清水怜央の最後の日
俺は箒を持って外に立っていた。
これと言って意味はない。ただボーとしたいだけなのだ。
今日も空は青い。雲ひとつない快晴だ。こういうときは一息つきたいものだ。
そんな思いも後ろから聞こえる声でかき消されていった。
ふぅ、とため息をついて後ろを向く。
「レストラン ユグドラシル」
俺の勤め先の名前であり、すべての始まり。俺はここから全てが始まった。いや、再スタートの方が適切だろう。
今も店の中からはいろんな声が聞こえてくる。
たった一つの俺の居場所だ。
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俺は莫大な借金を抱えていた。
この借金は俺が作ったものではない。親から授かったものだ。
が、決して俺の親がダメな奴だった訳ではない。むしろ人一倍良心的だった。
それが仇になった。ある日俺達一家は騙され高額の借金を背負わされた。俺が丁度高校一年生の時だ。その額も額だったので親戚はだれも取り合ってくれなかった。結局一生をかけて払うことになる。
連続する不運。その一年後俺の親は事故死した。
俺は一人になった。多額の借金を背負って俺は生涯を過ごさなくてはならなかった。
高校を中退、日々をバイトで過ごす日々。青春を謳歌するはずだった俺の高校生活は無残に崩れ落ちた。
これが清水 怜央の物語。
俺は自分の物語がこのまま続くものかと思っていた。
夏の日差しが俺の眼を刺激した。時刻は正午。
俺は公園のベンチに座っていた。昼飯時だというのに俺は何も口にしていない。だが、不思議とお腹は鳴らない。この一週間は昼飯抜きだったので慣れたのかもしれない。
無気力。今の俺の状態。もはや足を動かそうとも思わない。このままベンチで焼き肉にでもされようか。そう思うほど俺は脱力していた。
昼飯を食べたら元気が出るかもしれいな。と俺は思った。
が、自分でどうにかしない限り俺は昼飯にもありつけない。
あー、と俺は死に近い者のそれに近い声を出した。
「全く。そんな声出すんじゃないの」
前方から声が聞こえる。目を擦りながら前を向く。
そこには長い黒髪をポニーテールでまとめた少女、
「おぉ、奈都紀か」
黒崎 奈都紀がいた。俺の住んでいるボロアパートの隣にある高級マンションに住んでいる、俺とは全く別の人種の奴だ。
俺がこの公園でお腹が減って倒れこんでいるところを助けてくれた恩人でもあるが…。恩人というと、いつか借りを返さないといけないという事態になりかねない。借りを返すなど宝くじが当たらない限り俺には無理だ。
「おぉ、じゃないわよ。昼ご飯は食べたの」
「あぁ、食ってねーわ」
「やっぱりね。思ってた通りだわ」
黒崎はなんだかんだで俺のことを気にかけてくれてるらしい。手に持っていったバックからひとつの弁当箱を取り出した。
「いただきます」
「えっ?あなたのじゃなくて私のよ」
黒崎は弁当を開けて食べだした。ちなみにから揚げ弁当。俺の大好物だった。
「なんだよ。からかいにきたなら帰れ」
「ふふ。嘘よ。ちゃんとあるわ、あなたの分」
ほらな。黒崎は本当に出来た子だった。別に俺が育てたわけじゃないが。
「おう、サンキューな」
「えぇ」
俺は黒崎が作ってくれた弁当をむさぼった。一方黒崎は上品に一口一口丁寧である。
「そういえば学校はいいのか?」
「今日午前中で終わったの。だから来た」
「ほう。お前の学校に感謝だな」
そんな何気ない会話をしながら昼飯にありつく。普通の高校生から見ると普通の光景かもしれないが、俺にとっては高級フランス料理をありつくのと同じだ。
「ふぅ。ごちそうさま」
楽しい時間とは早く過ぎるものだ。俺は黒崎の弁当を食べ終わった。が、黒崎はまだ半分も食べていない。ここで食べ終わるまで待つのが普通なのだろうか?
「別にいいのよ。私、この公園好きだから」
「と言っても…。一応男ですし」
「男なら目先のことをちゃんとしたらどう?」
正論だった。俺には借金返済という目先の問題がある。
と言っても、今日の昼は特に用事もないので、商店街をうろついて求人広告を漁るだけなのだが…。
「求人広告。自給がいいところ、見つかるといいわね」
「あぁ、心配してくれてありがとう」
本当に黒崎には頭が下がる。俺が普通の高校生だったら、こいつと恋とかするのだろうか?…いや、まず会うことが困難だな。
「じゃ、行ってくる。弁当ありがとな」
「えぇ、頑張って」
俺は走って公園を出た。黒崎はまだ弁当に手をつけてなかった。
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「うーん。特にいいところは無いな」
商店街を一通り回って手に入れた求人広告を設置されているベンチに座って眺めていた。
一枚一枚細かいところまで目を通し今の仕事と比較してみるが、今の仕事の方が良いという結果に至った。
「やっぱ会社に就職とか考えた方がいいのかな?」
やはりアルバイトなどの非正規雇用者よりも正規雇用者のほうが断然いい。が、高校を中退し良い経歴を持っていない俺にとっては就職など夢のまた夢。
「やっぱバイトかー。今のを頑張るかな」
持っていた広告を整えて丸めようとした。
「ん?」
ある広告に目がとまった。他の広告より目立つ黄色で作られた広告。
「こんなのあったか?」
気がつかなかった。というわけでもない。初めこの広告を流し読みした際には、こんな広告は無かった。
「ふ、不思議なこともあるもんだな」
そう言えば全てが丸く収まる。…というわけでもない。
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黄色い広告には地図しか書かれてなかった。
「なんで怪しい広告に書いてる所に行こうとしてんだろうな、俺」
とにかく藁にもすがる思いだったのだ。運が良ければ億万長者になれるかもしれない!?という希望を少しだけだが抱いている。
と、言い訳してみたものの、結局は暇だからだ。
「案外あそこから近かったから安心したな」
地図と言っても幼稚園生が書いたような地図で正直分かりにくかった…。
場所は商店街の真ん中あたり(地図に書いてあった)
「『レストラン ユグドラシル』か…。なんかあやしさマックスなんですけど…」
足を止める。目の前にあるのは、「レストラン ユグドラシル」。
見た目は普通だった。どこにでも見るレストラン。が、4階建てらしい。結構豪勢だった。
「お、おじゃましまーす」
店内もいたって普通。こんなところに努めて未来は変わるのだろうか…。
「あぁ、レオ君ね。はじめまして」
店内に座っている一人の女性。もちろんその人とは初対面だ。俺は女性の名前は知らない。だが、女性は俺の名前を知っている。
「ど、どういうことですか」
女性は煙草をふかしている。だが、店内からは煙草の臭いはしない。不思議なものだ。
というより、さっきから女性は煙草をふかしているだけだ。俺の返答には答えようとしない。
「え…と、すみません。ちょっといいですか?」
「ん?あぁ、そうね」
女性は煙草の火を消して吸殻をゴミ箱に捨てた。
と、思ったらまた煙草を取り出して吸い出した。ヘビースモーカーなのだろうか?というより、食べ物を扱う店として煙草はどうなんだ!?
「うーん、そうだね~」
女性は大きく息を吸って煙を吐いた。
「レオ君」
女性は大きな笑みを作って右手を差し出した。
「君は何を消し去りたい?」
いろいろ作品を考えて投稿して…そして削除して。
やっと案がまとまった。
続けられるよう頑張ります