第四話 山小屋の主
【前回までのお話】
ボブが怪しい山小屋に突撃してしまいました。
ボブが無警戒に踏み込んだ山小屋。
怪しすぎるが、あいつはいつもバカなのでしょうがない。
ボブはこれまで何度も俺とリチャードを危険な目に遭わせてきた。
そしてその尻ぬぐいをしてきたのはいつもパーカスだった。
まあ、そのパーカスは今いないから俺らがやるしかないんだけどよ。
「リチャード、中を調べるぞ」
「了解」
緊張が走る。リチャードが扉の前に張り付き、隙間から中を確認。
俺は後方を確認したのち、リチャードの突入に合わせる。
ゆっくりと扉を開け、リチャードは視線と同じように銃身を右から左へ九十度動かす。
「突入!」
「突入!」
リチャードが左方向と前方をクリアリング。
俺は右方向を再度確認して上方に視線と銃身を向ける。
「クソ……」
部屋の中には誰もいなかった。
――だが、天井からぶらさがるソイツを見つけた俺は、思わず銃を下ろした。
「ボブだ」
最悪の事態が起きてしまった。
天井からぶら下がっていたのは、両手足を縛られたボブだった。
「死んでるのか?」
「分からない」
「待ってろよボブ、今下ろしてやるからな」
「待てリチャード! 罠かもしれない。ちゃんと確認しろ」
「オーケー。ワイヤーも爆発物もない。クリアだ」
「よし、下ろせ」
リチャードがナイフでロープを切断し、ボブを下ろす。
「よかった、生きてる! 気絶してるだけだ!」
「う、ううう……」
どうやらボブは気絶していただけのようだ。
リチャードが顔面を二、三発殴るとすぐに痛そうな声を上げて目を覚ました。
「リチャード、ジョージ……」
「おいおい大丈夫かよボブ」
「ひでぇ顔だな。鼻血が出てる」
「あ、それ俺が殴ったからだわ」
「二人とも気をつけろ……奴はまだここにいる……」
「奴? 敵か?」
「ああ、ゲリラだ。小柄な東洋人……」
「なるほど、ジェット・リーみたいなのがいたわけだな?」
「まあ、そんな感じだ……」
「なあボブ、いま東洋人と言ったか?」
「ああ、中国人なのか日本人なのか分からなかったが……発音が英語じゃなかったな」
「日本語や中国語ならボブも少し出来るだろう?」
「いやいや、会話っつーほど喋ってねぇよ。なんか気合いの入った叫びと共に襲ってきたし」
「ふむ……」
ここがどこなのかは知らないが、鼻血が止まらないボブの言うことが本当ならこの山小屋は敵の拠点の一つだろう。
ボブはこう見えて、素手での戦闘にめっぽう強い。
以前バーで酔っ払った時にカウンターの前で暴れていた男の飼い猫を片手で捕まえたことがある。
そのボブが、手放しで「ヒャッホウ」とか言いながら飛び込んだとはいえ、一瞬でノックアウトされ天井に吊されるだなんて、にわかには信じがたい。
『なんだあんたら、人ん家に土足で上がり込んで……』
だが……このただならぬオーラを感じ取ったとき、俺たちはこの山小屋での死を覚悟した。
全員一斉に後ろを振り返り、その声の主に銃口を向ける。
音もなく現れたのは、背の低い東洋人のじいさんだった。何を言ってるかまではわからないが、おそらく日本語だ。俺は日本のアニメをかなり観ているが、アニメキャラとは少し違った発音のような気がする。
「みんな気をつけろ……俺をやったのはこのじいさんだ」
「なんだと!? ボブお前、このじいさんにボコボコにされたのか!? 鼻血まだ止まってねぇけど」
「いや、ボコボコにしたのはリチャードなんだが」
「二人とも落ち着け。日本人ならまだ何とか話ができる」
言ったのはリチャードだ。
このリチャードはチーム11の中で最も語学に長けている。特に日本語はかなり得意だ。そして日本のアニメと古典が大好きで、部屋の中は萌えキャラとサムライ一色。
「俺に任せろ。バカ二人は他に敵がいないか警戒してくれ」
「頼むぜリチャード。ワサビが食えないくせにスシうまいとか言ってるリチャード」
そして俺たちはこのあと、リチャードの恐るべき日本語力を目の当たりにする。