心の罵倒。
【カイ視点】
るうの手作りの甘味を届けた時、アルやジル、厨房のコックたちは、るうの甘味を口にすると驚いていました。
特に素材の提供をしたクロは、どうやったらあの材料でこんな凄いものが出来るのだと詰め寄ってきましたが、そんなこと私が聞きたいくらいです。
モーウのミルクで作ったあのフヨフヨとした甘味などは、癖もなく、とても美味でした。
そんなことを考えながら馬に跨り、岐路に着いた帰り道、ふと今朝直接渡せなくて申しわけなさそうにしていたるうの顔をよぎる。
「ふぅ……。リクはちゃんと説明出来たのでしょうか。」
昨夜リクと酒を交わしながら話したことで、私の胸の中でも複雑な想いが渦巻いてしまいました。
るうにとって、どう生きていくことが一番いいのでしょう。
守人である私が言ってはいけないのでしょうが、正直な話、生誕祭や式典なんて今までルナーがいなくても行われているのですから、別に今回だってるうが王都に行くことはないと思うのです。
もちろんルナー不在で行った生誕祭は、ルナーが意思疎通出来なかったという理由でしたが、あんなにも小さく柔らかな体のるうにもしもの事があったらと、不安ばかりが胸に渦巻きます。
どうか『行きたくない』と一言……否、そんなことをるうに問うのは愚問です。
るうは快く了承することでしょう。
それならば、私は、私たちはるうの盾となり剣となるだけ。
そう決意を再度固める頃には神殿近くの屋敷まで帰って来ていました。
馬から降りると後ろから、ぱたぱたと軽く幼い足音と共に、鳥の囀りのような可愛らしい声が聞こえてきます。
「おきゃ、おかえり、なさいっ」
「るう。ただいま。そんなに走ってはまた転んで怪我をしてしまいますよ。」
息を弾ませて私の腰に抱き着いてきたるうは本当にそれはそれは可愛らしかった。
そんなに息を切らせてどこから走ってきたのかと思いきや、屋敷の玄関にリクが立っていることに気づいて、あの少しの距離でこんなに疲れてしまうるうに、更に庇護欲が掻き立てられる。
馬の首を軽く叩くと、馬はそのまま自分で馬小屋へ歩き出したのを見届けると、るうをひょいと抱き上げてみました。
大分慣れてくれたようで顔を赤くしつつも、ふにゃりと可愛らしい笑顔になるるうに、私も口元が緩んでいくのを感じながら歩き出しました。
「るう。みんな喜んでいましたよ。それに、とても驚いていました。るうは料理の天才ですね。」
「っ!わぁ。よかった、ですっ。えへへ。」
嬉しそうにコクコクと首を縦に動かするうを心配しながらも、出かける前と変わらないるうの雰囲気に、本当に話は出来たのかと不安になった私は、リクに視線を向けると、リクは苦笑いしながら頷きます。
ああ、やはりるうは快諾してしまったようですね。
予想はしていましたが、るうはきっとそこまで深く考えていない気がします。
ただの儀式や式典だと思っているのでしょうが、きっとるうに、否、るうの傍にいたいと願う私たちにとっても、よくない輩は掃いて捨てるほど出てくるのでしょう。
それならば、その方向でるうを護るだけの話、ですがリク……心の中で言わせて頂きましょう。
どうして食い下がらなかったのですかっ。
この役立たずっ。