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1・プロローグ 〜昔の話〜

 夜色のキャンパスに流れ星が走った。


 木々達が夜風に揺られる。まるでそれは春の訪れを知らせているよう。

 人なんてほとんど来ない。来るといえばクマやウサギくらい。季節がどれだけ巡ろうとも、この退屈は押し留まっていた。

 嘘のように静まりかえっている森中に――ざざざと草木を掻き分ける音が。


 そこからひょこっと顔を出したのは二人の男女であった。

 五歳くらいだろうか。身長はほとんど変わらない。少年の方が、少女の手を引っ張っている。


「はあはあ……ここが山頂か」


 息を荒くして、両膝に手を置いた少年が言った。


「ほら、見て。あそこに石像があるよ」


 少女の指差す方向を見て、「ホントだ」と声を上げる少年。

 二人の男女が近付いてきた。

 そして二人共、覗き見るような格好になって、


「ヘンテコな石像」

「これって、もしかしたら浮口市の守り神なんじゃない?」

「これが守り神? どうしてそう思うの」

「私、聞いたことがあるの。浮口山の山頂には守り神が住んでいる、って」


 少年と少女に聞きたいことは山ほどあった。

 こんな夜中にどうしてやって来たのか。家族は心配しないのか。それに子供が来るには、険しい山道だったと思うが。服が泥だらけだけど大丈夫なのか。


 しかし――は問いかけることが出来ず、ただ黙って少年と少女を見ている。


「願い事をしようよ。浮口市の守り神なら、きっと人々の願いを叶えてくれるから」


 無責任なことを言う少女。


「願い事? さっきの流れ星に願い事を出来なかったから、このヘンテコな石像に祈ろうとしているんじゃないの」

「むー、違いますー。言い伝えに聞いたことがあるの。浮口市の守り神は、住民の幸せを願ってるって」

「そんな言い伝え、君しか信じていないよ」


 最初から信じていない少年。

 しかし少女は――の前にしゃがみ、手を合わせて目を瞑った。


「守り神様。どうかファミーユコノエが満室になりますように。そして住人が幸せに暮らせますように」


 本気で願い事を言っている少女にバツが悪くなったのか、頬を掻く少年。

 そして「もぉう!」と半ばヤケクソになって、少女の隣にしゃがみ、


「守り神様。万葉ちゃんがずーっと笑顔で暮らせますように。そのためなら、僕は何でもします!」


 少年の言ったことに対して、頬を赤らめる少女。

 微笑ましい光景であった。みんなの幸せを願うお姫様と、それを守る騎士。


 少女の想いと、少年の決意。


 ならば二人の幸せを願ってあげよう。

 二人の想いが敵えば、そこはきっと楽しい場所になるに違いない。

 そしてそんな中に自分も入れればいいのにな――退屈な闇に光が差し込むようであった。


 二人の声は夜空まで届き、浮口市の未来へと続いていくのであった。

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