再出発と出会い
俺は太陽が沈むまで、ユグドラシルの前で座り込んでいた。
存在が消える。俺はそのことに恐怖していた。
現在午後9時を過ぎたところだろうか。すこし寒くなってきた。
夕方頃に入っていたバイトを俺は無断で休んでいた。たぶん次出勤したらクビになっていることだろう。が、そんなことは関係ない。
選択肢は二つ。借金を消して存在も消すか、存在を消さず借金も消さないか。
2択なのに、2択なのに…。
そのたった2択が俺の人生のすべてを決めることなのだ。
さっきから俺は花びらを一つ一つ摘みながら、「消す~、消さない~」と花びら占いをしていた。
「そんなことで自分の人生を決めるなよ」
頭をド突かれた。上を向くとスールさんがそこに立っていた。
「どもっす」
俺は軽く頭をさげる。スールさんは一息ついて俺の横に座った。
「全く。お前のせいでうちの店の前がゴミだらけだぞ」
下を向くと、俺が摘んでいた花びらが散らばっていた。その量は尋常ではなかった。あとで掃除しておこう。
「何だ。まだ決められないのか?」
スールさんは煙草を取り出し吸い始めた。
「ええ。まだね」
俺はスールさんがいる場所とは逆の方向を向く。商店街の店は閉め切っており、先は真っ暗だった。
「ふぅ~。許してくれよ、令さん」
スールさんは小声で何かつぶやいた気がした。反対方向を向いてるから聞き取れなかった。
「あのな、レオ。ちょっと聞いてくれ」
スールさんの方向を向く。スールさんは真正面を向き煙草の煙を吹いていた。
「今回の存在抹消の件、お前の両親の意向だ」
体がビクッと反応した。
「お前の親が死ぬ数日前にな。私たちの店に彼らは訪れた」
「……そうなんですか」
心拍数が上がる。
「ああ。そしてお前の父親、令さんがな。私を目の前にしてこういったんだよ」
清水 令。俺の父親の名前だ。日本生粋のIT企業に勤めていた。
「『お前たちはこの世界の住人か?』ってな」
スールさんは笑みを浮かべた。
「あれは驚いたな。まさか私の店の住人全員の正体を見破るとはな」
「……それでばらしたんですか?」
「ああ。包み隠さず全部な」
スールさんは小さくなった煙草を握りつぶした。熱くないのだろうか?
「まぁ、少しの時間だったがな。仲良くなれたさ」
まぁ、俺の父親はフレンドリーだからな。仲良くはなるだろうな。
「そこで私の能力も教えた。お前の父親はおもしろがってたな」
スールさんはけらけらと笑っていた。よほど仲が良かったのだろう。
「そこで頼まれたのさ」
スールさんは煙草をまた取り出し、吸って息を吐いた。
「『もし私たちが死んだら私たち家族の存在を消してくれても構わない。借金を消してくれ。その時、俺たちの息子をよろしく頼む』ってな」
え?
「なんでも。お前らの借金はもともと令さんが勤めるIT企業の歴代社長さん達が積み重ね隠ぺいしてきたものだったらしい。それが令さんに引き渡された」
「な、なんで俺たちに……?」
「令さんは人望は確かにあった。が、社長からは嫌われていたらしい。なんでも重要な会議の場で会社の環境についてモノ申したらしい。まぁ、令さんらしいが…」
確かに俺の父さんは正義感は強い。あり得る話だ…。
「その会議は失敗してな。社長さんは相当恨んだらしい」
「はは。父さんらしいです」
「ま、実際その金額は社長にとって払えるギリギリのお金だったらしいがな」
「じゃ、じゃぁ…。なんで払わなかったんだ…よ」
「簡単さ。権力者に必要なのは富と名声。借金を支払うことにより富を失う。そして信頼、名声を失う。もう取り返しのつかなかったんだ」
「そ、そんな……」
絶望。真実を聞かされて俺は心臓が止まりそうだった。
「ま、事故は別に不慮の事故だ。そこら辺は安心してもいい」
スールさんは立ちあがり、服についた汚れを払った。
「私は令さんに頼まれた日からいろいろ準備をしてきた。そして今借金を完全に消す準備も整っている」
スールさんはドアに手をかけドアをあける。仲は明るくほのかに食事の匂いがした。
「令さんの想いを無駄にするな」
「スールさん」
俺は立ち上がった。そしてスールさんの方向を向く。
ユグドラシルは明るく光り、俺を照らしてくれていた。
「もし俺の存在が消えれば、借金はなくなるんですね」
「あぁ」
「俺の父さんは借金を消すことが望みだったんですね」
「あぁ」
「俺には借金を消すことが出来るんですね」
「あぁ」
深呼吸をする。新鮮な空気が心地よかった。俺はスールさんと目を合わせる。スールさんの綺麗な瞳が、俺の眼と重なる。
「お、俺をこの店で働かせてください」
精一杯大きな声を出し、深々と頭を下げる。
目の前にはタイルが広がっている。店の明かりで鮮明にタイルの形が分かる。
頭に暖かい感触が伝った。
「レーヴァ……テイン」
スールさんの声が聞こえる。頭が少しボーとする。
「もういいぞ。頭を上げろ」
目の前には手があった。スールさんは手を差し出してくれていた。
「ようこそ。ユグドラシルへ」
俺はその手をつかむ。暖かく安心する手だった。
「準備をしていたから一瞬で済ませることが出来た。普通なら数日かかるのにな。令さんに感謝だな」
ドアを開ける。そこには普通のレストランが広がっていた。
「まぁ、仕事は明日からだな。そこの階段から3階に上がれ。そこの奥の部屋。それがお前の部屋だ。とりあえず疲れてるだろうからな、寝ろ」
スールさんが指さした先には階段があった。
「スールさんは?」
「私は少しここを片づけていくよ。気にしなくていいさ」
「あっ、ありがとうございます」
俺は一礼をして階段を上がった。
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三階。着いたはいいが、目の前の光景に息をのんだ。
外から見たら普通の家なのに…。
三階に上がると、そこは豪邸の家並に大きかった。
この店の2階より上は店員の寮となっているらしい。2階にはキッチンやら居間やらいろいろあった。3階は廊下があり、部屋がたくさんあるみたいだ。
「ま、異世界な店だからな…。現実を受け止めよう」
俺は一息吐いて、廊下を歩き始める。
なぜか廊下は縦長なのだ。一本道。さらに長い。これを見ると異世界の凄さを思い知らされる。
「一体どんなマジックを使ってるんだろうな……」
現実を受け止めようと思っても、やはり疑問に思ってしまう。
「あ、あそこか」
だんだんと奥に近づいてきた。
すると、
「ふぅ~」
扉が開いた。いや、俺の部屋のではない。一部屋前のだ。
扉には「フレイ」とハートが描かれたプレートがあった。
その扉から現れたのは、赤い長い髪の毛を持つ布生地一枚の少女だった。
少し湯気が出ているところを見ると、お風呂上がりなのだろうか。
目の前の少女は俺を見て仁王立ちしている。が、ハッと気づくとみるみる顔を赤くし無い胸を手で覆い隠した。
「こ~んのぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!」
瞬間、少女の周りに炎の球が出現。
あまりの超常現象に俺は動くことが出来なかった。
「へんたぁいがぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!」
これが俺の再出発と
彼女との出会いの始まりだった。
清水家の借金については今後、外伝として書きたいと思います。
とりあえずレオを店に入らせたかったのでw
できれば感想をよろしくお願いします。
P.S スールさんはメインヒロインではありません