逞しい世界の子供たち。
少年の名前はレン、少女はラン、2人は小さな小さなるうをとても珍しそうに見つめます。
護衛としてついてきたバルは心配でハラハラですが、るうが降ろしてほしいと言うので仕方なく頷きました。
そしてるうの邪魔にならず、尚且つすぐに駆けつけられる距離を取りました。
心の中は先ほどのカイの言葉がグルグルと頭の中で回っていて、気が気ではありません。
「俺たち今から町の北側にある湖に遊びに行くんだ。るうだっけ。お前も行くか?」
「お父さんかお母さんに言っておいでよ。一緒に行こ?」
「みずうみ、いきたい、です。えと、ばるぅ。いい、ですか?」
るうがバルのところへトテトテと歩いて行くと、バルはるうを抱き上げて片腕に乗せて頷きました。
「じゃあ行こうぜっ。ってお前、保護者付きか?」
「ばる。ひとりで、あるける、です。」
「るう様、いけません。るう様はまだ距離のある場所へは1人で移動することが出来ません。体力的にも狼族の君たちについて行けないでしょう。」
「ふーん。るうは体が弱いのね。じゃあ私とレンについて来てね。」
言うが早いか、レンとランは両手足を地面につけると駆け出しました。
「るう様。しっかり摑まっていていてくださいね。彼ら狼族はとても足が速いのです。」
「は、はい。すごい、ですね。もう、みえない、です。」
バルはきゅっとるうを抱き込むと、背中の大きな翼を広げて羽ばたかせ加速してレンとランの後を追い、その速さにるうは首を竦めてバルに身を任せました。
あっという間に湖に着いたのですが、湖が近づいてもレンとランはスピードを緩めようとはせず、その勢いのまま湖に向かって突っ込んでいきます。
目を丸くして驚いたるうがバルの首ににしがみつくと、バルは手前で失速、レンとランはもちろんその勢いのまま湖にダイブしました。
2人分の水しぶきが上がった湖を呆然と眺めて、るうは湖とバルを交互に見ると、バルは苦笑いして未だに強張った体で首に抱きついているるうの腕を優しくトントンと跳ねるように撫でて大丈夫だと促しました。
湖の中からはレンとランが蹴り上げた、どう見ても肉食だよね?そうだよね?と言いたくなる巨大な魚らしき生物が真上へと撃ち上げられ、大きな水しぶきの中で2人の狼族の子供が襲ってくる魚相手に甲高い声で笑ってはしゃいでいる声が聞こえました。
少しするとレンとランが湖の淵まで泳いで戻ってきて、よいしょと一声上げながら上がり、フルフルと体を震わせて毛皮についた水気を飛ばしてからるうとバルの元へ歩いてきます。
「水の中、気持ちいいぞ?泳がないのか?」
「そうだよ、るう、おいでよ。気持ちいいよ?一緒に泳ごうー?」
2人はバルの足元でバルにだっこされているるうを見上げてぴょんぴょこ跳ねましたが、そこで困ったのはるうではなくバルでした。
狼族の子供たちの遊びはいささか特殊だということを忘れていたバルは、どうしてこの子たちの遊びにるうを連れて来てしまったのかと後悔します。
この世界の子供たちは種族によって異なりはあれど、そう、一言で言うと丈夫なのです。
生まれたての赤子でさえも、きっと今のるうより肌も堅く、寒さにも暑さにも強く、多少乱暴に扱っても怪我などしません。
「あ、あの。さっきの、おっきいの、おさかな、ですか?」
「え?ああ、そこらじゅうの深い川とか湖にいるぞ?噛み付いてくるけど慣れれば面白いぞ!撃ち上げて落とすと更に暴れて向かってくるんだっ。」
「食べることもあるよ?あんまり美味しくないし、お肉の方が好きだけど!」
2人の逞しい子供にるうは驚き、バルはため息をついたのでした。