悪夢再来。
朝食を終えて王都までへの順路や次の宿泊予定の町の事をリクたちが話し合い、いよいよ出発の予定時間が迫っていた時、宿屋の前であの狼族のレンとランがカイにだっこされていたるうの傍まで走ってきました。
「もう行っちゃうんだな。ま、またさ。遊んでやってもいいぞ。」
「るう。元気でね。ここに来た時には絶対絶対ぜーったい声かけてね?」
「れんくん、らんちゃん。ありがと、です。きっと、あいに、きます。」
せっかく仲良くなれたのにと残念な気持ちと、また来てもいいと言ってくれるレンとランの言葉を聞いて嬉しい気持ちになります。
籠に乗り込み動き出してもレンとランは宿屋のご主人たちと並んで手を振り続け、るうも大きな籠の高い位置から見えなくなるまで手を振り続けたのでした。
「いいお友達が出来てよかったですね。」
「っ。は、はいっ。さでぃ、さん、いがいで。こどもで、はじめて、おともだち、です。」
ふにゃりと笑ったるうに和みつつも、一番忘れていいサディの名前が出ると、カイとリク、そしてアルまでもが顔を顰めました。
「まあ。サディのことは置いといて、次の町は港町になる。貿易が盛んな大きな町でいろんな物が見れるぞ。」
「リクくん。今回の滞在は夕刻に到着して次の日の朝にはもう発ちます。あまり時間は取れないかもしれませんよ。」
リクの言葉にるうに期待を持たせてはいけないと、アルは困ったような顔をしましたが、リクはニヤリと笑うとるうの頭を優しく撫でました。
「あの港町は眠らない。夕刻に着いても祭りのように露店も出ているしな。少しの時間でも楽しめるだろう。」
「わぁ。たのしみ、ですっ。」
「そういえば、るう。日持ちする甘味を作ったと詰めていたバスケットはどうしたのです?」
カイは周りを見渡して、やはり無いなとるうに問いかけましたが、その答えに近くに控えていたバルが答えました。
「あのバスケットはるう様のご希望で宿屋の主人にお渡ししました。あの狼族の子供たちと朝会えないかもしれないからと、宿屋の主人に託し、子供たちへの贈り物にされたのです。・・・結局見送りに来られましたので手渡すことが出来ず、申し訳ございませんでした。」
「ああ、そうだったのですか。残念、私も食べたかったです。」
「ご、ごめん、なさい。また、つくる、ですから、たべて、くれますか?」
「いいのですよ。子供たちが喜んでくれるといいですね。次は楽しみにしています。」
カイが微笑みながらるうの顔を覗き込むと、るうはふにゃりと笑ってコクコクと頷き、そういえばと籠の中を見渡してから、何やら乗り込んだ時とは違うことに気づきました。
「う?あ・・・。」
「・・・?るう?どうした?」
リクがるうの様子が変わった事に気づくと、るうの視線を追って『嘘だろ』と眉間に皺を寄せる羽目になります。
「やあ。るう♪待ちきれなくて言葉通り飛んできちゃったよ。動いてる物に転移するのは初めてだったけどうまくいったねー。」
「「サディっっ!?」」
護衛騎士たちも驚いたようにサディを凝視しましたが、以前1週間ほどの間、サディが騎士団で自由奔放に対魔法用の訓練室などで魔法の組み換え実験などを行って部屋まるごと吹っ飛ばしたりして後片付けに追われたりした日々を思い出して、目が合う前に瞬時に逸らしたのでした。