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会合

自分を幸福だと思えない人間は、決して幸福になる事はない。


 ――マリー・サイラス



 人里で、鈴奈庵へと続くものすごい行列が出来ていた。 行列は鈴奈庵から500mほど離れた所まで続いており、何が起きているかも分からないで楽しそうだからと並びだす者まで現れる始末であった。

「な、なんなのよこれは……」

霊夢が見てはいけないものを見たかのような目で、その行列を傍から見つめている。 その隣には、人に上手く化けているマミゾウがケタケタと笑いながら「すごいもんじゃろう」と自慢げに声をあげている。

「すごいもんじゃろう? じゃないわよ! アンタ、何か知ってる顔してるわ、洗いざらい話して」

「うーむ、洗いざらい話すといわれてもな……霊夢、"映画館"というのを知っておる……わけないか」

「えいが……かん?」

霊夢が首を傾げてうーんと唸ると、「えいがっていうのを見る所なの?」とマミゾウに尋ねると、マミゾウは「左様」と頷いて解説を続けた。

「映画というのはな霊夢、動く絵じゃ。 絵が動いて、音が鳴って物語となっているのじゃ。 ま、簡単にいうと紙芝居の凄いバージョンといったやつじゃ」

「まさかそれ、小鈴がまた妖魔本でも使ってやってるんじゃ……」

「違う違う、映画館が幻想入りしたんじゃよ」

「映画館が幻想入りぃ?」

「そうじゃ。 ちょうど鈴奈庵の地下にな、ドドーンと出来てしまったんじゃ。 床にぽっかり穴があいてな、そこから映画が見れるというアンバイじゃよ」

「それで、商魂たくましいあの子が……」

霊夢の頭に、混雑する客を華麗に捌ききる小鈴の姿が浮かぶ。 恐らく今頃、お金が大量に入ってウハウハになっているのだろう、と考えると、呆れてため息が出た。

「ま、そういう事じゃな、なんにせよ害はありゃしないよ。 放っておいてもいずれ人足も途絶え始めるじゃろう。 人間とは飽きやすいモンじゃからの」

「アンタは外の世界に詳しいし、悪いやつではないから信用はできるわね。 分かった、今回の事は放っておくわ」

「外の世界か……最近の外の世界はどうなっておるかのぉ。 ……最近、紫がいない事にも関係があるのじゃろうか」

「あら、アンタも知っていたの?」

「これでも幻想郷の狸の親玉じゃ、それくらいの事は分かる」

「まぁ、あまり不在が続くと、紫を探す事も考えないといけないわね。 なんにせよ混乱を避けるために口外はしないでちょうだい」

マミゾウはケタケタと笑ってから、「分かっておるわい」と言って、列に並んでいた男に近寄っていった。

「ほれ、報酬の金じゃ、並んでいてくれて感謝するよ、お仕事は終わりじゃ」

そういってマミゾウが金を差し出すと、男は金を受け取って「確かに」というと列から離れ、代わりにマミゾウがそこに割って入った。

「……アンタも見るんかい」





 赤い鉄塔の観覧フロアから、荒廃しきった都会の町並みを紫は見つめていた。 町を一望できる格別の場所だが、この場所を訪れる者は、今では1人としていない。 ビルは崩れ、空気がよどみ、晴れの日でも大気が黄色く見えるほど汚れた今では、その余裕も人にはなかった。

「貴方の作り出した夢物語が、こうして世界を侵食するほどになってしまった。 今、その意趣返しなのか、世界が貴方の夢物語を侵食してしまっている。 そして……月をもね」

不意に、後ろから声が聞こえる。 振り返らずとも、紫には声の主が分かっていた。

「……月の大使さん、待っていましたわ」

豊姫はいつぞやの扇を紫に突きつけると、手をプルプルと震わせて、口から一筋の血が流れ出るほど歯を食いしばって、それでも静かに、怒りを込めて伝える。

「貴方を恨むのは筋違いではあると思う、貴方の作り出したのはただの仕組みであって、そこに悪意はなく、本当に責めるべきは人のあり方。 それでも……貴方のその仕組みを壊す事が、この世界を救う事に繋がると思っている」

扇は小刻みにぷるぷると震えて、かすかな風を送るが、その機能はまだ全力で発揮されてはいない――もっとも、豊姫にもそのつもりはなかった。

「それでも……それでも私はこの方法を取りたくはない、これは問題の先送りだから、これをしてしまえば、私達は侵略者になってしまうから」

豊姫の目は、今にも泣き出しそうな程、赤く充血していた。 ここまで追い詰められた事がないという事が見てとれるほど、豊姫は衰弱していた。 紫はそんな豊姫を見て、扇を手に取って、自分の鼻先へと扇を向けなおさせた。

「な……何を……」

「その扇を一振りした所で、私は責めはしませんわ。 ……大切な郷を想う気持ちは、私が一番よく分かっているつもりだから」

「……本当にそれでいい訳……ないでしょう?」

「幻想郷が存在し続けても、このままだといずれ月も、外の世界も滅びる、そうしたら幻想郷もおしまいよ。 だから……」

紫は目を瞑って、深呼吸をした後に、再び口を開いた。

「幻想郷を壊す事も、私は厭わない」

さしあたり導入まで書いてみた

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