ルナーは鳥じゃないの?
不思議そうに耳を伏せたまま、どういうことだと語る双子の母親の瞳は困惑の色が浮かんでいました。
「るう様が、そちらのお子たちと夕食を取りたいと仰られておられます。如何でしょう?もちろん遅くなるようならお送り致します。」
「え、ええ。そんな。ルナー様と・・・。ご迷惑ではありませんか?お恥ずかしいお話ですが、この子たちはマナーを知りません。ルナー様に失礼なことをしてしまうかと・・・。」
「お母さんっ。俺、るうともう1回会いたい!」
「私も!いいでしょ?るうとお話するとなんだかぽかぽかするんだよ?」
母親は子供たちがルナーであるるうの事を呼び捨てで呼んでいることにもペコペコと頭を下げましたが、子供たちはるうと会いたくて仕方がないようでおねだりし続けました。
「も、もし失礼な事をしてしまいましたら早々に放り出してしまって構いません。本当にルナー様と共に夕食だなんて、とても光栄です。ありがとうございます。」
「ははは。畏まらずともるう様は寛大なお心をお持ちのとても素晴らしい方だ。るう様も子供たちともう一度話がしたいと言っていた。それじゃあ、そこの・・・。」
「レンだよ!」
「ランですっ」
「ああ。レンとラン。るう様がお待ちだ。そろそろ向かおうか。」
「「うんっっ!いってきますっ!!」」
バルとログは双子の狼の子供、レンとランを連れてるうたちの待つ宿屋へと足を向けました。
その道中、レンとランは自分の母親があんなに恐縮しているのは初めて目にしたと言います。
「ねぇ。ルナー様ってあの御伽噺おとぎばなしの絵本に書いてあるルナー様?」
「るうがルナー様って本当?絵本のルナー様は鳥さんだったよ?るうにも翼が生えるの?おじさんみたいに背中に羽はなかったよ?」
「毎回ルナー様は別の姿でお生まれになるそうだ。俺は、俺の護るルナー様がるう様で良かったと思っているよ。」
ログが目を細めてあの小さな幼子を思い浮かべ幸せな気持ちになっている足元で、レンとランは『ふーん?』と不思議そうに見上げました。
その隣りでバルは、あまりにも静かで穏やかで子供らしくないるうのことを思い出して、あの幼子はどんなに大きな天命を背負っているのだろうと考え、やり切れない気持ちを抱えて静かに空を見上げたのでした。
宿に到着した4人が大きな宿屋の1階にある食堂に入ると、机を何個もくっつけたたくさんの椅子が並ぶ奥にレンとランを座らせます。
バルが到着したことを知らせに行くと、数分後にリクにだっこされたるうがカイとアルと共に階段から降りてきて、それを目にしたレンとランは嬉しそうにぶんぶんと尻尾をぱたつかせたまま大きく手を振りました。
それに気づいたるうがほにゃりと笑顔になり、嬉しそうに何度もパタパタと手を振り、苦笑いしながらリクたちはその双子たちへと足を向けます。
「るうっ。げんまん守ってくれてありがとっ!」
「ごはん、一緒に食べられるの嬉しい!るう、ルナー様だったなんて知らなかったの。」
2人の言葉に何度もコクコクと首を縦に頷いたるうは、ランの言葉に申し訳ないと感じて眉をへにゃりと下げました。
「ごめん、なさい。おともだち、なりたかった・・・です。」
「んーんっ。いいよ。俺たちもう友達じゃん!」
「そうだよ。私もるうともう仲良しなんだからね。」
「あり、がと。」
周りから見れば小さな子供2人が更に小さな幼子を構い倒しているように見えて和むのですが、るうからすれば対等、否、自分より【年齢的に】小さな子供が懐いてくれているように感じて心の中で『可愛い!』と悶えていたのでした。