カイの思惑。
ゴロゴロと暗い空が唸り始めてしまったことに気づいて慌てて涙を止めようと思ったけれど、背中を撫でてくれるカイさんの優しい手がそれをさせてはくれません。
それどころか、私の言葉を正しく理解したカイさんは、穏やかに微笑むととんでもないことを言いました。
「リクに会いたくて沈んでいたのですか・・・。それでは、そうですね。大きな声で泣いてごらんなさい。るうが寂しい気持ちを我慢するのはいけません。リクを思い泣いていいのです。」
「だ、って。ないたら、おそら、ないて。みんな、こまる、ですっ。わたし、がまん、しないと。」
私が泣いたら大災害になりそうだし、それってこの王都だけではなく国中の人が困ると思うのに、カイさんは何ということもないという表情です。
「るうが少しくらい泣いてもみんな困りません。むしろるうが生まれる前の方が災害レベルで大変でした。るうがこの世界に来てくれたことで、とても安定しているのですよ。なので、ちょっとやそっとの雨くらいでは何とも思いませんから安心してください。」
「っ。で、でも。びっきゅりで、なみだ、とまった、です・・・。」
そう言うと、カイさんは可笑しそうにクスクスと笑って、また優しく撫でてくれました。
「それではリクは会いに来てくれないかもしれませんね。」
「え・・・っ!?り、りくさん。あ、あえない、ですか?」
カイさんは私の目をじっと見ながら『そうですね』と言いました。
リクさんとずっとずっと会えなくなるかもしれないと思うと、私の目からはまたぽたぽたと涙が零れ落ちましたが、今度は声も我慢できなくなります。
「そ、んな。や、です・・・。ふぇ、うぅぅ・・・。りくさ、あい、た・・・。」
「そんなにリクに会いたいのですか?私やナミがいるでしょう?リクに会えなくなっても問題ありません。」
「や、いや、です・・・っ!りく、さん。あえない、やああっ。ふぇええんっ。」
突然カイさんがそんなこと言うものだから、思わずカイさんの胸に手を置いてぐいっと押して体を離した私は、思わず声を上げてしまいました。
すると、大きく外がピカリと光ったかと思ったら、大きく雷が鳴ります。
ピシャっ。ゴロゴロっ。ドーンという、大きな音に肩が跳ねてしまって、元々雷も苦手だったこともあって身体の震えがとまらなくなりました。
ガクガクと震えだした身体よりも、大きく鳴り響く雷鳴よりも、リクさんにもう会えないかもしれないことが何よりも悲しくて、寂しくて、声にならない泣き声を上げて、視界さえ滲んで目の前のカイさんの表情さえ見ることが出来なくなりそうになった時、大きな音と共に扉が開くと、燃えるような赤が飛び込んできます。
その赤が、ずっと会いたかったリクさんの髪の色だと気づいた時には、涙でぐしゃぐしゃになった顔で両手を広げて求めていました。
「るうっ!何があったっ!?痛いのか!?何された!?誰が泣かしたんだっ!?」
「ふぇぇ・・・。り、りくさんっ。あい、あいた、かっ・・・。うえぇぇんっ。」
カイさんから私を奪い取るように、けれどとても優しいその腕で抱き上げてくれたリクさんは、私が潰れないように気をつけながらも、きゅっと抱きしめてくれました。
「っ。俺がいるっ!大丈夫だ!!おい、カイ!お前がついていて、何でるうが泣いてんだ!?何があった!?事と次第によっちゃあぶん殴るからな!?」
「やっと来たかと思えば一言目がこれですか・・・。まったくもってどうしようもない人ですね。」
先程まで困った顔でリクさんに会えないと言っていたカイさんは、今度はほっとしたように、そして呆れたお顔でリクさんを見ていました。