1日の終わりは。
結局あの後に用意してもらったごはんは食べることができませんでした・・・くすん。
この世界のお料理がどんな物なのか興味はありましたが、ぽんぽこりんなら仕方ありません。
それにしても・・・。
大人だと伝えたにも関わらず、結局リクさんもカイさんも、私への扱いは変わりませんでした。
ですが、ナミさんは流石は大人の女性です。
夜になってリクさんが私を抱き上げて『ルナーであるるうを風呂に入れてやるのも守人の俺の務めだ』というわけの分からない主張をしてお風呂に向かおうとしたのを『お戯れが過ぎますよ』と一刀両断してくれたのですよ。
その後は、やたらと深いお風呂に心配したナミさんが、1から10までお世話してくれました。
恥ずかしいお話ですが、もう言葉のまんま、丸洗いされたわけですが・・・。
一応、生まれたてなので疲れていたのか、やたらと可愛らしい広いお部屋に案内してもらってすぐ、これは譲らないというリクさんに髪を乾かしてもらっている最中に夢の世界に旅立ってしまいました。
***
るうが生まれて半日が経った。
一見、細く小さく幼子のような見た目だが、るうはこれで成人していると言っていて驚いた。
確かに、今までに現れたルナー達はどんな姿であれ成人していたのだ。
例外なルナーなのだと信じて疑わなかった俺もどうかと思うが、結局は俺から見れば可愛いルナーに変わりはない。
風呂には俺が入れて世話してやりたかったが、ナミに阻止されてそれも叶わなかった。
流石はカイの姉といったところか、丁寧な口調とは裏腹に、黒い部分も見え隠れしていて、姉弟揃っていい性格をしている。
るうの髪を乾かすのだけは譲れないと奪い取った役目だったが、なんだこの細く柔らかな髪は・・・。
るうはどこもかしこも繊細だと思った。
火竜族の俺は、熱した空気を作り出すのはお手の物だから、るうが火傷しないように細心の注意を払いながら乾かした。
気持ちよさそうに目を閉じて、俺の起こした温風を受け入れるるうが愛しく思えたんだ。
「よし。乾いたぞ。気になるところはあるか?」
「・・・・。」
声をかけてみたが、反応がない。
もしや、どこか気に入らないのだろうか?
出来る限り優しく風も起こしたし、熱過ぎないようにしたつもりだったが・・・。
「るう?もしかして、火傷させてしまったか?どこが痛む?!」
慌てた俺がるうの顔を覗きこんで、一瞬にして張り詰めていた緊張が緩んでしまった。
「・・・くぅ。」
「ふ。なんだ、眠っていたのか・・・。仕方のないルナー様だよ。」
るうを抱き上げてベッドへ移動しようと動き出した時。
コンコン。
ゆるゆると口元が緩んでいくのを耐えていたら、ノックが聞こえた、危ない。
「私です。入ってもよろしいですか?」
「ああ。カイか。入ってこいよ。」
ガチャ・・・。
トレイに何かを乗せて入ってきたカイは、俺がるうを抱き上げているのを見て、眉を寄せたのを俺は見逃さなかった。
それにしても、いつも笑顔の仮面を貼り付けているカイにしては珍しい反応だ。
「それで、わざわざるうの部屋まで来たのには理由があるんだろう?」
「あ、ええ。るうの当面のことについて、少しお話しておこうかと思ったのですが・・・眠ってしまわれたのですね。」
ハッと我に返ったらしいカイは、いつも通りにっこりと笑って言っているが、黒いオーラは隠せていないぞ。
「ああ。髪を乾かしていたんだが、いつの間にか眠ってしまった。別の部屋で話そう。」
俺はるうを揺らさないように注意しながらベッドに横たえるとシーツをかけてやると、るうの柔らかで軽い体はベッドにフワリと沈み、ふるりと長い睫毛が震えて、起こしてしまったかと思ったが、そのまま穏やかな寝息が聞こえてきてほっとした。