「お、おい不動雄斗!」


 しゃがみながら、店の裏口へとダッシュで逃げる。

 裏口の扉を閉めた瞬間、ガシャンと扉に花瓶が当たり割れたような音が聞こえた。


 ――正直、現実離れすぎて、守り神の話を全て信じることが出来なかった。

『世界の自己修復能力』? エネルギーの源泉? 観測者? 何じゃ、そりゃ。エスパー少女が暇潰しに戯れ言をほざいているようにしか思えない。

 ふわふわと地に足が着いていない感覚。急速に異世界の扉を潜ったことによって、頭がくらくらとする。


 何とか逃げ帰った後、「全然片付けてねえじゃねえか! 何で花瓶が割れてやがんだ!」と叔母さんからお叱りの電話を頂いたのは言うまでもない。


  ◆


 カーテンを開けると朝日が部屋中を見たし、自然と背筋が伸びる。


「ふわぁあ〜……昨日はヘンテコなエスパー少女に絡まれたけど、今日も素晴らしい朝だ」


 今日は三月一日。浮口高校への入学も残り一ヶ月と差し迫っている。

 あんまり部屋の中でゴロゴロしていても、仕方ないので、朝の散歩に出かけるとしよう。

 突然、思い立ち中学校のジャージに着替えて外に飛び出す。


「あっ、おはようございます」


 擦れ違ったおじいちゃんに挨拶も欠かさない青少年な僕。

 朝の空気は少し肌寒くて、吸い込むと体の隅まで浄化されそうだった。

 そうだ、浮口高校の前を通り過ぎよう。入学試験を受けに行った時に、一度だけ訪れたんだけどな。多分、学校は春休みとはいえ、部は活動しているはずだ。今の内に、浮口高校の雰囲気というものを肌で感じよう。


 さあ、あの曲がり角を曲がったら浮口高校の校舎が見える。

 一ヶ月後――ああ万葉ちゃんも通うって言っていたな。一緒に万葉ちゃんと登校してみたりなんかして。「あの美少女と登校している平凡な少年は誰だ!」なんて噂になったりしたりして。


 一ヶ月後に控えている高校入学に胸を弾ませながら、角を曲がると。


「……え。そんな」


 場所は間違えるわけはない。

 近所のスーパーに行く時に通り過ぎる道だ。

 寝惚けて、場所を間違っている――なんていうことじゃない。


「こ、高校が……っ!」


 呆然と立ち尽くす。

 そう――浮口高校の校舎が完全に消滅し、大きな空き地が広がっていたからだ――。

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