早口な独り言。
大量のマカロンとプリンを作った日の夕方は、リクさんとカイさんとナミさん、そしてお屋敷で働いている人たちに食べてもらって、みんなとても驚いてくれました。
特にコックさんたちは、甘味というのはお砂糖のお菓子しか知らなかったらしくて、今度お料理教室をしてほしいとお願いされてしまいました。びっくりです。
次の日の朝、朝ごはんを食べた後、私は大きなバスケットに昨日作ったお菓子を袋詰めしたものをたくさん入れてパタリとバスケットの蓋を閉めて気合を入れます。
今日は騎士団本部にお菓子をお届けに行きたかったのですが、リクさんから大切なお話があるそうで、おつかいはカイさんが行ってくれることになりました。
喜んでくれるお顔、見たかったです。
隣りにはカイさんがいてくれて、お菓子のたくさん詰まったバスケットをひょいと持ち上げて片腕に私をだっこしてくれました。
「それじゃあ行って来ます。るうは屋敷でいい子にしていてくださいね?今日はリクから話がありますからね。」
「はい。おねがい、します。」
門までお見送りをしに出てきたリクさんに私を抱き渡したカイさんは、ふわりと大きな手で頭を撫でてくれます。
「それではいってきます。リク。るうにきちんとお話してくださいね?」
「ああ。分かっている。その菓子割れやすいらしいからな。気をつけていけよ。」
「いって、らっちゃ、らっしゃ、い。です。」
フリフリと手を振ると、カイさんは笑顔でお馬さんにひらりと乗ってから、手を一振りして走っていきました。
籠を使うのは私がいる時だけみたいですね。
私の知っているお馬さんの数倍の大きさはあるお馬さんに軽々と飛び乗れるカイさんは凄いです。
感動している私をよそに、リクさんは私のお部屋に移動してくれていました。
リクさんから見ると小さなソファーに体を沈めると、私はだっこされたままリクさんのお膝の上に横座りになりますが、は、恥ずかしいです。
降りようとしましたが、リクさんはこのままお話をする気満々でした。とほり。
「あーっと。話というのはだな。俺的にはもう少し先でいいと思っていたんだが、そうはいかなくなったんだよな。ああああ……。だがしかし、るうが嫌がるならその言葉が一番力を持つわけだよな。そうだよな。ということで、るうっ。嫌だよな?断っちゃえよ。」
「えと……。あの……?なんの、こと、ですか?」
台詞の大半が独り言のように早口でしたが、リクさんは何のお話をされているのでしょう?
こてりと首を傾げると、リクさんは『やっぱり話さなきゃだめ?』的な雰囲気をひしひしと醸しだしていますが、そのために残ったんですよね?
はぁ……と、ゆっくり長くため息をついたリクさんは、『仕方ないか』と諦めたように説明を始めてくれます。
「いや、実はだな。るうが、ルナーが生まれたらすぐ、本当ならすぐに式典と生誕祭を行うのが決まりなんだが。その、だな。るうは大人だと言っているが、俺たちこの世界の者から見れば生まれたての幼子なんだよ。」
コクコク。
それは思ってましたよ?というか気づいてました。
前世の記憶があるし、前世の姿のままこの世界に来たわけですから、私的には大人なつもりでいましたが、卵から生まれた時点から数えると、今の私は生後数週間、ぎりぎり0歳児ですからね。
あれれ?でも変ですね。
「るなぁ、おとな、ちがうですか?」
「ああ。本来なら成体で生まれてくる。だが誰がどう見てもるうは幼子だな。だから最初は俺たち守人、俺とカイの判断で、成体に育ってから報告するつもりだったのだが、そうもいかなくなってしまった。」
式典……?
生誕祭……?
なんだか大変なことになってきちゃいましたけど、リクさんのお顔は心配そうに歪んでいました。