忌み子。
バルにだっこされて階段を下りていたるうは、近くなったバルの顔をじーっと見上げていました。
濃い茶色の長い髪に前髪に片目が隠れてしまいそうですが金色の瞳に少しつり気味の涼しげな目はクールビューティーといった感じです。
本当にこの世界の人は整った顔をしているんだなぁ……なんて考えていると、じっと見ていたことに気づいたのかバルがチラリとるうを見下ろしました。
「るう様?俺の顔に何かついていますか?」
「め、わるく、なる、です。」
るうはバルを心配して片目にかかる前髪に触れると、バルは息を飲んだ後、慌てて顔を逸らしてるうの小さな手から逃れました。
チラリと見えたもう片方の瞳は金色では無く、とてもとても澄んだ水色の瞳です。
バルはるうが目を見張って見上げていることに気づくと、見られてしまったのだと悟りました。
「っ!も、申し訳ありません。ルナー様であるるう様に、御目汚しを……。」
「おっど、あい?とっても、きれい、です。」
「っ!?」
この世界で瞳の色が違って生まれてきた子供は、呪われた忌み子とされてきました。
半分の瞳は両親どちらかの瞳の色を受け継ぎ、もう片方の瞳の色は両親どちらの色でも無いということもあり、瞳の色が違う子は、半分は悪魔に魂を縛られたとされていました。
バルはオッドアイという言葉は聞いたことがありませんでしたが、自分の忌まわしい瞳を綺麗だと言った小さな幼子に驚き、そして自分の心が歓喜していることに気づいて、言葉を失ったのです。
「……気味が悪いとは思わないのですか?」
「う?きれい、です。うらやましい、です。」
ふにゃりと笑ったるうに、バルは力が抜けるのを感じましたが、眉を下げて目を細めて泣き笑いのような情け無い表情になっているのだろうと自覚しながらも微笑みます。
それからは言葉を交わすこともありませんでしたが、その雰囲気はとても柔らかなものになっていました。
宿屋から出ると、入り口近くで10歳を過ぎたくらいの少年と少女が話をしながら待っていて、るうとバルに気づくと、少し冷たく見えるバルをチラチラと窺いながらも近づいてきます。
どうやら狼族の子供たちのようで、少年の方は黒い毛皮に耳の内側だけ白い毛があり、瞳の色は茶色、少女は薄茶色の毛皮に青い瞳をしていました。
獣型と人型の中間というだけあって、毛皮とは別に髪があり、顔つきは人寄りですが鼻が狼で、毛皮がありますが手は人のようです。
るうがこの世界に来てすぐに用意してもらったようなアラビアンな格好をしていますが、確かに毛皮で覆われた子供が着ると露出はそれほど感じません。
今は2本足で立っていますが、きっと走ったりする時は、先ほどのように4足ダッシュになるのだろうと想像してしまったるうは、心の中で『可愛い!!』と、ウズウズしてしまったのでした。
「こんちはっ。」
「こんにちは。」
「こ、こん、にちは。」
少年は元気よく、少女はにこやかに挨拶をしてくれますが、獣人の子供というのは人の行動より先に、獣本来の習性の方が強いらしく、少し顔を上げると鼻をヒクヒクと動かしました。
「お前。生まれたてか?ちっちゃいなぁ。何の種族だ?耳も無いし、尻尾も翼も無いし、変なの。毛皮も無いし、魚にしては鱗も見えないよ。なあ?ラン。」
「もうっ。レンったら。そんなこと言っちゃ駄目だよ!お母さんが言ってたでしょ。どんな見た目でも差別しちゃいけないんだよっ。」
どうやらこの2人は双子のようで、るうの匂いを嗅いだ後、言い合いを始めてしまいました。
「こら。お前たち。るう様に向かってなんて口を……。」
「ばる。いい、です。わたし、ふつう、ちがう。わかって、ます。」
バルが少年を叱ろうとしたところに、るうは小さく首を振って平気だと微笑んだのでした。