無実ですよ?
痛む顔にきゅーっと目を閉じて耐えていたら、どうやら私を抱き上げてくれているシリーさんがオロオロした様子でしたが、ナミさんとバルさんが駆けつけてくれたようです。
痛む場所をシリーさんのお胸に押し付けて耐えていると、シリーさんの静かで、それでいて冷え切った声が聞こえました。
「ルナー様の侍女殿と護衛騎士がついておられるのに、どうしてこんな事態になっていらっしゃるのですか?」
「っっ!申し訳ございません・・・。るう様。お怪我は・・・。」
シリーさんに、私がいたずらを思いついたからだと、ナミさんやバルさんが悪いわけではないと伝えたいのに、痛みは一向に引いてくれません。
シリーさんー。ほんとにナミさんたち悪くないんだよぉ・・・。
それにここの地面、コンクリートみたいな、石作りの廊下のはずなのに、なんでそれ以上に痛い気がするのはどうしてでしょう。ハンマーで殴られたみたいに衝撃が強くてまだじんじんします。
ここの世界の人たちは皮膚も硬いし体の作りが丈夫だから、建物や廊下もそういう造りなのかしら・・・。
いつまでも治まらない痛みにぐしぐしと泣いていた時、シリーさんが私のお顔に片手をかざしていますが、何しているのかさっぱりです。
「っ!?・・・侍女殿。ルナー様の専属医師はアル様でしたか?」
「?。はい。そうです。ま、まさか。お怪我をっ!?すぐにるう様のお部屋にお呼びいたしますわ!」
「ええ。お願いします。護衛殿は私について来てください。ルナー様から離れるわけにはいきませんでしょう?お部屋に案内してくださいますか?」
「はい。承知致しました。」
シリーさんは次々と指示を出すと、片手で私の頭を撫でてくれました。
まだヒリヒリと痛む顔から少しだけ手を離して見上げると、困ったように眉を下げて『痛みを取って差し上げられず申し訳ございません』と謝ってきましたが、転んだのは紛れも無く私のせいですよ?
「ひっく・・・。しりぃ、さん。わたし、ころんだ。ひとり、わるい、わたし、です。」
「いいえ。こういった事態を想定出来なかったのは護衛殿や侍女殿です。ルナー様への配慮を怠ったのが原因です。」
そ、そんな!このままではナミさんやバルさんが怒られてしまうんじゃないですか?!
私の勝手に思いついたイタズラのせいでそんなことになっちゃったら駄目です!
「わりゅ、わるい、わたしっ。だめなの、るうっ。ばるさん、なみさん。ちあう、ですっ!」
「・・・。ルナー様はお優しいのですね。分かりました。ですからそのように責めるような目をしないでください。私が傷ついてしまいます。」
「ぁ・・・。ご、めなさい。しりぃ、さん。」
ナミさんたちの無実を訴えたら、シリーさんがなんだか落ち込んでしまいました。うぅ、どうしましょう。
責めるつもりは全然なかったんですけど、シリーさんがバルさんやナミさんのせいだって言うから慌ててしまいました。
もしかしたら、言葉がうまく出てこなくてそのせいで誤解されてしまったのかもしれません。言葉大事、気をつけます。
そんなことを思っていたら私の部屋に向かうとシリーさんは歩きだしました。
シリーさんの肩口からバルさんはちゃんと来てくれているのかなと覗いてみたら、バルさんは自分のお胸に手の平を当ててぼんやりと私を見ていて、ハッと慌てたようにシリーさんの後ろに追いつくとぽそりと呟きました。
「るう様が、俺を庇ってくれた・・・。ハッ。私私私!」と・・・。
庇うも何も、バルさんは無実です。むしろ休憩中のところに突撃したのは私ですから被害者ですよね・・・。
バルさんはキラキラした表情で感動しています(笑)