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異変

戦争は人の心の中から作られる。


  ――国際連合ユネスコ憲章




 博麗神社には、いつもとは違う雰囲気が漂っていた。 妖怪が集まっている事はいつも通りではあるものの、人間達も妖怪達も、平和な幻想郷に似合わず、ピリピリした雰囲気を漂わせていた。

レミリア・スカーレット、八意永琳、八坂神奈子、古明地さとり、聖白蓮、西行寺幽々子、豊聡耳神子といった幻想郷の大物が、小さな部屋で行儀良く座っている。

その他には不安そうな顔をして立っている早苗、何が起こるのか目を輝かせてメモを構えている射命丸文が二人、障子の前で立っていた。

「そろそろ、何で集まったのかを聞かせてもらえないかしら?」

口を最初に開いたのは、永琳だった。

「私も暇じゃないの、資金調達をするのは医療ボランティアでは重要だから」

「まぁまぁ、そろそろ発表があるから大人しくしていてください」

そう早苗がいうと、今度はさとりが発言をする。

「あまり意味がないんじゃないの? この場で事情を知らないのは医者と、そこの僧侶の二人だけよ」

「まぁ慌てるなよ、もうすぐ巫女が来て事情を説明してくれるから」

「知ってるわよ吸血鬼さん、貴方が運命を読んだ時、私は貴方の心を読んでいるのだから」

少しレミリアが不機嫌そうな顔をすると、障子がバンと開けられ、霊夢が部屋にズカズカと入ってきて、「集まっているようね」と呟く。 霊夢の後ろには、八雲藍が真剣な面持ちで立っていた。

「今日集まってもらったのは、八雲紫が……行方不明である事について。 事が事だから、幻想郷の大御所のあんた達に、従者も連れてこさせないで来てもらったわ」

その言葉を聴くと、永琳と白蓮は少し眉をピクっとさせたが、さして驚く様子はなく、むしろ納得したような表情になった。

「藍、詳しくあんたから話してちょうだい」

霊夢がそういうと、後ろで立っていた藍が部屋に入ると、一呼吸おいてから説明を始める。

「紫様がいなくなったのは、丁度3ヶ月前の事でした。 元々行方の知れない時も多い方ですから、あまり気にはしていなかったのですが、長くても1ヶ月程で帰って来るんです。 それに――」

「幻想郷に張られている、我々を完全に閉じ込める為のもう一つの結界ですよね?」

言葉を遮ったのは、神子だった。

「……その通りです。 流石ですね、気づいていたのですか」

「まあ、気づかなければ仙人たるものとして失格です。 元々幻想郷から出るにはそれ相応の力が必要ではありましたが、気にかかるのは外の世界の欲を聞き取る事すらできないのです」

「ちょっと待って、私は運命を見れるけど、最近は何かに阻まれているような気がしていた。 それはもしかして……」

レミリアが身を乗り出して神子にたずねると、「恐らく、結界の影響でしょうね」と言って頷いた。 レミリアは「なるほど……」と数回頷いてから、「続きをおねがい」と言って座りなおした。

「その結界は2ヶ月前に、紫様と……何者かは知れませんが、協力者によって張られた物です。 我々以外にも、外の世界に関するありとあらゆる干渉を受け付けません。 非常に強力な結界で、破るどころか、傷一つすらつける事が出来ないほどです」

「恐らくはその結界、月の者の協力を得ているわ」

口を開いたのは、八意永琳だった。




 「ふぅ、今日の営業は終了ね」

鈴奈庵では、小鈴が椅子に腰掛けて、肩を自分で叩いてくつろいでいた。 床には大きな穴が開いていて、階段で下へと降りる事ができるようになっている。

「それにしてもあんな複雑な機械、私じゃ扱えなかったよ、あなたには感謝してるわ」

そういう小鈴の視線の先には、黒い板に指を滑らしている黒いマントを羽織った女がいた。

「まぁ、私もこっちの世界での生活をするにはお金が必要だからね、ここで働かせてもらえるのに感謝してるよ」

「いいのいいの、お陰で古本屋の仕事するよりすごい儲かっちゃった。 初期投資はすごいかかったけど、初期投資の何十倍も儲かっているよ」

「初期投資……ああ、河童……じゃなくて技術屋の改装工事ね。 おかげで外の世界より快適かもね、映画館」

映画館は河童達による改造が施され、映像が"本当に"飛び出してきたり、臭いが漂ってきたりする。 珍しい機械を見せてくれたお礼、という事で勝手に改造していったものである。

「映画館でバイトしたことあるけど、明らかにそれよりも簡単に操作できる。 かっ……いや幻想郷の技術屋はすごいね」

「あんな技術を扱える人が人里にいるなんてねぇ、最初は妖怪じゃないかって疑ったけど、常連の美人さんの知り合いだから本当に人間なんだよね。 儲かったし、今度お礼にいこうかな」

「それは今度でいいよ。 そういえばちゃんと霊夢には私の事、言わないでくれてるよね?」

「そもそも霊夢さんとは最近会ってないからなあ……多分霊夢さん忙しいんだよ」

「忙しい? この平和な幻想郷で?」

女がそういうと、小鈴は「うーん……そうなんだけど」と言うと、上を向いて呟いた。

「何か、不穏な空気がしてならないんだよね。 私の知らないどこかで……大きなことが起きているような……」

女は驚いて思わず「鋭い」と聞こえない程度の声で呟いてから、「そんな事あるわけないさ、多分平和すぎるからパトロールすらしていないんだろう」と取り繕った。

「そうだといいんだけどなあ、まあ何があっても霊夢さんがいれば大丈夫か……ところでさ」

小鈴は女に向き直ると、目を輝かせて「その黒い板、何なの?」と尋ねた。

「え? あ、ああこれ? スマートフォンだよ、なんというか……凄い便利なんだ」

「便利? どういう事?」

「例えば……遠くの人と話せたり、音楽が聴けたり、なんといっても色々な情報をこれ一台で調べられる」

「へぇー! やっぱり外の世界の技術ってすごいなあ……お金になるわね……今度連れて行ってよ!」

そういうと、女は少し悲しそうな表情をしてから、「……ごめん、それは私にはできないんだ」と言ってスマートフォンに視線を落とした。 スマートフォンの画面には、「世界中での終わらない戦争、第3次世界大戦の幕開けか?」という、2ヶ月前の記事が表示されていた。




 「定期的に月にいる私の弟子から連絡が来るのだけど、最近はぱったり途絶えていたの。 それも……3ヶ月前からね」

「偶然の一致という可能性はないのでしょうか?」

早苗が疑問を口にするが、永琳は首を横に振って疑問を否定した。

「違うだろうね、幻想郷の有力者達ですら、強固で破る事ができない程の強力な結界を、他の誰かが張れると、少なくとも私は思わない。 月を知る者なら、その点は同意するんじゃないかしら?」

永琳が霊夢に視線を向けると、霊夢はため息をついて「その通りかもしれない、月面に行った時に感じた結界と、少し似ている」と認めてしまった。

「だけど、月が何で私達を閉じ込めるのかしら? 一度は救ってやったのに、恩知らずなやつらね、文句の一つでも言ってやろうかしら」

「二度侵略しているのはどう考えているのかしら?」

永琳が口を挟むと、霊夢は舌打ちをして黙り込んでしまった。 そして、数秒沈黙が続いたが、神奈子が沈黙に耐え切れなかったのか、口を開く。

「とにかく、今するべき事は紫を探す事よりも、外の世界の状況を知る事じゃないか? 外の世界へ干渉が出来ないのは、どう考えても不自然だ」

「でもどうやって……」

早苗がそう呟くと、急にどこからともなく声が聞こえた。

「外の世界の人がいるじゃん、幻想郷に」

どこにも声の主が見当たらず、一同があたりを見回すが、まったく見当たらない。 しかし、さとりだけはおでこに手をあてて、「来ちゃったのね……」と首を左右に振った。 すぐに中央に古明地こいしがスゥーっと現れ、屈託のない笑顔をさとりに向けた。

「お姉ちゃんがどこかいくっていうから、どこに行くのか気になっちゃって」

「……情報が漏れないように気を使ったのに」

霊夢がそう呟くと、文が「えぇ!?」と声を荒げて霊夢に掴みかかった。

「こんな特ダネを私に書くなというのですか!? それは無理というものです、第一それなら何で私を呼んだのですか!?」

「文屋にかかせない為に決まってんでしょ。 もし口外したら、ここにいる全員が敵に回るわよ、そのメモも私に預けなさい」

文がまわりを見ると、幻想郷でトップクラスの人妖たちが文を睨み付けていた。 仕方なく、文はメモを霊夢に手渡して「特ダネだと思ったのに……」と、大きくため息をついた。

「それでアンタ、外の世界の人がいるって、どういう事?」

霊夢がそう尋ねると、こいしは首を傾けて「えー、映画館いってないの?」と霊夢に尋ね返した。

「映画館? そういえば行ってはなかったわね」

「映画館で、外の世界からきた人がアルバイトしてるの。 携帯電話落とした人ね」

霊夢の頭に、派手な黒いマントを身に着けた女の顔が浮かぶ。

「アイツか……アイツは幻想郷にまだ入れるみたいね。 半分こっちがわの人間になっているって事かしら」

「でも映画館なんて大きな所で、あんな大勢のお客さんを裁ききるなんて難しい事できないよね、外の世界の技術を知った誰かが関わっていると思わなかったの?」

こいしがそう首をかしげると、霊夢は苦い顔をした。

「アンタ……意外と頭いいのね」

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