第一話 川へ逃げ込め海軍SEALs
よろしくお願いします。
第一話 川へ逃げ込め海軍SEALs
すぐに帰って来られる任務だと聞いていた。
それがまさか、こんな事になるなんて……。
俺たちはアメリカ合衆国海軍特殊部隊『SEALs』。
厳しい試験と過酷な訓練を乗り越えた精鋭中の精鋭だ。
水に強い。水中での破壊工作にはマジで自信がある。
ヒトはもっとも泳げない動物と何かの漫画で読んだことがあるが、俺たちはヒトのレベルを超えられるよう日々訓練に励んでいる。だから超泳げる。
もちろん、地上でも空でも宇宙でも、全ての状況に対応できるよう訓練をしている。俺たちは無敵のソルジャーさ。
そんな俺たちSEALsのチーム11。『ヘブン・イレブン・いい気分』が合い言葉の地獄の隊は、特殊部隊の中でもかなり過激な任務を任される傾向にある。
いや、入隊時はそんなこと聞いてなかったんだが、いざ配属されてみたらこれがヤバい任務ばかりで上官にキレちまったぜ。俺も若い頃はスペツナズナイフばりに尖ってたから、上官の胸ぐら掴んでこう言ってやったさ。「こんなの聞いてねぇ!」ってな。
そしたら上官はこう言い返してきた。
「言うわけねぇ!」
そっからもうアレよ。取っ組み合いのケンカになったぜ。
結果? 俺は特殊部隊員だぞ? そして相手も特殊部隊員だ。ボコボコにやられたわ。
だが、上官にはボコボコにされても敵にはボコボコにされない。
俺たちは並の軍人じゃない。どんな相手でも、どんな状況でも、決して戦いから逃げず、あきらめない。
といつも思っているがそうも行かない時だってある。
――それが今。ナウ。
「急げ急げ! 追っ手が来るぞ! 川へ飛び込め! プランPだ!」
「P!? プラン多くね!? もっと絞れよ!」
「ほらパーカス! お前で最後だ! 早く装具を付けろ!」
「分かった! ボブ、援護を頼む!」
「オーケー。タイタニックに乗ったつもりでいろよパーカス」
「初めての航海で豪快に沈む船を選ぶんじゃねえよ」
「俺たちはSEALs。酸素ボンベと足ヒレがあればタイタニックよりは強ぇだろ」
「パーカス、ボブ! 喋ってないで早くしろ! ピンチだぞコラ!」
「偉そうに言うなこのクソ隊長が! 誰のせいでこうなったと思ってやがる!」
「なんだよそれ、俺のせいだって言いたいのかよ!?」
「そうだよバカ!」
この日の任務はそう難しくない内容で、某国の武装勢力の会合を調査し、その証拠を持ち帰るというサイレントなミッションのはずだった。
しかし、なぜかその場に置き去られていたブーブークッションを俺が踏んづけてしまい、見張りに気づかれちまったんだ。これに関しては俺が100パー悪い。ボブに文句を言われても何も言えねぇ。
でも、その見張りってのがこれまた厄介で。
「チクショウ! なんだこいつらバカか! 強ぇよ!」
見張りのオッサンたちの戦闘力は見張りどころか特殊部隊並みだった。
やってられねえ。
「クソッタレ! 見張りって強さじゃねぇぞコレ! 人数もおかしいだろ!」
「それに装備もな! なんで会合の見張りが全員軽機関銃持ってんだよ! せめて一人にしろよ!」
「それだけならまだいいさ!」
「何が!?」
「戦車来たっぽい!」
「っぽい!」
ドガァァァンッ!
轟音と同時、俺たちが遮蔽物として利用していた建物がぶっ壊れた。
これじゃ狙い撃ちだ。ヤバすぎる。クソ、瓦礫が、瓦礫が頭に当たった。
「もうこれ以上の応戦はムリだ! 川に潜るぞ!」
「それがいい! ほら行けパーカス!」
「なんで俺から!? 俺いま制圧射撃中なんだけど!?」
「ゴチャゴチャうるせーぞ! さっさと飛び込みやがれ!」
「でもまだ装具が……」
「行け行け行け行けェ!」
「ちょっ、待てって……おフッ!」
緊急用の脱出ルートまで逃げて来た俺たちだったが、どういうわけかフル武装で待ち受けていたガチめの部隊に追い込まれてもう限界バトルだった。
ちっとばかし焦っていたんだ。仕方無い。
戦車+機関銃たくさん、歩兵約二百名から逃げるのは至難の業だ。
俺たちは戦車の砲撃から一刻も早く逃れるべく、流れの早い川に飛び込んだ。
その川は、海に続いていた。海に出れば、回収チームと合流できる。何か問題が起きたときのために用意していた脱出経路ってわけだ。
悪くない作戦だった。俺たちは海の男。水の中なら誰にも負けねぇ。窮地に追い込まれたら水に飛び込む無敵のフロッグマン。それが俺たちSEALsだ。
だが俺たちは、ここで重大なミスをやらかしちまった。
パーカスが、まだ潜水用の装備を装着していなかった。
それだけじゃなく、着替えの最中で中途半端なスタイルのまま川に突き落としちまった。
「あーーーーーーッ!! ズボンが膝に! 膝にひっかかった!」
パーカスは泳ぎの名人だ。きっと大丈夫。
そう信じて、俺たちは今できることをやる。
「流れが速いぞ気をつけろ!」
「パーカスは!? あいつジェットスキーみたいに流れていったぞ!?」
「わからん! とにかく合流地点で落ち合おう!」
「ダメだまともに泳げない! みんなボンベは外すなよ!」
「了解!」
「パーカスは!?」
「わからんって!」
必死だった。激流に揉まれ、何度も水を飲み、岩に体を打ち付け、イワナ的な鮮魚も無意識のうちに美味しく頂いちまった。
上下の感覚もない。どっちが水面で、どっちが川底なのか、そしてパーカスがどうなったのか。もう色々とテンパってた。
始めのうちは密集していたメンバーも、しだいにバラバラになって互いの位置を見失っていった。
「おいみんなあれ見ろ!」
「パーカスか!」
「違ぇよ面白いこと言ってんじゃねェ! 滝だよ滝!」
「はァ!? 滝だァ!? ふざけんな! 海に出るんじゃなかったのかよ!」
「すまん一本川間違えたかも!」
「てめぇジョージ! 隊長失格だぞ!」
「お前のせいでいつもこうだ!」
「このクソジョージが!」
俺の名はジョージ・ハワード少尉。このチームの隊長を務めている。
年齢は二十七歳。
特技は狙撃と水中爆破工作。
好きな女性のタイプはウィノナ・ライダーだ。
ウィノナはいい。エイリ○ン4で俺にショートヘアの魅力を教えてくれた女優だ。エイリア○4で水中を泳ぐエイリアンから逃げるシーンがあるんだが、それを見て俺は大人になったらSEALsに入隊しようと思ったんだ。今ならエイリアンも怖くねぇぜ。
そんなこと言ってる場合じゃない。
「ちょっ、滝が!」
そう、滝だ。
しばらく流されたあと、なんとか水上に顔を出すも、流れに逆らうことはもちろん岸に上がることもできやしない。
「ああああああああああああああ!!」
「ウワァァァァァァァァァァァァ!!」
「ノォォォォォォォォォォォォン!!」
それぞれの悲鳴を上げながら、俺たちは仲良く滝壺へ落下した。
ケンカっ早いが情に熱く、それでいて動物が苦手なボブ。
いつもクールで俺よりも隊長に向いてるんじゃないかと思えるぐらい頭脳派のリチャード。
「そんでパーカスはどこ行ったァァァ!?」
それから、何故かいつも左足が捻挫気味のパーカスとの四人で、この滝壺に落ちたのが全ての始まりだった。